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一般2021年05月27日 指導者による暴力等の根絶と処分歴 執筆者:飯田研吾

1 なくならない指導者による暴力・ハラスメント

 先日、東京オリンピックに出場予定の植草歩選手による、指導者からのハラスメントに関する告発のニュースに接した。その後の全日本空手道連盟からのリリース(2021.3.31)によると、指導者による竹刀を用いた練習を行い同選手が目を負傷した事実が認められたとのことである。現役のそれもオリンピック出場予定選手による、このタイミングでの指導者からのハラスメントの告発ということも衝撃的であるが、未だに指導者による暴力・ハラスメントがなくなっていないのが現実である。
 さて、今回は、指導者による暴力・ハラスメント(以下「暴力等」)の防止・根絶という観点から、指導者による暴力等に関する処分歴の公開について、考えてみたい。

2 処分事例の公開と過去の処分歴

 国内競技団体(NF)においては、指導者の暴力等を含め、競技者や役員などの不祥事について、当該団体で処分を行い、一定の基準に基づいてその処分事例を公開している例も多い。これは、ステークホルダーに対する説明責任を果たす意味はもちろん、新たな被害発生の防止、違反行為を未然に防止するための一定の抑止力となることを期待していると考えられる。
 他方で、こうした処分の事実は、犯罪歴に類似したプライバシー情報ともいえ、そもそも実名を上げて対外的に公表することが妥当なのか、公表したとして、いつまでも公表する(誰もが当該情報にアクセスできる状態にしておく)ことが妥当かどうか、という点は問題となり得る。
 また、指導者による暴力等による過去の処分歴については、NFとして自ら処分した事案については管理しているとしても、例えば、同じ競技であっても処分主体が異なる場合などは、処分事例が共有されないこともあり、スポーツ指導者の処分歴について横断的に確認することは難しい状況にある。

3 教育職員免許法施行規則等の一部改正

 こうした中で、本年3月に、大変興味深い法令の改正がなされた。教育職員免許法施行規則等の一部改正である。これは、近年、わいせつ事案などで教員免許を失効しても、その情報が官報に掲載されていない事例が相次いだことなどを受け、わいせつ行為等を含めた懲戒免職処分又は解雇の理由の主な類型等を教員免許状の失効又は取上げにかかる官報公告事項として規定し、教員採用権者における適切な採用選考に資することを目的としている。処分理由の具体的な類型は、①18歳未満の者や勤務する学校に在籍する幼児、児童若しくは生徒に対するわいせつな行為又はセクシュアル・ハラスメント、②わいせつな行為又はセクシュアル・ハラスメント(①以外)、③交通法規違反又は交通事故、④教員の職務に関し行った非違(①~③以外)、⑤その他(①~④以外)である。
 かかる改正にあたっての意見公募(パブリックコメント)では、教員の権利侵害に当たるのではないか、という意見も出されたが、懲戒免職処分自体は行政処分であり、その具体的事由も含めて犯罪歴には当たらない形で類型化し、運用するものである、という回答がなされ、特に修正はなされなかった。
 なお、過去の免許状の失効歴を簡便に参照できる「官報情報検索ツール」が教育委員会や学校法人等に配布されているが、本年2月より、このツールでの検索可能期間が直近40年間に大幅延長され(これまでは3年であった)、上記改正と相まって適切な教員採用選考に資することが期待されている。
 教員採用の現場にどのような影響があり、わいせつ事案等の教員の懲戒事案の削減にどの程度資するのかは、慎重に判断していく必要があるが、繰り返される指導者等の暴力の根絶に向けた一つの方策として、こうした処分理由のデータベース化及び公開というのは、参考になる制度ではなかろうか。
 ちなみに英国では、DBS(The Disclosure and Barring Service)と呼ばれる内務省が管轄する機関により個人の犯罪履歴がデータベース化されており、このDBSによるチェック制度を利用することで、子どもに関わることに不適切な犯罪歴を有する者をスポーツ指導から排除する仕組みが整えられている1。犯罪歴と処分歴とでは異なる点があるにせよ、参考にすべきであろう。

4 処分歴の横断的なデータベース化の可能性

 スポーツの世界では、過去に暴力等を行った指導者が、再び暴力等を行い、処分されるケースも多い(過去に、鹿児島県の高校で女子バレーボール部の監督を務めていた指導者が体罰を繰り返したとして出勤停止の処分を受けて退職した後、広島県の高校の女子バレーボール部で再び監督として指導を行った際に体罰を行って処分された例など)。
 繰り返される暴力等から選手、子どもを守っていくためには、こうした処分事例を各NF、競技団体ごとではなく、横断的にデータベース化しておくことも必要ではないかと考えている。
 もっとも、過ちから学ぶこともあり、1度の失敗(1回の処分でも、違反行為が繰り返されていることが多く、1度の失敗としてよいかは議論の余地があろうが)により、スポーツの世界から排除されてしまい、一生やり直しのきかない状況が生まれてしまうことは望ましくない場合もある。
 例えば、事案の重大性や悪質性、回数などに応じてアクセスできる期間を変えたり、処分を受けた後に研修や講習会を受講したかといった改善のための対策の有無に関する情報を同時に公開することで、指導者の再起にも繋がる要素を盛り込むといったことも考えられるであろう。
 いずれにしても、個人的には、指導者の暴力等の根絶に向け、我が国のスポーツを取り巻く環境、文化、価値観をふまえたバランスのとれた制度ができることを期待したい。

1 「我が国におけるスポーツ指導者による子どもに対する虐待及び体罰の現状と子ども保護制度の必要性」森克己、ダニエル・ラインド、ミシア・カーヴィス、マイク・カラン、中本浩揮、エルメス・デイヴィッド、濱田幸二、坂中美郷、中村勇、山田理恵

(2021年4月執筆)

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執筆者

飯田 研吾いいだ けんご

弁護士(兼子・岩松法律事務所)

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