一般2024年06月12日 Bリーグのルールメイキング2–スポーツベッティングへの対応 執筆者:冨田英司
1 スポーツ団体がスポーツベッティングへ対応する必要性
我が国では、刑法185条が賭博行為を処罰の対象としており、日本国内ではオンラインを含むスポーツベッティングの提供は賭博開張図利罪、スポーツベッティングへの参加は単純賭博罪としていずれも禁止されている(スポーツベッティングの適法性については「スポーツベッティングの未来」参照)。
もっとも、日本国外で提供されているスポーツベッティングは、プロスポーツからアマチュアスポーツまで、日本国内のスポーツを広く賭けの対象としていることは周知の事実である。また、Jリーグを対象としたスポーツくじは、スポーツ振興投票の実施等に関する法律(以下「toto法」という)により、正当業務行為(刑法35条)として適法に運営され、toto法の改正により、2022-23シーズンからBリーグの公式試合もスポーツくじの対象となっている。
個別のスポーツベッティングが適法か違法かという法的評価にかかわらず、現実問題としてスポーツが賭博の対象となる結果、①関係者による不正行為(八百長)と、②関係者に対する誹謗中傷という2つのリスクが生じるおそれが生じ、スポーツ団体は当該スポーツのインテグリティを守り、安心安全な競技環境を維持するためにリスクへの対応が迫られている。
2 Bリーグのスポーツベッティングへの対応
(1)八百長防止対策
toto法は、Bリーグ関係者(Bリーグ規約3条1項)のうちBリーグの役職員やBクラブの役員、選手、コーチなど一定範囲の者によるくじ購入及び譲り受けを禁止するとともに(同法10条)、それらの者が賄賂の収受や不正行為(偽計又は威力を用いて指定試合又は特定指定試合の公正を害すべき行為)を行うことを罰則をもって禁止している(同法37条、41条など)。
Bリーグ規約は、toto法の規制範囲を広げる形で、Bリーグ関係者による情報漏洩、不正行為(試合の結果に影響を及ぼす行為及び公式試合の公正を害すべき行為)、賄賂収受、くじの購入を禁止している(Bリーグ規約3条7項,37条)。
Bリーグでは、toto法による罰則とBリーグ規約による制裁等によって八百長に関与することを抑止するとともに、八百長対応に関するマニュアルを策定して、Bクラブに展開している。Bクラブは、Bリーグ規約上、Bリーグ規約違反を認識した場合、Bリーグへの報告義務を負っているところ(Bリーグ規約27条)、Bリーグは、こうしたBクラブからの報告のほか、外部事業者によるベッティングオッズのモニタリング結果に関するレポートにより、八百長の兆候を把握できる体制をとっている。
万が一、Bリーグ関係者が不正行為に関与した疑いがある場合には、事前措置として、チェアマンが該当試合の中止や該当試合への出場停止などの緊急措置を実施できることとなっている(Bリーグ規約37条の2ないし4)。また、Bリーグ関係者による不正行為が公式試合の結果に何らかの影響を及ぼした場合には、事後措置として,チェアマンがその八百長行為の影響が及んだ該当試合の試合結果の無効を決定できることとなっている(同規約37条の5。例えば、審判のみが不正行為に関与した場合、試合結果の公正が害されたにもかかわらず、制裁によっては試合結果そのものを無効とすることはできないため、制裁とは別途のインテグリティ維持の制度が必要となる)。
なお、八百長は、Bリーグ関係者が自発的に企図することはあまり想定できず、不正な利益を得ようとする第三者からの働きかけが起因となる場合が多いように思われる。そして、その第三者とはたいていは反社会的勢力であると思料される。この点、Bリーグは、Bリーグ関係者が反社会的勢力と関わることを禁止し(Bリーグ規約3条3項)、研修等で反社会的勢力の排除を徹底周知している。
(2)誹謗中傷対策
誹謗中傷対策として、Bリーグは、誹謗中傷撲滅のステイトメントをWEBサイトに掲示するとともに1、試合会場やSNS等にて誹謗中傷撲滅動画を発信している2。
そして、外部事業者を通じて、SNSにおける誹謗中傷のおそれがある投稿の有無をモニタリングするとともに、Bリーグ全体の施策として試合会場での雑踏警備を配置している。
また、Bリーグは、研修などを通じ、Bクラブや選手等に対し、SNSとの向き合い方や刑事対応(警察連携など)、民事対応(発信者情報開示請求など)の知見を共有している。
3 課題
スポーツベッティングへの対応はスポーツベッティングの解禁の是非にかかわらず、スポーツ団体がすでに直面している問題であり、スポーツくじの対象となっているJリーグやBリーグだけでなく、プロスポーツリーグ含め各スポーツ団体は、必要な対応を実践していると思われる。
その上で、スポーツ団体の課題の一つは、実際に第三者が選手や審判に対して不正行為の勧誘行為を行った場合のスポーツ団体の効果的な対応である。
まず、第三者による勧誘がtoto法の規定する賄賂や利益供与の申込みまたは約束や不正行為(同法40条、41条)に該当する場合には、スポーツ団体としては、toto法違反による告発をすることが考えられる。また、第三者による勧誘が偽計業務妨害(刑法233条)の構成要件に該当する場合には、スポーツ団体は同法違反で告訴することもあり得る。さらには、スポーツベッティングが世界的なものである以上、国際的な捜査、訴追を視野に入れて、各種機関と連携をとっていくことも考えなければならない。
そして、スポーツ団体のもう一つの課題は、違法なスポーツベッティング事業者への対応である。日本国内でスポーツベッティングを提供することは違法であるが、違法事業者の一部は他国にてベッティングライセンスを付与され、それをもって「合法である」と虚偽の事実を喧伝している。
仮に、違法なスポーツベッティング事業者がスポーツ団体の商標や所属選手の肖像を利用している場合には、それら知的財産権の侵害に対して、損害賠償の請求や利用の差止めを求めていくことが考えられる。また、スポーツ団体としては、日本国内からスポーツベッティングに参加することは違法である旨のリリースを行うことも考えられる。
いずれにしても、スポーツ団体としては、競技の公正、インテグリティと選手や審判の安全を守るため、一罰百戒の意識を持って、八百長や誹謗中傷、違法事業者に対してゼロトレランスの対応を推進するべきである。
(2024年5月執筆)
(本コラムは執筆者個人の意見であり、所属団体等を代表するものではありません。)
(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)
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執筆者
冨田 英司とみた えいじ
公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ
法務・コンプライアンスグループ/コンプライアンス事務局
弁護士(バックステージ法律事務所)
略歴・経歴
一般社団法人大学スポーツコンソーシアムKANSAI(KCAA)理事
大阪大学人間科学部卒業、京都大学大学院法学研究科(法科大学院)修了後、2011年大阪弁護士会登録。2013年から公益財団法人日本スポーツ仲裁機構(JSAA)仲裁人・調停人候補者を経て、2017年には同機構(JSAA)理解増進専門職員、平成29年度スポーツ庁委託事業「スポーツ競技団体のコンプライアンス強化委員会」委員を歴任。
主な取扱分野はスポーツ法務、エンターテインメント法務、ベンチャー企業・スタートアップ法務。
詳細はバックステージ法律事務所HP(https://st-law.jp)を参照
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