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契約2023年02月27日 Bリーグのルールメイキング–エージェント制度改革 執筆者:冨田英司

1 ルールメイキング
スポーツ界では、中央競技団体(NF)やリーグなどのスポーツ組織が構成員間の契約を背景に多種多様なルールメイキングを行なっている1。そして、それら業界内ルールは、法令とともに、各スポーツ組織の構成員およびステークホルダーを規律する。いかなるルールを設定するかは、スポーツ組織の運営の公正性や透明性、ビジネス的な成功などスポーツ組織の行方を左右するものである2
本コラムでは、スポーツ組織におけるルールメイキングのケーススタディとして、筆者の所属する公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(以下「Bリーグ」という)におけるエージェント制度改革を紹介する。
2 エージェント制度改革の必要性
Bリーグ開幕後、Bクラブ所属選手の経済的価値が高まるにつれ、国際移籍のみならず、国内移籍に関与するエージェントが増加し、それに伴って、選手のエージェントであるにもかかわらず選手のみならずBクラブへもエージェント報酬を要求する、選手契約上の義務に違反するように働きかけるなど、一部のエージェントによる不適切な活動が散見されるようになった。
しかし、公益財団法人日本バスケットボール協会(以下「JBA」という)は、選手エージェント規則(以下「旧規則」という)を定めていたが、旧規則では国際移籍に関するエージェント活動のみが対象とされ、国内移籍に関するエージェント活動については規律がなされていなかった。そして、Bリーグとしても、Bリーグ規約第88条にて、プロ選手契約について旧規則を適用するとするのみで、国内移籍への規律を欠いており、どのようなエージェントが活動しているかすら把握できていない状況であった。
そのような中、2022年1月、国際バスケットボール連盟(以下「FIBA」という)の内規のうちエージェント規程が改定され、国際移籍におけるエージェントによる利益相反が厳格に禁止されたことで、JBAおよびBリーグにおいて、国際移籍と国内移籍の規律のギャップが強く認識されるようになり、Bクラブにおける規約違反事案3にエージェントが関与していたという事情も加わり、JBAおよびBリーグにて国内移籍を含めたエージェント制度改革が急ピッチで進んだ。
3 エージェント制度改革のプロセス
国内統括団体であるJBAは国際統括団体であるFIBAの加盟団体であり、BリーグはJBAの加盟団体である。
バスケットボール界の上記ガバナンスを前提に、FIBAは内規にてエージェントのライセンス制度を設けて国際移籍に関するエージェントを規律するとともに、国内移籍に関するエージェントについては、FIBAの承認と内規への整合を条件として、JBAなど各加盟国連盟に制定権限を認めている(FIBA内規292条)。
そのため、国内移籍を含めたエージェント制度改革は、JBAにおける旧規則の全面改定とFIBAに対する確認、新規則のBリーグ規約への落とし込み(Bリーグ規約改定)、選手統一契約書の改定を同時並行的に行うものであった。
そのようなプロセスを経て、2023年1月1日、JBAの新規則であるエージェント規則(以下「JBAエージェント規則」という)、Bリーグ規約が改定、施行され、新たな選手契約には改定版選手統一契約書が使用されることとなった。
4 エージェント制度のポイント
エージェント制度の枠組みとして、大きくライセンス制度と登録制度の二つがある。
例えば、国際サッカー連盟では、サッカー界のエージェント制度として、過去には各国協会の試験合格を条件とする「エージェントライセンス制度」を採用していたところ、選手やクラブの利益を第三者からの搾取や利益相反から保護するべく2015年に現行の「仲介人制度」を導入したが、エージェントの職業倫理とエージェントビジネスの透明性を高めることを目的として、2023年10月には再びライセンス制を復活させようとしている 4
JBAおよびBリーグにおいては、国内移籍に関わるエージェントとその活動状況を早急に把握するとともに、利益相反などエージェントの不適切な活動に対して懲罰や制裁をもって抑止するという命題のもと、エージェント制度改革の第1フェーズとして、登録制度を採用した。
JBAエージェント規則の重要なポイントは、いうまでもなく、登録制度である5。エージェントは、日本国内における選手契約締結を目的とする交渉その他エージェント活動を行うためには、JBAへのエージェント登録が必要となる。そして、選手や加盟チームもまた、JBA登録エージェントのみを利用できる。そして、JBA登録エージェントは、書面によるエージェント契約締結が義務付けられ、かつJBAに対する同契約書の提出義務を負うこととなり、これにより日本国内で活動するエージェントの活動内容が可視化されることとなる。
そして、FIBA内規と歩調を合わせる形で、JBAエージェント規則では、エージェント契約を締結した顧客以外の者から報酬を受領する等の利益相反行為が厳格に禁止されたほか、選手とJBA加盟チームの権利利益の保護の観点から詳細な遵守義務が設定されている。
そして、Bリーグ規約は、JBA登録エージェントをBリーグ関係者と位置付け、Bリーグ規約上の遵守義務を設定し(Bリーグ規約第3条1項)、選手、チームスタッフ、BクラブおよびエージェントにJBAエージェント規則の遵守を義務付けることで(Bリーグ規約第88条)、JBAエージェント規則違反をBリーグ規約違反として把握し、制裁をもって対応することを可能としている。
さらに、選手およびBクラブは、選手統一契約書により、双方義務として、JBA登録エージェントのみを利用でき、Bクラブによる選手エージェント報酬の支払代行を除き、利益相反を行うエージェントと関係を持つことを禁止される。
5 エージェント制度のエンフォースメント
JBAエージェント規則も構成員間の契約を正当化根拠とする業界内ルールである以上、構成員やステークホルダーを拘束するためには、同意が必要となる。
JBAおよびBリーグでは、日本語版と英語版のJBAエージェント規則をそれぞれ公開するとともに、エージェントの登録手続において、JBAの諸規程やBリーグ規約を遵守する旨の誓約を登録条件とすることで、上記同意を取得し、JBAエージェント規則およびBリーグ規約のエンフォースメントを担保している。
6 エージェント制度第2フェーズに向けて
以上のとおり、JBAエージェント規則の施行によりエージェント制度の第1フェーズである登録制度の運用が開始した。そして、続く第2フェーズでは、ライセンス制度移行について検討が進められることとなる。
ライセンス制度への移行にあたっては、いくつかのハードルが存在する。まず、FIBAの加盟団体であるJBAが実施するライセンス制度は、FIBA内規を尊重しFIBA承認を得る必要があるため、FIBAライセンスとの一定の整合性が求められるのではないかという点である。また、ライセンス制度は、ライセンスエージェントの質向上につながる一方で、必然的に活動するエージェントの門戸を狭めるものであり、いわゆる無資格エージェントが暗躍するリスクが高まることになる。そして、法的観点では、ライセンス制度は、国内統括団体であるJBAがエージェントの取引を制限する形となるため、独占禁止法上の課題も生じることとなる。
JBAおよびBリーグでは、第1フェーズである登録制度で可視化されたエージェント活動における問題点を整理し、諸外国のプロバスケットボールリーグやFIFAなど他競技のエージェント制度を俯瞰しながら、ライセンス制度を含めたエージェント制度のあるべき姿を模索していく。


1  ルールメイキングという用語は、例えば行政や国際社会へのロビイングを通した規制緩和/規制強化等に向けた活動など、多義的であるが、本コラムではルールメイキングを自治組織としてのルール制定と位置付ける。
2  スポーツビジネスにおけるルールメイキングは、松本泰介著「スポーツビジネスロー」(大修館書店、2023年)が詳しい。
3 https://www.bleague.jp/news_detail/id=203020
4 柳田佑介「新エージェント規則「FFAR」って何?FIFAの制度改革から占うサッカー代理人業界の行方」(footbollista Webサイト:https://www.footballista.jp/special/152962
5  JBA登録エージェントはJBAのWebサイト(http://www.japanbasketball.jp/registration/agent)で公開されており、2023年2月13日時点で62名のエージェントが登録されている。

(2023年2月執筆)

本コラムは執筆者個人の意見であり、所属団体等を代表するものではありません。

執筆者

冨田 英司とみた えいじ

公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ
管理グループ/コンプライアンス事務局
弁護士(バックステージ法律事務所)

略歴・経歴

同志社大学スポーツ健康科学部客員教授(スポーツ法)
一般社団法人大学スポーツコンソーシアムKANSAI(KCAA)理事
大阪大学人間科学部卒業、京都大学大学院法学研究科(法科大学院)修了後、2011年大阪弁護士会登録。2013年から公益財団法人日本スポーツ仲裁機構(JSAA)仲裁人・調停人候補者を経て、2017年には同機構(JSAA)理解増進専門職員、平成29年度スポーツ庁委託事業「スポーツ競技団体のコンプライアンス強化委員会」委員を歴任。
主な取扱分野はスポーツ法務、エンターテインメント法務、ベンチャー企業・スタートアップ法務。

詳細はバックステージ法律事務所HP(https://st-law.jp)を参照

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