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一般2023年09月13日 中央競技団体の相談・通報窓口の現状と課題 執筆者:飯田研吾

 先日、とある研究会において、国内競技団体(NF)の相談・通報窓口について調査を行ったので、その結果の一部を本稿で紹介したい。
 公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC)の加盟団体(中央競技団体・NF)55団体及び準加盟団体5団体の合計60団体1について、各団体のWebサイトを確認し、以下の項目について調査した。

 ①通報窓口の有無
 ②通報の受付窓口の所在(誰が受け付けるか)
 ③通報の方法(メール、電話、FAX、専用フォーム)
 ④匿名通報の可否
 ⑤窓口利用者の制限の有無(本人に限られるか)
 ⑥窓口利用者の資格制限の有無(代理人、資格の有無、保護者)
 ⑦対象となる行為
 ⑧対象となる行為者

 まず、通報窓口の有無(上記①)については、図1のとおり、55団体(92%)が設置していた。スポーツ団体ガバナンスコード(中央競技団体向け)2の原則9において、通報制度を構築することが求められているため、このような高い数値になったのではないかと思われる。一部、設置しているのか分からない(少なくとも利用者目線では設置していることが分からない)団体や設置されていない団体が4団体(7%)あり、早急な対応が望まれる。また、実際にすべての団体のWebサイトを確認して感じたのは、通報窓口が設置されているのかどうか、非常に分かりづらい団体が多いことである。いわゆるTOP画面にタブが作成されている団体は少なく、いろいろなページを開いて隈なく探してようやく見つかったり、いわゆる「問い合わせ」フォームが通報窓口を兼ねていることもあった。既に通報窓口を設置している団体についても、利用者がアクセスしやすいよう設置の仕方を工夫する必要があると考える。

 続いて、通報の受付窓口の所在(誰が受け付けるか、上記②)については、図2のとおり、競技団体内部の機関が受け付けている、あるいは利用者側からは分からない(不明)というのが実に60%に及んだ。通報を受け付ける者が当事者や関係者である可能性も否定できず、利用者(通報する側)とすれば、通報を誰が受け付けるのかというのは、非常に重要である。他方、競技団体側としては、基本的に通報窓口は常時受け付けをする必要があり、そのような対応を外部に委託するということになれば、相応の費用負担が生じる。予算規模が1000万円に満たない競技団体がある中で、自前で外部へ委託することは難しいという事情も理解できなくはない。
 こうした競技団体の実情をふまえたときに、よりよい制度にするための方策として考えられるのは、一つは、各競技団体が利用できる共通の外部通報窓口を設置・運営するという新たな枠組みを作る方向性であり、もう一つは、通報窓口の運用は各競技団体に任せるという現在の枠組みは維持しつつ、各競技団体に対して必要な情報や知見を提供する(場合によっては当該分野の知見を有する人的リソースを提供する)という方向性である。
 前者については、誰が設置・運営するか、その費用負担の問題が大きな課題となることは想像に難くなく、まずは後者の方向性で全体の底上げ図りつつ、新たな枠組みを模索するというのが現実的ではなかろうか。

 最後に、匿名通報の可否(上記④)である。
図3のとおり、匿名を認めない、あるいは匿名を認めているかわからない団体が半数を超えていた。
 一般に匿名通報を認めない理由として、匿名のままでは調査が進められない、いたずらや本来の目的とは異なる通報が増える、行為者(処分対象者)の防御権の行使の妨げになる、などが言われている。
 しかし、匿名であることにより調査を進められないとしても、名前を明らかにして調査を進めてもらうか、匿名を維持してできるところまで調査を進めてもらえばよいとするかは、通報者が選択すればよいことであるし、行為者(処分対象者)の防御権の行使についても、どこまで調査を進めるかの問題に収斂されるであろう。匿名によるいたずら等のリスクも、通報内容や証拠の有無により一定のスクリーニングはかけられるし、現状、匿名相談を認めることによりいたずらなどで困っているという話は、私の知る限りで聞いたことはない。
 一方で、匿名で相談したいというニーズは多く、調査により処分に至らなくても、通報することで一定の解決を得られるケースも存在することを考えると、匿名通報を認めていない競技団体においては、匿名通報を可能とする運用をぜひ検討してもらいたい。

 2013年、スポーツ界における暴力、暴言、ハラスメント等の不適切な行為の根絶に向け、JOCや公益財団法人日本スポーツ協会(JSPO)、公益財団法人日本パラスポーツ協会(JPSA)といった統括団体5団体による「スポーツ界における暴力行為根絶宣言」3が発出され、様々な取り組みが行われてきた。その過程の中で、前記のガバナンスコードが策定され、通報窓口も整備されてきたわけだが、現在もなお、スポーツにおける不適切行為が後を絶たない。
 安全・安心なスポーツ環境の実現に向け、スポーツ庁、JOC・JSPO・JPSAといった統括団体や各中央競技団体が連携・協力し、通報窓口の機能を充実させ、実効性を高めていく取り組みを進めていくことを期待したい。

(2023年8月執筆)

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