相続・遺言2024年10月22日 遺言作成方法も多様化 執筆者:亀井真紀
遺言書の主な方式として、自筆証書遺言と公正証書遺言があることをご存じの方は多いと思います。弁護士に遺言書の相談をした場合、おそらく多くの人は形式面の不備がないため、有効性を担保しやすく、公証役場での保管が可能となる公正証書遺言をお勧めされるのではないでしょうか。確かに、自身の財産を誰に譲るかについてのメッセージを確実に残したいのであれば公正証書遺言に勝るものはないと思います。一方、公正証書は遺言の対象財産額に応じて手数料がかかり(数千円から多い場合には二十万円以上にも)、また公証役場に事前相談し、日程調整をして作成する日を決めるなど、それなりの手間と負担はあるものです。
そうであれば自筆証書遺言をと考えたくもなりますが、財産が多くそれぞれ別の人に譲りたい、色々と書き記したいという場合には書くことも多く大変です。世代を問わず最近は手書きをする機会が減少しており、益々億劫に思う方は増えるのではないでしょうか。
そのような中で、令和2年から、自筆証書遺言書保管制度が始まり、ようやく財産目録だけはパソコン等を利用したり、不動産の登記事項証明書や通帳のコピー等の資料を添付したりする方法で作成することができるようになりました(目録の全てのページに署名押印が必要)。当該保管制度を利用する場合は、家庭裁判所での検認手続きも不要となり、相続人らにとっては負担も減ります。ただ、あくまでも遺言書の本文は直筆で記載することが求められており、書面で作成することが前提となっています。ペーパーレスが社会の各所で進む中、ペーパー前提なのです。日常生活において様々電子化、オンライン化がなされ、さらには契約書の作成や行政手続きまでデジタル化されているという近年の流れからすれば、遺言書作成にもさらなる変革が求められるのは自然な流れです。
この点に関し、法務省は本年4月に「デジタル遺言制度」の導入に向けた法制審議会を立ち上げ、法改正の検討を進めています。この審議会では、単に遺言書をパソコン等のソフトを用いて作成する是非や方法のみだけではなく、映像などを用いた文書以外の方式での作成も検討の対象とされています。例えば、自分の財産をどのように相続させるか、誰に譲るかについての意思表示を文字で残すのではなく、録音や録画という形で記録しておくという方法もあり得るということです。勿論、それが実現するかどうかはまだ分かりませんが、民法典で遺言書作成に関する条文が制定された時代にはおそらく予想もできなかった方法が視野に入ってきているのです。
また、直筆ではなくパソコンなどで遺言書を作成するとなると、筆跡による鑑定もできません。本人が実際に作成したということを後にどうやって確認するかということも問題になり得ます。遺言書は遺言者の財産を誰が受け取るのかという非常に大きな権利関係に結び付くものであり、偽造や変造を防止する方策とセットでなければ紛争を誘発することにもなりかねません。審議会では本人の遺言能力の確認方法も含めて、このような不正を防止する方法についても検討がなされています。
さらに、デジタルで作成した遺言書の保管制度も必要かという点も議論されています。遺言書は遺言を残した本人が亡くなった後に意味を持つものですから、まずは残された方が発見し、認識できなければ意味がありません。紛失や探知できないという問題は今の自筆証書遺言でもあり得る問題です。公証役場で保管され、相続人であれば一定の手続きで検索することができる公正証書遺言はこの点一線を画します。それでも紙で作成したものであれば自宅の引き出しや金庫から発見される可能性も大いにあるところ、パソコン等に保存しているだけの場合はさらに発見が難しくなる可能性もあります。本人がログインするためにパスワードをかけていればなおさらです。この点、審議会では、何らかの保管制度を設けた上で保管の申請時に本人確認を行うなどの案も出されていますが、保管を義務付けるか任意にするか、保管の主体をどう考えるか、相続人らへの通知はどうあるべきかなどの様々な論点について検討・議論がなされているところです。自筆証書遺言のメリットでもある手軽さや安価さと作成や履行の確実性のバランスをどのようにとるかがおそらく難しいところですが、今後の議論が注目されます。
(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)
(2024年10月執筆)
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執筆者
亀井 真紀かめい まき
弁護士
略歴・経歴
第二東京弁護士会所属。
平成13年弁護士登録。北海道の紋別ひまわり基金法律事務所(公設事務所)に赴任。
その後、渋谷の桜丘法律事務所(現事務所)に戻り現在に至る。
第二東京弁護士会高齢者・障がい者総合支援センター委員会、日弁連高齢者・障害者権利支援センター委員会等所属。
一般民事・家事、刑事事件のほか、成年後見、ホームロイヤー契約等高齢者、障がい者の事件を多く担当する。
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