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一般2023年04月04日 スポーツ分野での産業競争力強化法に基づく規制改革制度の活用 執筆者:飯田研吾

 平成25年12月、「過剰規制」、「過小投資」、「過当競争」を是正し、我が国の産業競争力を強化することなどを目的として、産業競争力強化法が制定された。
 現在、同法では、事業者単位で個々の事業内容に即して事業化・規制改革を推進するための制度が3つ用意されている。「グレーゾーン解消制度」(同法7条)、「新技術等実証制度(通称:規制のサンドボックス制度)」(同法8条の2)、「新事業特例制度」(同法6条、9条)である。
 「グレーゾーン解消制度」は、事業者が新たな事業活動を行おうとする際に、現行の法規制の適用範囲が不明確な場合に、具体的な事業計画に即して、規制について規定する法令の解釈及び当該法令の適用の有無について、予め確認することができる制度である。事業者が直接規制所管省庁に照会するのではなく、新事業活動を支援する事業所管省庁が事業者と規制所管省との調整等を行うところに特徴がある。令和4年12月末時点で、243件の回答実績がある。
 「規制のサンドボックス制度」は、革新的な技術やプラットフォーム型ビジネス等の新たなビジネスモデルの実用化が現行規制との関係で困難である場合に、これらの新技術等を実用化しようとする事業者が、主務大臣の認定を受けて実証を行い、それにより得られたデータを用いて規制の見直しにつなげる制度である。令和4年12月末時点で29件が認定されている。
 「新事業特例制度」は、事業者が新たな事業活動を実施しようとするとき、規制がボトルネックとなる場合があり、こうした規制の特例措置を提案し、安全性等の確保を条件として、企業単位で具体的な事業計画に即して、規制の特例措置の適用を認める制度である。令和4年12月末時点で16件の回答実績がある。最近、街でよく見かける電動キックボードは、道路交通法上の原動機付自転車に分類され、これを運転するにあたっては、本来、ヘルメットの着用義務があるものの、新事業特例制度により、認定された計画の範囲内であればヘルメットの着用が任意とされている。ヘルメットを着用せずに電動キックボードを運転している光景をよく見かけるのはそのためである。

 筆者は、スポーツ界でも、こうした産業競争力強化法に基づく事業化・規制改革を推進する制度を積極的に活用してもらいたいと考えている。
 過去には、スキーヤー等が雪崩に被災した際に、雪の中に埋もれてしまうことを防ぐスキー用エアバッグについて、起動装置に火薬類を用いるため、かつては火薬類取締法で販売や譲受にあたっては都道府県知事等の許可を得る必要があったが、新事業特例制度の利用により、同法施行規則が改正され、同法の規制(都道府県知事の許可)の適用除外を受けることとなった(平成26年)。このような用具が普及することは、スポーツ事故防止や被害の拡大防止という観点から非常に大きな意味のあることであったといえる。
 また、現在、規制のサンドボックス制度を用いて、ラグビー等の国際的競技力向上を目指したリアルタイムでの採血検査実証の取組みが行われている。同制度を用いることで、当該実証において用いられる測定機器や試薬が、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律が定める「医療機器」や「体外診断用医薬品」に該当しないことや、アスリート自身が行う採血・測定は検体検査を業として行うものではなく、アスリート自身が採血・測定を行う場所については、臨床検査技師等に関する法律に定める衛生検査所としての登録が不要であることが確認された。現在進行形の案件ではあるが、実証の結果によっては、スポーツにおける自己採血検査サービスが事業化され、アスリートの能力やコンディションに関するデータ分析が進み、科学的な根拠に基づいたトレーニングメニューの策定、その先に国際競技力の向上へと繋がっていくことであろう。

 本稿で紹介した産業競争力強化法に基づく3つの制度は、産業競争力の強化を目的としたもので、基本的に民間の事業者のための制度である。こうした民間の事業者による取組みを出発点として、中央競技団体なども巻き込んだ動きとなり、スポーツ界が活性化していくことを期待したい。

(2023年3月執筆)

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