金融・証券2025年04月24日 脱炭素関連の投融資停滞も 相次ぎ国際枠組み脱退 大手銀行と環境 提供:共同通信社

脱炭素を目指す金融機関の国際的な枠組みから、日本や米国の大手銀行が相次いで脱退している。気候変動対策に消極的なトランプ氏の米大統領復帰に対応した措置だ。異常気象を引き起こす地球温暖化が進む中で、脱炭素に資する技術開発や設備への投融資が今後滞る恐れも出てきた。警戒が必要だ。
▽伏線
この枠組みは2021年設立の「ネットゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA)」。メンバーは民間銀行で、株式の引き受けや企業の合併・買収(M&A)の仲介などを手がける投資銀行も含まれる。投融資を通じて、温室効果ガスの排出を50年までに実質ゼロにすることを目指す。国連環境計画(UNEP)が事務局を務める。
金融関係者によると、NZBA脱退の伏線は資源大国ロシアによる22年のウクライナ侵攻開始をきっかけとしたエネルギー危機だった。
エネルギー源として石炭や石油への回帰が広がり「化石燃料(を使った発電設備など)への資金供給を一気に減らすのが難しくなった。大手銀行は脱炭素化のルールが厳しすぎると感じ始め、反発を強めていた」(国内大手行幹部)という。
これに拍車をかけるように、昨年11月の米大統領選でトランプ氏が圧勝した。経済産業省所管のエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の古藤太平(ことう・たいへい)氏は「米共和党政権が気候変動対策に前向きな組織への敵対的姿勢を強め、金融業界は立ち位置を見直すに至った」と説明している。
換言すれば、NZBAに加盟したままだと米国内の石油や天然ガス開発事業への投融資をはじめとしたビジネスチャンスを逃しかねない、との懸念が一気に増大したと言える。
大統領選後、真っ先に動いたのは米国勢だった。昨年12月にゴールドマン・サックスとウェルズ・ファーゴ、シティグループ、バンク・オブ・アメリカが脱退。今年1月にはモルガン・スタンレーとJPモルガン・チェースが抜け、大手6社全てが離脱した。
▽役割
こうした動きが日本勢に飛び火し、3月に入ってまず三井住友フィナンシャルグループが脱退した。次いで野村ホールディングスと三菱UFJフィナンシャル・グループ、農林中央金庫、みずほフィナンシャルグループも同月中に追随した。
国内勢で加盟しているのは、4月22日時点で三井住友トラストグループだけだ。同社広報室は「加盟を続けるかどうか決まっていない。顧客の考え方を聞いた上で決定する」としている。
米大統領選後、日米のほかカナダやオランダ、オーストラリアの銀行も抜け、脱退数は19に達し、NZBAのメンバー数は130を下回った。離脱した銀行はどこも「脱炭素の取り組みを続けていく」姿勢を示しているが、各社の裁量に委ねられるだけに、多くの環境団体は先行きを不安視している。
気候変動対策に必要な資金は足りておらず、不足額は30年までに年約6兆ドル(800兆円超)にも上るとの推計もある。
元日銀審議委員で野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英(きうち・たかひで)氏は、相次ぐNZBA脱退について「金融機関の役割は、企業が段階的に温室効果ガス排出量を減らして最終的に実質ゼロにする目標を達成できるよう、資金面からしっかり助けることにある。(その役割を)いま一度思い起こす必要があるのではないか」としている。(共同通信編集委員 金沢秀聡)
残念至極
日米の多くの大手銀行がネットゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA)から脱退したのは残念至極だ。気候変動対策は国際社会が取り組むべき必須の課題であるのは論をまたず、とりわけ対策に必要な資金を供給する金融機関の役割は重要だからだ。
NZBAを抜けた日本勢は加盟する際に皆、その旨を公表したのに、脱退に当たってはしておらず、報道機関の取材で明らかになった。トランプ米政権ににらまれたくないというのが本音なので、公表しにくかったのだろう。こうした情報開示の仕方には疑問を禁じ得ない。
脱退した日本勢は今後も脱炭素対策を進める姿勢を示した以上、自ら目標を定め、その進展をこまめに公表し、金融機関としての矜持(きょうじ)を示すべきだ。
さもなくば株価の下落や格付けの引き下げといった形で、市場のしっぺ返しを受けることになる。肝に銘じてしかるべきだ。
(2025/04/24)
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