企業法務2019年10月25日 投資家目線を活かした株主総会 弁護士・税理士 鳥飼重和✕弁護士 島村謙 対談 対談者:鳥飼重和 島村謙
投資家目線活用の本の出版
鳥飼 久しぶりに株主総会の本の企画を立てました。その理由は、株主総会の実情が大きく変わり、上場企業が、機関投資家の影響を大きく受ける少数の大手上場企業と、その影響を大きくは受けない多数の上場企業に二極化しつつある、と思ったからです。
そのため、各々で株主総会の経営面への影響が異なり、その影響の違いを梃子に、株主総会を経営に活かすにはどうしたらいいか、という発想が頭に浮かんだからです。
島村 確かに、昨今、アベノミクスの3本の矢の影響で、上場企業と資本市場の関係が大きく変わってきています。たとえば、議決権行使結果の個別開示の影響で、その経営トップの再任議案にNOの投票をする傾向が顕著になりつつあります。それに加えて、これまで経営陣を守っていた政策保有株式を手放す方向での圧力が強められています。資本市場から経営陣に対するプレッシャー、厳しさが強まっています。
鳥飼 ただ、同じ上場企業といっても、島村さんが指摘している機関投資家の議決権に厳しさを感じている上場企業は、上場企業の中では少数派でしょう。実は、有力な機関投資家が能動的な投資対象にしていない上場企業の方が圧倒的多数、という現実があります。
島村 もう一つの重要な点として、去年のガバナンスコードの改定で、「資本コスト」を踏まえた経営戦略、経営計画という言葉が入りました。本書第1章の鼎談では、投資家の実情に詳しい専門家の方々に登壇頂きましたが、その鼎談でも、経営者が、資本コストや資本効率の視点を持つことが大事なのだという趣旨が、述べられていたと思います。資本コストは、投資家としてはどの程度のリターンを求めているのか、というものなので、これを上回る成果を上げないと、基本的には投資家が離れて株価が下がってしまう。
鳥飼 確かに、そうですね。でも、それに対して自分達は、今の段階ではそこまでの成果は上げていないけれど、将来はこうすることで達成するとか、経営者が自分達の考え方をちゃんと対話路線に乗せていけばいい。
島村 そうですね。投資家の要求に対して受け身だと苦しいですが、要求を理解しつつ、自社なりのちゃんと説得力のあるストーリーがあれば、今は十分じゃないとしても、未来は期待できるかもしれない、と思わせれば、投資の対象になります。もちろん、そのストーリーを実現してゆくことも、とても重要ですが。
鳥飼 他方で、有力な機関投資家が関心を持っていない企業では、「うちは安定株主比率が高いから株主総会対応はそこそこでいきます」という向きが多いと思います。この発想は、経営的な面から見てどうかな、と直感で思ったのです。投資家の目線は、厳しすぎ、自社の経営スタイルに適応しない、と思っている経営者も多いです。しかし、企業の成長という面から、それはもったいないな、と思ったのが、この本を企画した理由の1つです。
島村 鼎談では、企業の規模が小さいうちは、まずは(資本効率ではなくて)売上高重視でよいという指摘もされていました。企業規模の違いによって経営手法も違ってくるということだと思います。
鳥飼 その方向性は正しいと思います。機関投資家は、短期的成長目線の傾向のところが多いですが、少数ですが、長期的成長目線のところもあります。持続的成長を貪欲に求める経営者は、それを参考にしない手はないですね。本書の出版の意味の1つにその点があります。
島村 鼎談でも、もとは中堅企業で、長期的な視点の機関投資家の発想を生かして、企業規模を10倍にした経営者の例が触れられています。経営者は、偏見を持たないで、他の経営から学べるものは学んで自分なりに成長へ応用すべきだという好例だと思います。
この本では、第1章の鼎談で、以上のような内容も含む本音のトークをしてもらいました。企業の経営者にもぜひ読んでいただきたいと思います。
これからの株主総会
島村 今の株主総会の実務は、まだ総会屋が跋扈していた時代から、鳥飼先生の恩師である弁護士の久保利先生や中村直人先生、本書の鼎談者で編著者でもある中西さんらが中心になって作り上げました。
鳥飼 その大きな骨組みが変わるわけではない。ただそれでも、投資家目線を積極的に取り込もうとするなら、株主総会の運営も少しずつ変わるし、あるいは招集通知も工夫しましょうよ、となります。経営者の意識が変われば、質疑応答集の作り方も少し変わってくる。本書の第2章以下では、まだ十分ではないですが、そのためのヒントのようなものを、盛り込んでいます。
島村 昔、平成14年ごろ鳥飼先生が菊池伸先生と出された株主総会の本のはしがきには、「株主総会の準備というのは、結局は、企業実態を改善することであり、それこそが株主総会の準備にほかならない」という趣旨が記載されています。
鳥飼 その点も基本的には変わりません。経営トップ層が、投資家の色々な意見、厳しい意見も含めて取りあげて活かそうとすることによって、更に経営者も成長するし、会社も成長すると期待されるので、株価も上がっていく。厳しいものも受け入れながら、取り入れるものは取り入れる、そこはまだ早ければ早い、ちゃんと正直に対話をした形で信頼を得ながら投資家というものと付き合う、それが必要なんじゃないかな、と。これからは、そういう形での企業実態の改善が、株主総会の準備にも反映されていく必要がある、というのがこの本のメッセージですね。
(2019年5月 TORIKAI TIMES Vol.36転載)
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