カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

民事2020年10月21日 集団的消費者被害回復手続活用事案の行方(3) 執筆者:井田雅貴

1 私が2月と6月に執筆した「集団的消費者被害回復手続活用事案の行方(1)、(2)」(*1)では、集団的消費者被害回復制度を利用した訴訟手続の第1号事件の概要と、東京地方裁判所で、2020年3月6日に判決が出て、特定適格消費者団体の勝訴、事業者側が同判決に控訴せず、確定したこと、を紹介した。
 今回の原稿では、当該事件の第2段階である対象債権の確定手続の進行状況や、新たに、別の提訴がなされているので、当該事案もご紹介する。

*1)
「集団的消費者被害回復手続活用事案の行方(1)」
https://www.sn-hoki.co.jp/articles/article339220/
「集団的消費者被害回復手続活用事案の行方(2)」
https://www.sn-hoki.co.jp/articles/article558894/

2 対象債権の確定手続の進行
 手続の進行状況は、訴訟当事者である特定適格消費者団体のHP(*2)に詳しく掲載されている。

*2)
「認定NPO法人 適格消費者団体・特定適格適格団体 消費者機構日本」
http://www.coj.gr.jp/trial/topic_200616_01.html

(1)本事案で入学検定料等の返還が受けられる方(対象消費者)
(2)本事案で返金が期待される額
(3)特定適格消費者団体に支払う費用・報酬の見込み
(4)対象消費者から提供を受けた個人情報の取り扱い
(5)今後のスケジュールの見通し等
 として、極めて丁寧で詳細な説明がなされている。本制度の趣旨が、少額被害を被った多数消費者の被害回復であることに鑑みれば、これほど丁寧に説明がなされたなら、消費者も安心して手続に参加できる。
 また、上記のURLには、参加を検討される消費者に確認して欲しい内容として、「手続参加の方法」、「被害回復裁判手続の概要」、「共通義務確認訴訟の確定判決の内容」、「費用・報酬規程」が記載され、消費者が、対象債権確定手続に参加する際に必要な書類も記載されている。
 特定適格消費者団体は現在3団体あり、今後も増加することが予想されるが、今回の対応は誠に参考となるべき対応といえる。

 現在、対象債権の確定手続への参加は締め切られている。今後の手続の流れは、「特定適格消費者団体の確認作業(消費者から適法に授権されているか否か)」「特定適格消費者団体が裁判所に対して債権届出を行う」「債権届出に対する事業者側による認否」である。
 事業者側の認否が終了した後は、下記のとおりとなる。

 事業者が、個別消費者が届け出た債権を全額認めた場合、債権が確定する。
 事業者が、個別消費者が届け出た債権の全部または一部を認めなかった場合、特定適格消費者団体が、事業者側の認否を争うか否かを明らかにする。
 この場合
 ・事業者側の認否を争わなければ債権が確定。
 ・事業者側の認否を争う場合、裁判所が簡易確定決定を行う。
係る決定につき、当事者のいずれからも異議の申立てがなければ債権が確定。

 特定適格消費者団体は、相手方から、確定した債権額につき支払いを受け、消費者に分配する。

 特定適格消費者団体がこれだけの手続を行うものである。まるで、大規模倒産事案における破産管財人のような役割を担っているかのようである。
 筆者は、過去、ある適格消費者団体の理事として関わっていたことから団体運営が容易でないことは重々理解している。法律専門家ばかりがいるわけではない団体が、上記の手続を履践できることや、消費者に対する丁寧な説明には感服するほかない。日本には、このように、消費者のリスクを極力排した集団的消費者被害回復システムが存在することを、是非、多くの消費者が知って欲しいと願うものである。

3 別の共通義務確認訴訟
 上記の特定適格消費者団体は、別に2つの共通義務確認訴訟を提起している。
 1つ目は、別の大学の医学部入試試験において、女性と浪人生に対する不当な選抜基準を設けていたことに関し、平成29年度・平成30年度の入学試験において不利益な扱いを受けた受験生への入学検定料等の返還を求めるものである。
 2つ目は、ある株式会社が販売した商品につき、消費者に対する勧誘は虚偽、あるいは少なくとも著しく誇大な効果を強調して説明をしたものであって、違法であるとして、売買代金相当額の返還を求めるものである。
 2つ目の裁判は、事業者の勧誘方法を立証する必要があることなど、大学入試に関する訴訟よりも複雑だと評価できる。しかし、本訴訟に勝訴した場合には、同種事案に対する影響力が大きい(違法な勧誘行為の抑止に繋がることは言うまでもない。)ことから、是非、勝訴して欲しいと願うものである。

(2020年10月執筆)

執筆者

井田 雅貴いだ まさき

弁護士(弁護士法人リブラ法律事務所)

略歴・経歴

出   身:和歌山県 田辺市
昭和63年:京都産業大学法学部法律学科入学
平成 4年:京都産業大学法学部卒業
平成 7年:司法試験合格
平成 8年:最高裁判所第50期司法修習生
平成10年:京都弁護士会 谷口法律会計事務所 所属
平成14年:大分県弁護士会登録変更 リブラ法律事務所 所属
平成16年:弁護士法人リブラ法律事務所に改組

執筆者の記事

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索