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契約2020年06月10日 スポーツリーグにおける移籍制限 執筆者:冨田英司

1 公正取引委員会による取組
公正取引委員会は、平成30年2月15日、スポーツ・芸能分野を含む幅広い職種における人材の獲得を巡る競争に関する独占禁止法上の問題について検討した「人材と競争政策に関する検討会報告書1」を公表した。また、同委員会は、令和元年6月17日には、スポーツ事業分野における移籍制限ルールについて、人材の獲得を巡る公正かつ自由な競争という観点から独占禁止法上の考え方をまとめた「スポーツ事業分野における移籍制限ルールに関する独占禁止法上の考え方について2」を公表している。
上記2つの報告書では、移籍制限ルールが独占禁止法上問題となるかどうかについては、具体的なルールの内容や実態に即して個別に判断されるものであるとされているが、具体的な移籍制限ルールについての検討は十分に行われていない。そこで、本稿では、独占禁止法を中心に、スポーツにおける移籍制限について、類型的に検討したいと思う。
2 スポーツ分野における移籍制限の実情
まず、プロスポーツリーグについてみると、プロ野球では、各球団が契約更新を予定する選手(保留選手と呼ばれる)は他球団との移籍交渉や野球活動が禁止されるという保留制度(野球協約66条、73条など)により、選手は一定の資格を得て保留選手枠から解放されない限り(野球協約196条、フリーエージェント規約)、自由に他球団へ移籍できない。一方、Jリーグでは、選手はクラブとの選手契約期間満了の6ヶ月前から他クラブとの間で移籍交渉を行うことができ、選手契約期間満了後の移籍であれば移籍金を伴うことなく自由に移籍できる(プロサッカー選手の契約、登録および移籍に関する規則3-1④)。
次に、社会人リーグをみると、日本ラグビーフットボール協会は、社会人チームの所属選手は、原則として、所属チームの選手離籍証明書を取得しなければ、移籍先チームにて1年間公式戦に出場できない旨定めている(選手の移籍に関する規程2条)3。また、日本実業団陸上競技連合は、企業チームの所属選手の移籍につき、移籍元チーム、移籍先チーム、選手による移籍協議合意書がない場合には、移籍先チームが加盟する地域連盟が諸事情を考慮して上限1年間の出場待機期間を設けることを可能としている(登録規程第6条)。
学生スポーツにおいても移籍制限ルールは存在する。高等学校野球連盟は、転入学生は、学区制の変更や一家転住などやむを得ず転入学した場合を除き、転入学した日から1年間は高野連主催大会への出場を認めていない(大会参加者資格規定第5条)。全国高等学校体育連盟は、インターハイの出場資格につき、やむを得ない場合を除き、転校・転籍後6ヶ月未満のものの同一競技への参加を認めていない(全国高等学校総合体育大会開催基準要項12項)。
3 プロスポーツリーグの移籍制限の法的問題点
競争関係にある複数の事業者が、共同して、人材の移籍や転職を相互に制限・制約する旨を取り決めることは、原則として独占禁止法3条の不当な取引制限にあたり、同法違反となる。プロスポーツチームは、スポーツ活動を通じて経済的な活動(事業活動)を行っており、独占禁止法上の事業者にあたる。そのため、スポーツチームにより構成されるスポーツリーグにおいて移籍制限ルールが設定される場合、チーム間の選手獲得競争が抑制される結果、選手を活用したスポーツ事業活動における競争も抑制され、また新規参入が阻害され、ひいては消費者全般の利益を害する可能性があるため独占禁止法上問題となり得るとされる。
他方、スポーツリーグが設ける移籍制限ルールは、①選手の育成費用回収可能性を確保し、選手育成インセンティブを向上させる、②チーム戦力を均衡させることにより、競技の魅力を維持・向上させる、という側面から競争を促進する場合もあるとされる。
そこで、「スポーツ事業分野における移籍制限ルールに関する独占禁止法上の考え方」では、スポーツリーグの移籍制限ルールが独禁法違反となるかどうかは、移籍制限ルールによって達成しようとする目的が「競争を促進する観点からみて」合理的か、その目的を達成する手段として相当かという観点からの総合考慮を経て判断するとの考え方が示されている。
Jリーグの場合、選手は契約期間満了後自由に移籍できるので、独禁法違反となる余地はないように思われる4
一方、プロ野球における移籍制限ルールについては慎重な検討を要する。まず、育成費用の回収可能性を確保することは選手育成を促進して結果競争を促進すると思われるが、移籍制限の中身(FA権取得の条件)が具体的な育成費用の回収期間として相当といえるかは必ずしも明らかではない。Jリーグでは、契約期間をある程度長期に設定して移籍金により育成費用の回収を図り、またトレーニングコンペンセーションという補償金の仕組み(プロサッカー選手の契約、登録および移籍に関する規則7)により制度的に育成費用の回収を行っているところ、移籍を制限することにより育成費用を回収することの必要性については方法論として疑問がないわけではない。次に、チーム間の戦力均衡がスポーツリーグの魅力を維持・向上させることは間違いないと思われるが、移籍制限ルールという方法がそのために相当といえるだろうか。ところで、プロ野球が戦力均衡のために移籍制限ルールを要する理由の1つは、そのリーグ構造にあると思われる。すなわち、Jリーグが昇降格を持ち容易に参加可能な「開放型」のリーグ構造であるのに対し、プロ野球は参入障壁を高く設定する「閉鎖型」のリーグ構造である。Jリーグはその昇降格システムにより構造上戦力の均衡が保たれやすいが、プロ野球ではそれがないため、戦力均衡のために移籍制限ルールを設定するのである。「戦力均衡のために昇降格システムを導入すればいいので移籍制限ルールの必要性はない」と言っているわけではなく、プロ野球が何らかの移籍制限ルールを設定することにはリーグ構造上致し方ない面があることも踏まえた上で、しかしながら移籍金を支払えば移籍できる等、より制限的でないルール設定は可能であることから、独占禁止法上問題なしとはいえないように思われる。
なお、移籍制限ルールの相当性を判断するにあたっては、選手会の存在も考慮する必要があると考える。プロ野球においては、選手は労働組合法の労働者とされているところ、その移籍制限ルールが選手会との誠実かつ対等な交渉を経てなされたものと評価できる場合には、移籍制限ルールが相当であるとの判断に傾くことになろう。
4 社会人リーグの移籍制限の法的問題点
実業団チームもスポーツ活動を通じて事業活動を行うもので、独占禁止法上の事業者にあたるといえる。そうすると、社会人リーグが設定する移籍制限ルールも、上記判断基準により、独占禁止法上問題がないか判断することとなる5
上記2のとおり、社会人リーグには、選手の移籍に原則として移籍元の承諾を要するとする移籍制限ルールが散見される。これら移籍制限ルールの目的は必ずしも明らかではないが、プロリーグ同様、育成インセンティブと戦力均衡の目的があるとし、かつその目的が合理的だとした場合でも、その目的を達成するために、移籍元の承諾を条件とすることの相当性は問題となる。ここで、選手移籍に関し、移籍金などの補償がない場合、育成費用回収の観点からも、戦力確保の観点からも、移籍元が快く応じないケースが現れることは避けられないように思われる。その場合、制度上、日本協会や地域連盟がその移籍の是非を判断することになるが、育成費用回収や戦力確保の必要性を移籍元が訴えた場合、移籍(先での試合出場)を認めない判断がなされる可能性が高いといわざるを得ない。ラグビーフットボール協会や日本実業団陸上競技連合の定める移籍制限の結果選手に課される出場待機期間は1年間であり比較的短期ではあるものの、プロ野球の移籍制限ルールとは異なり、移籍元が移籍を承諾しない限りいつまでも出場待機期間に直面する点で、制限の度合いは決して小さくなく、独占禁止法上の問題がないとはいえないと思われる。
5 学生スポーツの移籍制限の法的問題点
学生が所属する学校のスポーツ部は、スポーツ活動を通じて事業活動を行うものではなく、学生選手も役務提供者ではないので、学生スポーツの統括団体が設定する移籍制限ルールは独占禁止法の適用対象ではないと思われる6
しかし、このことは、学生スポーツにおける移籍制限ルールが法的に何ら問題ないことを意味するものではない。すなわち、ユネスコ「体育・身体活動・スポーツに関する国際憲章」1条やオリンピック憲章などの国際法上人権としてのスポーツ権が確立しており、これを受けスポーツ基本法2条はスポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むというスポーツ権を規定し、スポーツ団体等に青少年スポーツの推進を求めており、スポーツ権は憲法13条が規定する人権であるとする考え方もある。また、子どもの権利条約29条は「子どもにはスポーツを通じて、人格や才能並びに精神的・身体的能力を発達させる権利があり、これをサポートすることは国や大人の責務である。」とも定める。とすれば、移籍制限ルールが、目的の合理性及び手段の相当性の観点から、学生選手のスポーツ権を不当に侵害する場合には、公序良俗(民法90条)に反し違法無効との評価があり得る。
学生スポーツにおける移籍制限ルールの目的には、転学を繰り返すことによる学業への影響を防止することがあるとされ、その目的は合理的といえそうである。もっとも、移籍制限の範囲が広すぎる場合にはその必要性が認められない場合もある。高野連や高体連の移籍制限ルールでは、いずれも「やむを得ない場合」には転学先での試合出場を認めることとなっているところ、選手が指導者からハラスメントを受けて転学せざるを得ない場合やスポーツキャリア形成において転学の必要性が高い場合など学生選手のスポーツ権を推進する形での運用がなされない場合、スポーツ権侵害の可能性が生じると思われる。

1 https://www.jftc.go.jp/cprc/conference/index_files/180215jinzai01.pdf
2 https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2019/jun/190617_files/190617.pdf
3 なお、トップリーグでは、所属チームとの契約満了後かつシーズン終了後であれば、選手は自由に移籍交渉を行うことができることとなっている(選手の移籍に関する規程第2条3項、トップリーグ規約93条)。
4 チームと選手の選手契約の期間の設定が、内容的あるいは手続的に不合理である場合は、優越的地位の濫用として独占禁止法上別途問題となり得る。
5 企業が所属選手との間で拘束的な雇用契約を締結することは労働基準法上違法と判断される場合がある。
6 もっとも、UNIVASなど学生スポーツにおいて事業活動を行う可能性がある団体については、独占禁止法の適用対象となる場面があるであろう。また、学校法人が学生との間で不当な在学契約を結ぶことは消費者契約上の問題があると思われる。

(2020年5月執筆)

執筆者

冨田 英司とみた えいじ

弁護士(バックステージ法律事務所)

略歴・経歴

同志社大学スポーツ健康科学部客員教授(スポーツ法)
龍谷大学非常勤講師(スポーツと人権・平和)
一般社団法人大学スポーツコンソーシアムKANSAI(KCAA)理事
大阪大学人間科学部卒業、京都大学大学院法学研究科(法科大学院)修了後、2011年大阪弁護士会登録。2013年から公益財団法人日本スポーツ仲裁機構(JSAA)仲裁人・調停人候補者を経て、2017年には同機構(JSAA)理解増進専門職員、平成29年度スポーツ庁委託事業「スポーツ競技団体のコンプライアンス強化委員会」委員を歴任。
主な取扱分野はスポーツ法務、エンターテインメント法務、ベンチャー企業・スタートアップ法務。

詳細はバックステージ法律事務所HP(https://st-law.jp)を参照

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