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厚生・労働2012年04月23日 震災版リハビリテーション 執筆者:古笛恵子

 東日本大震災から1年が過ぎました。まだ1年、でも、もう1年です。震災とか、地震とか、津波とか、原発とか・・・あの日まで、わかっていたようで何もわかっていなかった、考えていたようで何も考えていなかった、でも、今でも、わかったわけでも、考えているわけでもない、そんな1年のような気がします。
 つい昨日も、緊急地震速報のチャイムとともに、福島浜通り震度5弱とのテロップが流れました。先の見えない不安はまだまだ続きます。

 そんな折、たまたま目にしたのが、福島における震災版巡回型通所リハビリテーションのニュースでした。仮設住宅で避難生活を余儀なくされている高齢者を訪問して、出張リハビリテーションが実施されていたのです。
 ご自身で作られた棒を持ち寄っての棒体操、福島のリンゴでのジャム作り、音楽療法のカラオケ、機能低下を防ぐためのいろいろ工夫されたメニューが紹介されていました。比較的元気な方が多かったためか、高齢者のレクリエーション活動を紹介するニュースのようで、最初から見ていないと、それがリハビリテーションであり、なおかつ、避難所で行われているとは気づかないほどでした。みんなあふれんばかりの笑顔で、イントネーションの違うなまりのはいったおしゃべりも聞こえ、なんだか見ているテレビのこちら側も頬がゆるんでしまいました。
 インタビューに答えた女性は、「楽しかったです。ひとりで家にとじこもっていたので」と答えていました。ほんの短いひとことでしたが、本当に心の底からそうなんだろうなあと実感させられるものでした。

 リハビリテーションの目的は、生活機能の維持、向上、改善といわれますが、「楽しかったです」と喜んでもらえれば、それで大成功なのかもしれません。仕事柄、リハビリテーションの事故を扱うことが多くて、棒が当たったら危なくないかしら、包丁を使って大丈夫かしら、などなど、どうしても慎重に、萎縮的に、安全とか事故防止とかいっただけの発想しかできなくなっていた自分をあらためて反省しました。

 リハビリテーションの事故を扱うときには、いつも日本リハビリテーション医学会診療ガイドライン委員会編「リハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドライン」(2006年 医歯薬出版)を開いていますが、そこでも、「リハビリテーションはハイリスクの分野である」との記述があります。まさに、そのとおりです。何らかの障害があるからこそリハビリテーションが必要である一方、だからといって十分なリハビリテーションが実施されないとリハビリテーションの効を奏することはできません。安全性と効果性の微妙なリスクバランスの上に成り立つリハビリテーションを、法的に捉えることはとても難しいです。みんなが納得できる結論はないのかもしれませんが、法律家に求められる課題のように思います。

 高齢社会を迎え、医療と介護の架け橋でもあるリハビリテーションの重要性は、今後ますます高まっていきます。リハビリテーションの担い手として携わるスタッフ、受け手としての患者さんだけでなく、あらゆる形でリハビリテーションに関わる人も増えていきます。今、みんながリハビリテーションを見直すことが必要なんだと思います。

 久々にずっしりと心に残った震災版リハビリテーションのニュースでした。

(2012年4月執筆)

執筆者

古笛 恵子こぶえ けいこ

弁護士(コブエ法律事務所)

略歴・経歴

(財)日弁連交通事故相談センター 本部・東京支部 委員
早稲田大学大学院法務研究科・中央大学法科大学院 兼任講師
日本賠償科学会 理事、日本交通法学会 理事

〔主要著書・論文〕
「〔改訂版〕事例解説 保育事故における注意義務と責任」(編著・新日本法規・2020.5)
「〔改訂版〕事例解説介護事故における注意義務と責任」(編著・新日本法規・2019.5)
「事例解説 高齢者の交通事故」(編著・新日本法規・2007.4)
「新型・非典型後遺障害の評価」(共著・新日本法規・2005.5)
「交通事故責任と損害賠償・保険・示談Q&A」(共著・日本法令・1999.9)
「損害算定における高齢者の問題点」(賠償科学2006.3)
「交通事故における損害算定上の諸問題」(月報司法書士2006.2)

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