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民事2007年04月10日 高齢者事故における損害算定 執筆者:古笛恵子

 平成18年12月20日に厚生労働省が発表した将来人口推計によると、人口減少社会に突入した我が国の人口は今後も減少し続け、2055年には8933万人まで落ち込む一方、少子高齢化はますます進み、このころには高齢者率は40%を超え、5人に2人が高齢者の社会になると予測されているようです。
 良くも悪くもこれからは高齢者が中心の社会です。少子高齢化という響きがどことなく暗いものであるように、「高齢者=社会的弱者」かのようなイメージがつきまといます。しかし、身近な例をあげますと、私たち弁護士の世界では統計上は高齢者と位置づけられるものの、65歳はもちろんのこと、70代、80代で私たち非高齢者世代以上にご活躍されている先生方がたくさんいらっしゃいます。弱者どころか強者、中心的存在といっても過言ではありません。そうなると、どことなく描いている高齢者像をあらためる必要がありますし、65歳以上を高齢者と捉えること自体、考え直さなければならないかもしれません。
 ところで、医療事故、介護事故をはじめとして、交通事故、スポーツ事故、レクリエーション事故など、高齢者の社会的活動範囲が広がるに従い、高齢者が事故に遭遇する場面が多くなってきます。そのとき、高齢者が被った損害を金銭賠償のため算定する必要があります。
 現在のところ、財団法人日弁連交通事故相談センターが出版している赤い本や青本が基準として大きな役割を果たしています。「逸失利益は原則67歳まで、高齢者の場合は平均余命の2分の1を労働能力喪失期間とする、介護費用は平均余命まで・・」平均余命前に亡くなることもあれば、平均余命を超えて長生きされる方もいるといってもはじまらないのが損害算定です。精神的苦痛に対する慰謝料も、後遺障害等級や亡くなった被害者の属性によって決まってきます。交通事故により高齢者が亡くなった場合、慰謝料は2000万円前後といった場合が多いようです。もっとも2500万円の例もあれば、1300万円の例もありますし、過失相殺や素因減額により受け取る額は少なくなることもあります。
 そもそも事故があった現実において、事故がなかったならば得られた利益との差額を算定しようとする損害算定はフィクションですから、本当のところ、正しいとか正しくないとか簡単に割り切れる問題ではありません。それにしても、死亡慰謝料2000万という数字をどのように受けとめればいいのか、評価は大きく分かれるところだと思います。高齢者にとって2000万円というのは大きな金額のようにも思えますし、生命の価値と言われると少なすぎる気もします。また、死期が目前に迫っている場合の事故死について、事故にあったからこそ2000万円を遺族(いわゆる笑う相続人であればなおさらです)が受け取るというのは割り切れなさが残りますし、一方でわずかな余命、残された大切な時間を奪われたから当然だといえばそのようにも感じます。
 我が国の損害賠償は、填補賠償を趣旨とし、加害者被害者に損害を公平に分担すればいいことは頭では理解できますが、具体的に、公平とは何か、どのような金額こそが公平なのか、常に疑問に感じ悩むところです。
 私たちの社会には、高齢者もいれば、若年者もいます。でも、若年者も高齢者になります。高齢者も若年者でした。被害者もいれば、加害者もいます。でも、被害者もいつ加害者になるかわかりません。よって立つルール、基準は誰にとっても立場を問わず納得できるようにしなければならないところが損害算定の難しさであることを心しながら、被害者代理人もしくは加害者代理人に徹したいと思うこのごろです。

(2007年4月執筆)

執筆者

古笛 恵子こぶえ けいこ

弁護士(コブエ法律事務所)

略歴・経歴

(財)日弁連交通事故相談センター 本部・東京支部 委員
早稲田大学大学院法務研究科・中央大学法科大学院 兼任講師
日本賠償科学会 理事、日本交通法学会 理事

〔主要著書・論文〕
「〔改訂版〕事例解説 保育事故における注意義務と責任」(編著・新日本法規・2020.5)
「〔改訂版〕事例解説介護事故における注意義務と責任」(編著・新日本法規・2019.5)
「事例解説 高齢者の交通事故」(編著・新日本法規・2007.4)
「新型・非典型後遺障害の評価」(共著・新日本法規・2005.5)
「交通事故責任と損害賠償・保険・示談Q&A」(共著・日本法令・1999.9)
「損害算定における高齢者の問題点」(賠償科学2006.3)
「交通事故における損害算定上の諸問題」(月報司法書士2006.2)

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