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一般2025年05月26日 続・保釈の話 執筆者:石丸文佳

 前回に引き続き、保釈の話です。今回は、保釈実務の法律との乖離が嘆かわしいという話です。
 重罪での起訴や前科がある場合ではないケースで保釈が認められないものは、大抵は罪証隠滅の疑いがあることを理由としています。
 一般の方には意外かもしれませんが、実は条文上、逃亡のおそれは保釈を認めない条件にはなっていません。逃亡のおそれは保釈保証金で担保する、というのが法の考え方です。

 罪を認めている事件で保釈が出やすいのは、既に認めているのだから今更証拠を隠滅する必要もないだろうと推認されているわけです。裏を返せば、否認していれば証拠を隠滅する動機が残る、というわけですね。
 罪証隠滅の疑い、というのは本来はゼロリスクを求めるものではありません。条文上も、「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき」と定められています。「相当な理由」が必要であり、「おそれ」「可能性」程度では条文上は保釈を却下できないことになっています。ところが保釈実務は、実際にはゼロリスクを求めているし、場合によってはゼロリスクすら通り越して、単に保釈を通さないための形骸的な理由として使われています。
 一例を挙げます。否認しているため、調書のほとんどが不同意とされ、検察側も弁護側も証人尋問請求を複数名行っている事件では、検察側証人の尋問が終わるまで、「証人に接触して口裏合わせをさせるおそれ」を理由に保釈は当然のように出ません。被告人が検察側証人の現在の居場所を知らなかったとしても、です。
 ここまでは、そうは言っても道端で出会う可能性や、探偵を使って調べたら居場所がわかるかもしれない可能性はゼロではないので、ゼロリスクを求めることが許されるのであれば一応理屈は通ります。
 しかし、この時点で弁護側は大幅に不利です。何故なら、保釈されていないので、極力早く検察尋問を終了させて保釈を狙いたいがために、尋問に時間をかけられないからです。つまり、証人の数を絞り、尋問時間を絞るほど、尋問の終了は早くなります。そうすると、不本意ながら調書の一部に同意することで尋問を回避せざるを得ないことがあるのです。
 更に、検察側は主尋問なので、証人と打ち合わせをしておけば、 そうそう予期しない尋問の展開にはなりません。一方の弁護人は反対尋問なので、主尋問を聞くまで本来は反対尋問を組み立てられませんが、尋問を別日に設けると時間が倍かかってしまうので、調書通りに主尋問が進むと仮定して準備をせざるを得ません。

 待望の検察側証人の尋問が終わった時点でも、保釈は出ません。弁護側証人は、被告人の主張に沿う証言をする者なので、口裏合わせをしなくても被告人が望む証言をしてくれます。ですので、この段階では、証人と口裏合わせをする可能性はゼロです。
 ところが検察官は、「既に終わった検察側証人に接触して証言を覆させるかもしれない」「弁護側証人は被告人と近しい関係だから、より一層口裏合わせが容易であるはず」と言って保釈に反対します。検察側証人の証言は、既に公判調書として確保されており、これを隠滅することはどうあってもできません。仮にその後、検察側証人が証言を覆すことがあったとして、保釈後にそのような証人について再度証人申請を弁護側が行っても、裁判所は決して採用しないでしょうし、採用されたところで証明力などあったものではありません。弁護側証人は、そもそも口裏合わせをするまでもなく弁護側に有利な証言をしてくれますから、検察官の反対意見は単に裁判を有利に進めたいと言う動機からくるこじつけです。
 というのも、この段階では更に弁護側は裁判で不利な状況になるからです。今度は弁護側が主尋問で、検察官は反対尋問を行うことになります。検察官としては、主尋問を聞いてから反対尋問の準備をしたいので、弁護側に主尋問の内容を明らかにするよう求め、拒否されれば反対尋問を別日にするよう求めます。保釈させたくない検察側には、裁判を急ぐ理由が全くないからです。ここでも、保釈されていないので尋問に時間をかけたくない弁護側は、主尋問の内容を明らかにすることを事実上強制されることになるのです。
 既にゼロリスクであるにもかかわらず、裁判を有利に進めたいためだけに保釈に反対する検察官の主張を、嘆かわしいことに裁判所は受け容れています。これが、現在の保釈の実務です。

 否認すれば、出られない。このような現実がまかり通っているのは、裁判所が過度に保釈した際に起きるトラブルで責任を問われることを恐れて、法律の条文とは異なる運用をしているからだと思っています。

(2025年5月執筆)

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