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経営・総務2020年09月28日 スポーツビジネスと資金調達2.0 執筆者:冨田英司

1 スポーツ組織の収益構造
Jリーグが発表している2019年度Jクラブ個別経営情報によれば1、Jクラブチームの収益は、スポンサー収入とそれに次ぐ入場料収入が約半分の割合を占め、その他物販収入や放映権料を原資の1つとするJリーグ配分金などがある。NPBの球団の収益も、スポンサー収入、入場料収入及び物販収入を柱に、その他放映権料などで構成される。
競技やクラブチーム間でその事業規模には大きな差があるものの、東京オリパラを控え、2019年度にヴィッセル神戸がJリーグ史上最高収益となる114.4億円を計上するなど、スポーツ界のビジネスは上昇傾向にあったといえる。
しかし、2020年に入り、covid-19の蔓延によるコロナ禍により、スポーツ組織の収入の柱であるスポンサー収入、入場料収入、物販収入は少なからず減少するというのが大方の予測といえよう。コロナ禍の収益減少は、プロスポーツチームのみならず、NFやアマチュアスポーツチームにも大きな影響を及ぼすと思われる。
そこで、スポーツ組織には、財務体質の維持、向上のため、ビジネスモデルと資金調達方法をアップデートしていくことが求められる。以下、近年実施、検討されているスポーツビジネスと資金調達方法を法的観点から概観する。
2 スポンサーシップの更なるアクティベーション
日本では長らく、スポンサーシップの中心的な提供価値をブランド露出とする「メディア・ドリブン」で考えてきたが、近年、スポンサー企業の抱える経営課題の解決を目指す「イシュー・ドリブン」の考え方が提唱され、社会課題の解決にスポンサーシップを用いるという「ソーシャルスポンサーシップ」の必要性が、米国を中心にスポーツ組織の間で自覚され始めている2
また、フェンシング協会がスクウェア・エニックスとともに2019年全日本選手権男子エペ決勝の競技会場を「ドラクエワールド」につくりあげた事例など、メディア・ドリブンの枠内であっても、スポンサー企業のニーズに寄り添ったスポンサーメリットの提供が始まっている3
もっとも、イシュー・ドリブンのスポンサーシップは、単なるブランド露出や商標の使用許諾からアップデートすればするほど、具体的なスポーツ組織の履行すべき債務を契約に落とし込むことが容易ではなくなる。スポンサーシップ契約締結時には、債務不履行の前提となるスポーツ組織の債務内容が決まっていないこともあるだろうし、損害賠償請求権の発生原因であるスポーツ組織の帰責事由の評価も難しくなるであろう。スポンサー契約の建て付けにつき、「仕事の完成」を要素とする請負型の契約ではなく準委任型の契約と捉える必要が強まると思われる。こうした法的課題はケースバイケースに生じることもあり、スポーツ組織とスポンサー企業との密なコミュニケーションが重要度を増すであろう。
コロナ禍でのスポンサー離れに直面するスポーツ組織としては、従来型のブランド露出一辺倒の戦略に加え、スポンサー企業や地域の課題とニーズを丁寧に拾い上げ、スポンサー企業と地域に寄り添ったスポンサーメリットを提供することが求められる。
3 ギフティング
スポーツ組織はファンクラブなどを通じてファンエンゲージメントを高めることで年会費収入や物販収入につなげているが、ファンエンゲージメントをより直接的に活用するビジネスモデルが、ギフティング(投げ銭とも言われる)である。このギフティングには様々な形態が想定できるが、ファンがギフティングサービス事業者のプラットフォームを通じて、試合中あるいは試合外で、スポーツ組織に対して即時的に寄付を行うというものが一般的と思われる。
ギフティングは、ファンがスポーツ組織や選手を直接的に応援し、かつ双方向的な繋がりを構築するという体験を得る点で、魅力的なビジネスモデルであり、寄付という点に注目すれば新しい資金調達方法の1つといえるかもしれない。
他方で、スポーツ組織がギフティングを導入する場合、所属選手や出場選手の肖像権やパブリシティ権を使用する権限が必要となる場面も考えられる。この点、NPBでは、選手の肖像権は球団に帰属し(統一契約書16条)、Jリーグでは、クラブに選手の肖像を使用する権利があるが(選手契約書8条)、アマチュアスポーツなどその他の競技では選手自身に肖像権が帰属する場合も少なくないと思われ、その場合、スポーツ組織は、ギフティングの対象となるイベントや選手について適切な権利処理を行う必要がある。
4 クラウドファンディング4
(1)寄付型クラウドファンディング
スポーツ組織の新たな資金調達方法として注目されるのが、クラウドファンディングである。クラウドファンディングには寄付型、購入型、貸付型、投資型があるところ、本稿ではスポーツ組織が導入しうる寄付型と投資型を見る。
まず、クラウドファンディングでは、他の類型も含め、プロジェクト実施にあたりプラットフォーム上でファンからの資金提供を募ることとなり、スポーツ組織のビジョンや考え方を周知するプロモーションの機会を得る点で、ファン獲得及びファンエンゲージメントが至上命題であるスポーツ組織に親和性がある。そして、寄付型クラウドファンディングは、資金提供を受ける側に納税義務こそ生じるものの、資金提供に対する対価のないもので5、スポーツ組織が実施するにあたってのハードルは比較的低いといえる。
加えて、寄付をするファンにとっても、税務上の優遇措置を受けられる場合があり、例えば、Jリーグの鹿島アントラーズは鹿島市と連携して寄付金を「ふるさと納税」の対象とするスキームによる寄付型クラウドファンディングを2020年7月に実施し、1億3000万円の資金調達を行った。
とはいえ、寄付型クラウドファンディングでは、ファンから金銭的な対価なしに寄付を募るものであるため、競技そしてスポーツ組織に魅力があることが前提となり、スポーツ組織とファンとで作り上げる具体的な未来像をいかに提示できるかが鍵になるであろう。
(2)株式投資型クラウドファンディング
次に、スポーツ組織が株式会社の法人形態をとっている場合、株式投資型クラウドファンディングを選択することが可能である。
株式投資型クラウドファンディングでは、2014年の金融商品取引法改正による規制緩和を踏まえ、第一種少額電子募集取扱業務の特例を利用することが通例とされるため、投資家であるファンの投資金額は50万円を上限とし、かつスポーツ組織の年間資金調達額は1億円未満といった枠内で実施される。
実施者であるスポーツ組織においては、投資である以上、投資家に対し合理的なExit戦略を説明できなければならないことはもちろん、プラットフォーム利用手数料のほか、将来的な株主管理コストが必要となり、議決権行使による経営への影響がある点には注意が必要となる。一方で、資金提供を行うファンは、非上場株式ゆえに売却には困難が伴い、株式価値毀損のリスクを負うことになる。
しかし、この株式投資型クラウドファンディングは、ファンに中長期的な株主になってもらうこととなり、資金調達と同時に、非常に大きなファンエンゲージメントを提供することが可能となり、ファンという安定株主による経営上のメリットを得ることも可能となる。
実際、Tリーグの琉球アスティーダは、2019年12月、株主優待と税制優遇措置を備えた株式投資型クラウドファンディングを実施して、わずか10分で目標募集額の1000万円を達成し、開始8時間で上限応募額の2300万円を達成した。
(3)ファンド型クラウドファンディング
NFはもちろん、アマチュアスポーツチームは株式会社という法人形態ではないことが多く、法人格すらない場合もある。この場合、株式を利用した資金調達はできないが、他方、スポーツ組織と出資者たるファンが直接匿名組合契約を締結するファンド型クラウドファンディングを利用できる可能性がある。
この形式の場合にも、スポーツ組織はプラットフォーム利用手数料を負担することとなるほか、調達資金をもとにした事業資産をスポーツ組織自身の資産と分けて管理するコストが生じる。そのため、ファンド型クラウドファンディングを実施するには、ファンドとしての事業を管理する体制が必要となり、ファンドによる事業計画、すなわち調達資金を利用したプロジェクトの立案とプロモーションが求められ、組織基盤が脆弱なスポーツ組織にとってハードルは決して低くないが、資金提供の対価を工夫することで新しい資金調達手段となり得るのではないだろうか。
5 まとめ
スポーツ組織は、従前より3期連続赤字の禁止などのJリーグクラブライセンス制度をはじめ、財務体質の維持、改善が求められてきたが、今般のコロナ禍での収入減少により、新たなビジネスモデル、資金調達手段を見出すことは避けて通れない課題となっている。上記で検討したスポンサーシップアクティベーション、ギフティング及びクラウドファンディングのいずれも、ステークホルダーのニーズを把握し、エンゲージメントを高めることが重要といえる。上記各手段を含むスポーツ組織の新たな試みに期待したい。

1 https://www.jleague.jp/docs/aboutj/club-h31kaiji.pdf
2 鈴木友也「ソーシャルスポンサーシップの可能性-米国におけるスポーツの社会的役割や法的リスクの変容」法学セミナー2018年9月号37頁
3 『フォーブスジャパン10月号』(リンクタイズ株式会社、2020年)
4 クラウドファンディングを含めた中小規模組織の資金調達については、桃尾・松尾・難波法律事務所編『ベンチャー企業による資金調達の法務』(商事法務、2019年)が詳しい。
5 ただし、感謝状や何らかの非金銭的な返礼が予定されているものも多い。

(2020年9月執筆)

本コラムは執筆者個人の意見であり、所属団体等を代表するものではありません。

執筆者

冨田 英司とみた えいじ

公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ
管理グループ/コンプライアンス事務局
弁護士(バックステージ法律事務所)

略歴・経歴

同志社大学スポーツ健康科学部客員教授(スポーツ法)
一般社団法人大学スポーツコンソーシアムKANSAI(KCAA)理事
大阪大学人間科学部卒業、京都大学大学院法学研究科(法科大学院)修了後、2011年大阪弁護士会登録。2013年から公益財団法人日本スポーツ仲裁機構(JSAA)仲裁人・調停人候補者を経て、2017年には同機構(JSAA)理解増進専門職員、平成29年度スポーツ庁委託事業「スポーツ競技団体のコンプライアンス強化委員会」委員を歴任。
主な取扱分野はスポーツ法務、エンターテインメント法務、ベンチャー企業・スタートアップ法務。

詳細はバックステージ法律事務所HP(https://st-law.jp)を参照

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