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一般2020年02月13日 スポーツにおける連帯責任と活動自粛 執筆者:冨田英司

1 日本大学ラグビー部の無期限活動停止
 2020年1月18日、ラグビー関東大学リーグ戦1部に所属する日本大学ラグビー部の21歳の部員が、大麻を所持していたとして、大麻取締法違反の容疑で逮捕され、同月20日、同部は活動を無期限で停止すると発表した。この同部の無期限活動停止は、日本大学ないし関東大学ラグビーフットボール連盟の処分によるものではなく、活動自粛にあたる。
 こうした連帯責任を伴う活動自粛は珍しいものではなく、麻薬取締法違反等でラグビー・トップリーグのトヨタ自動車ヴェルブリッツに所属する2選手が逮捕・起訴された事案で、同チームは2019年ラグビーワールドカップ開催期間中を含む数ヶ月の間全体練習などの活動を休止した。
 本件で、大麻取締法違反を犯した当該選手が、一定の処分を受け、スポーツ活動への参加を制限されることは当然であるとして、問題は違反行為に関与していない選手まで影響を受ける活動停止、活動自粛が妥当であるかどうかである。
2 連帯責任の問題点
 連帯責任が、違反行為をしていない選手が制裁を受ける点で自己責任の原則に反し、スポーツ権を侵害するものであることに疑いの余地はない。なお、本件日本大学ラグビー部の事案では、ラグビーのシーズンオフであることがスポーツ権の侵害の強度を弱める方向である可能性はあるものの、全体練習ができなくなる等有形無形の影響があり、「シーズンオフ=スポーツ権の侵害がない」と考えるべきではない。
 にもかかわらず、連帯責任が課されるのは、連帯責任に、「教育的配慮」と「不祥事の抑止効果」があることが根拠であるとされる
しかし、違反行為をしていない選手が連帯責任により部活動を禁止される点にどのような教育的意義があるか、学生はどのような教訓を得るのか不明である。違反行為をした選手に対する教育的意義があるのだとしても、違反行為をしていない選手のスポーツ権を侵害してまで優先されることであろうか。社会人選手に対して教育的配慮が必要な意義を見出すことはより難しい。
また、「違反行為をすれば他の部員に迷惑がかかる」という心理的効果という点で、連帯責任それ自体に不祥事の抑止効果があるとしても、その抑止効果は「違反行為をすれば自分がスポーツできなくなる」という自己責任の心理効果と比べどれほど有意差を有しているのだろうか。
3 連帯責任の適用基準
 上記2のような考慮もあって、文部科学省が公表する『スポーツ指導における暴力等に関する処分基準ガイドライン(試案)』では、「チーム内で他の加害者が違反行為を行ったとしても、他の競技者は連帯して責任を負わされるいわれはないため、他の競技者に対しては処分をしない」ことを基本原則とし、連帯責任は、「当該違反行為の結果が重大であることに加えて、将来の違反行為を未然に防ぐ必要性、又は加害者以外の当該チームに所属する他の競技者についても加害者と同等若しくは加害者に準じた処分を行う必要性が強く認められる等の特段の事情がある場合に限り選択できるものとする。例えば、当該チームの複数の指導者又は競技者が加害者となり違反行為が行われ、当該チームの他の競技者において当該違反行為の存在を把握しながら何らの防止措置や報告等が行われなかったために、重大な結果が発生することを防げなかった場合など」に限定的に課することができるとしている。
 そして、連帯責任が違反行為をしていない選手らのスポーツ権を侵害するものであることに鑑みれば、連帯責任を課しうる「将来の違反行為を未然に防ぐ必要性」や「加害者と同等若しくは加害者に準じた処分を行う必要性」がある場合とは、違反行為をしていない選手らにおいて「違反行為を防ぐことができたにもかかわらずそれを怠った」という落ち度があった場合に限定されるべきである。
 その上で、最後に、部員のうち何割の選手に落ち度があった場合にチーム全体に連帯責任が課されうると考えるべきかという問題がある。しかし、トヨタ自動車の事案のように2名のみが関与している場合、3割、5割、8割、9割と割合的な考慮を重ねてみても何ら合理的な結論は見いだせない。スポーツ権を最大限重視すれば、違反行為をしておらず、かつ落ち度のない選手が1人でもいれば、違反行為をしていない選手のスポーツ活動を制限するような連帯責任を課すべきではないというべきではなかろうか。上記ガイドラインでは、「チームに対する制裁は、原則として、戒告又はけん責によるものとすべきである」としているところ、違反行為をしていない選手の中に落ち度がない選手が1人でもいる場合には、同人のスポーツ権に鑑み、チームへの処分は戒告又はけん責を上限とするべきであると考える。
4 活動自粛の問題点
 活動自粛には、連帯責任における問題点に加え、さらなる問題点がある。活動停止処分は、大学スポーツ連盟や所属リーグなど、上部団体からなされるもので、これに対しては運動部(学校)やチームが、仮処分申立やスポーツ仲裁などの不服申立をすることによりその有効性を争う途が残されている。一方、活動自粛は、運動部の部長、学校の校長、チームの代表者が自らの裁量で行うもので、これに対しては事後の損害賠償請求のほか不服申立の余地はない。
 したがって、活動自粛は、上部団体からの活動停止処分よりも、手続保障の観点から、スポーツ権の侵害の程度はより大きいと考えられる。
5 個人の犯罪行為と連帯責任
 さて、話を日本大学ラグビー部に戻す。この件における違反行為は、ラグビー部員1名が行った大麻の所持である。他のラグビー部員に落ち度はあっただろうか、違反行為者の大麻所持を防ぐことができたのだろうか。仮に、他のラグビー部員全員が違反行為者の大麻所持を認識していたとすれば、落ち度があったとする可能性はある(当然、認識していたとしても防ぐことができたかどうかは、ラグビー部内の人間関係を精査する必要がある)。では、他のラグビー部員が違反行為者の大麻所持を知らなかった場合の落ち度とは何であろうか。そもそも、他のラグビー部員に落ち度があったか否かを判断するための調査を先行させるべきであり、盲目的に部活動停止(活動自粛)を決定するべきでないことは明らかであろう。
 中学、高校、大学、社会人リーグ、プロリーグなどのあらゆるカテゴリーにおいて、不祥事が発生した場合のリスクマネジメントは必須である。しかし、リスクマネジメントはスポーツガバナンス、コンプライアンスの1要素であるところ、スポーツガバナンス、コンプライアンスはそれ自体が目的ではなく、スポーツ選手の権利を擁護しスポーツの価値を高めるための手段であるというべきである。とすれば、不祥事が発生した場合の対メディアのリスクマネジメントとして安易に連帯責任を課すことは本末転倒というほかない。
 不祥事を起こした部やチームが活動を続けることは社会からの批判に耐えられない、という現実をわかっていないのかとお叱りを受けるかもしれない。これに対して、私は、部やチームとして、「わが部から不祥事を起こしてしまったことは極めて遺憾です。しかし、他の部員がその責任を負うことはまた別問題と考えます。わが部としては、今回の違反行為に関与した部員に対しては厳正な対処をすべく、現在、違反行為の実態を調査中です。今後は、違反行為者への処分とともに、コンプライアンス遵守、インテグリティの追求を目指して、部員全員に対して徹底した指導教育を行っていく所存です。」との発表をするべきだと思うが、これもできないのだろうか。
 本稿が連帯責任、活動自粛についての議論の一助になればと思う。

1 スポーツ基本法2条1項は「スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むことが人々の権利である」とする。また、オリンピック憲章は、オリンピズムの根本原則で、「スポーツをすることは人権の1つである。」とする。
2 『スポーツ法へのファーストステップ』(2018年、法律文化社)第8章
3 https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/sports/020/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2014/03/10/1342651_05.pdf

(2020年1月執筆)

本コラムは執筆者個人の意見であり、所属団体等を代表するものではありません。

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執筆者

冨田 英司とみた えいじ

公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ
法務・コンプライアンスグループ/コンプライアンス事務局
弁護士(バックステージ法律事務所)

略歴・経歴

一般社団法人大学スポーツコンソーシアムKANSAI(KCAA)理事
大阪大学人間科学部卒業、京都大学大学院法学研究科(法科大学院)修了後、2011年大阪弁護士会登録。2013年から公益財団法人日本スポーツ仲裁機構(JSAA)仲裁人・調停人候補者を経て、2017年には同機構(JSAA)理解増進専門職員、平成29年度スポーツ庁委託事業「スポーツ競技団体のコンプライアンス強化委員会」委員を歴任。
主な取扱分野はスポーツ法務、エンターテインメント法務、ベンチャー企業・スタートアップ法務。

詳細はバックステージ法律事務所HP(https://st-law.jp)を参照

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