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経営・総務2021年06月07日 スポーツチームのオーナーシップを考える 執筆者:冨田英司

1 スポーツチームを保有する目的
NPBでは、野球協約27条により、球団運営会社は日本法に基づく株式会社であることが規定され、オーナー企業等が運営会社の筆頭株主となり、球団を保有している。Jリーグでは、Jリーグ規約14条等により、Jクラブは日本法に基づき設立された株式会社または公益社団法人であることが規定され、2021年4月時点では全てのJクラブが株式会社であり、筆頭株主がJクラブを保有していることとなる。Bリーグでも、Bリーグ規約12条にクラブは日本法に基づき設立された株式会社であることが規定されている。法人の意思決定という観点からみれば、議決権の過半数に相当する株式を有していれば、役員の選任・解任をすることが可能となり、実質的に運営会社やJクラブのオーナーシップを有しているといえるだろう。
では、スポーツチームの筆頭株主となり、スポーツチームを保有する目的は何であろうか。まず、1)企業の認知度の向上が挙げられる。企業のブランドイメージを高めるという目的である。球団名に企業名を付与できるNPBはもちろん、チーム名に企業名を付与できないJリーグやBリーグでも消費者への訴求は十分可能である。なお、商品・サービスの宣伝を含む企業の認知度向上については、スポンサーシップでも実現可能であり、オリンピックなどのメガスポーツイベントの上位スポンサーとなれば世界的な宣伝効果を得ることができる。次に考えられるのは、2)スタジアム内の電子決済サービスなどオーナー企業の事業とのシナジー効果である。さらには、3)スポーツチームそのもので儲けることが考えられる。これには、スポーツチームの興行やグッズ販売などで収益化を目指す考え方と、スポーツチームの資産価値を高めて売却する考え方がある1
オーナー企業は、スポーツチームの株式を取得して、上記目的の達成を目指すのであるが、以下では、オーナーシップにまつわるいくつかの事例を検討した上で、スポーツチームのオーナーシップとステークホルダーの関係性について考えたい。
2 投資ファンドによる欧州サッカークラブの買収
一昔前は、ロマン・アブラモビッチ氏によるチェルシー買収に代表される、個人による自己顕示欲に基づくスポーツチームの買収が散見されたが、ここ数年は、米国ヘッジファンド大手のエリオット社によるミラン買収など、純粋な投資としてスポーツチームを買収する事例が増えている。上記のチーム保有目的の3)を主な動機とする買収である。プロフェッショナル投資家は、投資家目線の市場合理的な経営を志向するため、象徴となる生え抜き選手の維持といった儲けに直結しない要素を置き去りにする可能性があるものの、他方、スポーツチームの収益や資産価値を高めるため、チーム戦力強化など顧客であるファンの満足度を上げる施策がなされるという面もある2
スポーツチームの売却については「身売り」などといった否定的な評価があるが、その是非を一旦措いて、なぜ投資ファンドがスポーツチームへの投資に着目するかを深掘りすると、従前のチーム経営が不十分で資産価値を高める余地がある点が見えてくる。スポーツチームの収益や資産価値を支えるのは、顧客であるファンやステークホルダーの満足度であるとすれば、従来のチーム経営では顧客であるファンをはじめとするステークホルダーの満足度が低いことが浮き彫りになる。
3 東京ヴェルディの経営権を巡る争い
報道によれば、2020年12月、スポーツ用品小売業のゼビオホールディングスが、2010年に経済支援の対価として得た新株予約権を行使して東京ヴェルディの発行済み株式の56%を取得し、資金難を解決するための増資を計画していた代表取締役を含む3名の取締役が辞任する事態となった。旧経営陣は、ゼビオHDがその投資契約により東京ヴェルディの新たな増資を阻んだと批判し、ゼビオHDは、旧経営陣が大物選手の獲得のために若手選手の育成を怠るなどしたほか、過剰な経費利用などにより経営悪化を招いたとしているようである。
この対立構図において、どちらの主張が合理的かは情報不足の面もあり結論づけられないが(少なくともゼビオHDがJリーグ規約と整合する投資契約により新株予約権を取得し、行使することを非難される理由はないと思われる)、ゼビオHDが新株予約権を取得した目的は経営破綻寸前であった東京ヴェルディの資産価値が高まったタイミングで株式売却により利益を得ることが含まれていたことは否定できないであろう。
ゼビオHDの新株予約権の行使と旧経営陣の辞任劇に対して否定的な評価があるとすれば、それはゼビオHDが株式取得で得た支配権と資産価値と、新株予約権取得後の10年間における東京ヴェルディの収益や資産価値への貢献とがバランスを失していることが一因ではないかと推察される。このことからは、スポーツチームのオーナー企業は、ステークホルダーから、株式取得の目的よりも、スポーツチームの収益や資産価値にいかなる貢献をするか(したか)が問われることがわかる。
4 「プロジェクト・ビッグ・ピクチャー(PBP)」と「欧州スーパーリーグ(ESL)」
PBPとは、単純化していうと、リバプールを傘下におくフェンウェイ・スポーツグループとマンチェスターユナイテッドを保有するグレーザー一族が主導した、プレミアリーグの放映権料の下部リーグへの分配率を上げる代わりに特定の9つのビッグクラブにプレミアリーグの意思決定における特別の議決権を与えるという構想である。この構想は、2020年後半に明らかとなり、コロナ禍にあえぐクラブへの経済的支援という面があるものの、クラブ間の貧富の差を固定化することが明らかに予想され、他のクラブやファンからの批判が相次いだ。
ESLは、欧州の12のビッグクラブを中心に、昇降格のないリーグ戦と決勝トーナメントを行うという、ビッグクラブだけの独自の大会創設という構想で、2021年4月に発表された。この構想は、実質的にUEFAチャンピオンズリーグに取って代わる大会となるため、UEFAからはチャンピオンズリーグ参加資格剥奪などの処分を示唆するなどの反発が起きたほか、一部のビッグクラブが利益を独占するような仕組みであったため、サッカーファンやサポーターからも批判が噴出した。
上記2つの構想については、その是非を含む論点は多岐にわたるが、ここでは、計画を主導したビッグクラブ側は、(少なくとも表面上は)より魅力的な試合、大会をファンに提供し、欧州フットボールのサステナビリティを目的に掲げたものの、しかしながら、その大会運営や収益分配スキームがビッグクラブのオーナーの「金儲け」としか写らなかったため、ファンやサポーターから批判された点を取り上げたい。つまり、スポーツチームが考える「ファンの求めるもの、満足度」とファンやステークホルダーが考える「ファンの求めるもの、満足度」に齟齬があった点が、上記構想の瓦解を生んだといえる。
5 「スポーツチームは誰のもの?」という命題
スポーツチームを保有する目的は様々であり、宣伝目的やシナジー効果を得る目的、チーム経営そのもので収益を得る目的、チームを売却して利益を得る目的などそこに何らかの経済的な動機がある。その中で、オーナー企業の認知度を上げるという宣伝効果はスポンサーシップによって可能であり、事業のシナジー効果もスポーツチームとの事業提携で実現することができる。こう考えると、スポーツチームを保有するということは、顧客であるファン、ステークホルダーの満足度を高め、収益や資産価値を高める点に本質的要素があるのではないかと考える。
そして、スポーツチームのオーナーシップに善し悪しがあるとすれば、それは株式など支配権を取得する目的そのものではなく、目的達成の過程で、スポーツチームの収益や資産価値の向上、つまりは顧客であるファン、ステークホルダーの満足度の向上にいかなる貢献をするかという点ではないだろうか。ときおり「スポーツチームは誰のものか」という命題を耳にするところ、スポーツチームの所有者はいうまでもなく筆頭株主、つまりオーナー企業であるが、オーナーシップの目的達成の過程でどのようなステークホルダーの意向をくみ取ることが目的達成にとって重要か、という命題に読み替えてみるとよいのではないかと考える次第である。

1 葦原一正著『日本のスポーツビジネスが世界に通用しない本当の理由』(光文社、2021年)を参照した。
2 山田聡「「PEファンド」や「ヘッジファンド」が参入!サッカークラブ買収の新たなトレンド」『フットボリスタ第81号』(ソル・メディア、2020年)を参照した。

(2021年5月執筆)

執筆者

冨田 英司とみた えいじ

弁護士(バックステージ法律事務所)

略歴・経歴

同志社大学スポーツ健康科学部客員教授(スポーツ法)
龍谷大学非常勤講師(スポーツと人権・平和)
一般社団法人大学スポーツコンソーシアムKANSAI(KCAA)理事
大阪大学人間科学部卒業、京都大学大学院法学研究科(法科大学院)修了後、2011年大阪弁護士会登録。2013年から公益財団法人日本スポーツ仲裁機構(JSAA)仲裁人・調停人候補者を経て、2017年には同機構(JSAA)理解増進専門職員、平成29年度スポーツ庁委託事業「スポーツ競技団体のコンプライアンス強化委員会」委員を歴任。
主な取扱分野はスポーツ法務、エンターテインメント法務、ベンチャー企業・スタートアップ法務。

詳細はバックステージ法律事務所HP(https://st-law.jp)を参照

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