カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

家族2024年05月27日 共同親権制度の導入による実務への影響 執筆者:矢吹保博

1 はじめに

 令和6年4月16日に共同親権制度の導入を主眼とする民法改正案が衆議院で可決されました。近いうちに参議院でも可決されて成立することが見込まれています。成立した場合、公布から2年以内に施行されることが予定されています。
 共同親権制度については賛否の意見が大きく対立しています。
 賛否の意見いずれにも相応の理由がありますので、本稿ではその点には立ち入らず、共同親権制度が導入されることによって実務にどのような影響が出るかについて触れたいと思います。
 なお、本稿執筆時点では改正民法案はまだ成立していないこと、法務省のウェブサイト(※)に掲載されている法案を前提に執筆したことをご了承ください。

2 裁判所による関与事案

 改正法案において、裁判所が関与するケースが設けられています。例えば、
・面会交流(第817条の13)
・父母以外の親族との面会交流に関する審判(第766条の2)
・法定養育費(第766条の3)
・財産分与(第768条)
・15歳未満の者を養子とする縁組(第797条)
・裁判上の離婚の場合における親権者の決定(第819条2項)
・親権者の変更(第819条6項)
・親権の単独行使に関する決定(第824条の2第3項)
などが挙げられます。

3 裁判所の負担が増加するのでは

 これまでにも、面会交流や財産分与、親権者の決定や変更については、当事者間の協議が調わない場合は裁判所が決定してきましたが、今後、改正民法が施行されると、裁判所の負担が増加することが予想されますので、その一部について触れます。
 ⑴ 父母以外の親族との面会交流
現在、面会交流を求める調停を申立てることができるのは父母のみです。これが改正民法によって、父母以外の親族も申立てることができるようになります。
離婚成立の前後を問わず、父母の信頼関係がある程度維持されている状況であれば、面会交流もスムーズに実施されていることが多く、そもそも面会交流の調停を申立てるまでに至りません。他方で、面会交流の調停の申立てが必要なケースは、いわゆる高葛藤事案と呼ばれるような、父母の信頼関係が破綻していることが多いのが実情です。このような場合、監護親側が、非監護親との面会交流は認めるもののそれ以外の親族や第三者との交流は認めないと主張するケースが少なくありません。
改正民法施行後は、父母のみならず父母以外の親族による面会交流を求める調停の申立てが行われることになり、事件数が増えることが予想されます。
 ⑵ 親権者を巡る事案
離婚調停において大きな争点になる事項の一つが親権です。ただ、現在の実務上、別居している父母間で親権が一応の争点となっている事案であっても、監護親が親権者として妥当と判断されることが多いため、非監護親側が積極的には争わず、早々に決着するというケースをよく見かけます。
しかし、改正民法施行後は、非監護親であっても共同親権が認められることになるため、共同親権か単独親権かについての争いが長期化するケースが増えるのではないでしょうか。
また、現在の実務では、親権者変更が認められるケースは決して多くなく、ハードルが高いという認識でしたが、改正民法により共同親権への変更を求めるケースが増加するのではないかと思われます。改正民法が施行される前に離婚が成立している父母間においても親権者変更の申立ては可能ですので、離婚時における親権者の取り決めに不服を持っている非親権者が、改正民法施行後に申立てを行うというケースが起きると予想されます。
 ⑶ 親権の行使を巡る事案
共同親権を選択した場合、親権は共同で行使することが原則です。つまり、父母の合意に基づいて親権を行使するわけです。
とはいえ、どのような事項であっても父母の意見が合致するとは限りません。このような場合に、家庭裁判所に対して、当該事項について父母の一方が単独で行使できるよう求めることができるという制度が新設されました。
この制度について、改正民法案第824条の2第3項では、「子の利益のため必要があると認めるとき」という基準しか規定されておらず、不明確と言わざるを得ません。今後、具体的な判断基準が示されなければ、家庭裁判所への申立件数が増大するのではないかと懸念されます。

4 最後に

 筆者は、現在の家庭裁判所に関する実務上、調停の期日がなかなか決まらないという感想を持っています。次回調停期日が3か月後、ということも珍しくありません。
 上記の通り、改正民法が成立して施行されると、家庭裁判所が関与する事案が増大することが予想されますので、施行前には家庭裁判所の人員増加など、体制の充実を希望するばかりです。

(2024年5月執筆)

(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索