一般2024年07月17日 消費者被害古今東西 執筆者:石丸文佳
私は、消費者被害に関する相談を比較的よく取り扱っていますが、詐欺的な消費者被害は悪い意味で「日進月歩」だと感じます。勧誘側が、どうすれば警察等の追及を免れてお金を取れるかを実によく研究していると思われるのです。勿論今でも、単純な特殊詐欺は蔓延していますが、単純な特殊詐欺は被害者と接触する受け子や出し子が捕まることが前提です。クーリングオフやチャージバックを駆使されると、お金を取れないこともあります。それが、今は受け子や出し子の犠牲の上に上位者が儲けていた以前の詐欺と異なり、接触する者も捕まらずに済み、かつ送金させてしまえばほぼお金を取り返すことができなくなるような技術(?)が日々磨かれているのです。
欺罔行為自体は、それほど目新しいわけではありません。例えば、成人年齢が18歳になったこともあり、親元を離れて大学に入学したばかりの学生が、研究会があるとかすごい人の話を聞ける等の謳い文句でセミナーや喫茶店に誘われます。そして、何某かの商材を買わせようとしたり、最初に資金を投入すれば後は自動的に儲かるというような投資もしくは副業もどきを勧められたりするわけですが、普通はこの年の学生に余剰資金はないので、お金がないと答えます。すると、様々な手法(本人が借金を意識できているかどうかはともかく、究極的にはその手法は全て「お金を借りる」というものです)でお金を用意させます。
ただ、従来は、お金がなくてもクレジットカードで買えばいいとか、一歩進んで消費者金融で学生ローンを組めば借りられる、借りた分はすぐ返せるから大丈夫だと言って借りたお金を振り込ませるというような手法が多かったのです。勿論今でもこういう手法はありますが、この場合はむしろ本人に明確に借金をしている自覚がありますし、クーリングオフやチャージバックを行使する、あるいは送金先の口座を凍結したり差し押さえたりすることで被害を回復できるという対策がありますので、このようなやり方はむしろ過去のものになりつつあります。
最近の、接触する者が捕まらずに済む方法と、お金を取り戻しにくくなる方法について説明します。なお、このコラムによって、詐欺師がやり方を学ぶということはありません。詐欺師にとっては既に当たり前の手法であり、しかし騙される側にとってはまだ目新しい情報という意味で、ここでご紹介をするものです。
§接触する者が捕まらない手口§
まずは、最後まで接触者の具体的な情報をほとんど与えないという方法があります。
主にSNS上だけで繋がっており、インスタグラムやLINEのアカウントしかわからない、実際に会うことがあったとしてもほんの1,2回で、SNS上の呼び方しか知らないというようなケースです。あるいは、携帯電話の番号を知っていても、その携帯電話の契約者がペーパー会社名義だったり、あるいは携帯電話自体が別の詐欺被害者に契約させたものであったりすると、接触者の情報が得られません。弁護士にはアカウントから情報を開示させる手段がないわけではありませんが、簡単ではないというのが実情です。結局は警察が動かなければ、難しいことが多いです。
他にも、接触者の情報は多少わかるものの、警察が関与しにくい構造を作るという手口があります。
先程述べたように、与えた情報が最低限であっても警察が動けば接触者は身バレする可能性があるので、警察が動かないという状況を作ることが最も安全です。そこで、返金意思があることを積極的に示しておけば、欺罔の意思の立証が困難ということで、警察はあまり動いてくれません。これを逆手にとって、資金繰りが難しくなったので今すぐは無理だけど返す気はある、と断言し、実際数回は返金して見せてから手を引くことを繰り返す者がいるのです。
§お金を取り戻しにくくなる手口§
これは、「口座を通さない」という手口になります。少し前は、現金授受という方法がメジャーでしたが、これは特殊詐欺で逮捕者が続出していることからわかるように、接触する人間にリスクがあります。そのため今は、メジャーな手法として暗号資産が使われています。
暗号資産は、いくつものウォレットを経由して最終的に海外に送金されることが多いため、自分のお金がどこに送られたのかが追い切れず、仮に追えたとしても日本法のもとでは回収が困難になります。
あるいは、クレジット枠の現金化の亜流もあります。一般的なクレジット枠の現金化は、クレジットの枠の範囲で買える何かを選んでクレジットカードで購入した直後に安く売ることで現金を取得するという手法ですが、ここでは同様にクレジット枠の範囲で買える何かが詐欺師によって指定されています(おそらくは詐欺師の仲間の店です)。被害者は物品の対価を払いますが、実は買主は別人になっており、物品は別人のところに届く(あるいは届いたことにする)のです。要は、他人のためにお金を払ったという形です。後に買主は、売買契約をキャンセルします。すると、物品は売った先に戻される(あるいは初めから物の移転がない)ので売り先に被害はなく、売却代金は買主に返され、この手法だと、チャージバックやクーリングオフも使えないのでお金を払った人には何も戻りません。お金を払った人には売主しかわかりませんが、売主が詐欺師とグルである証明は難しいのです。
これらはあくまで一例です。そして、どれも全く被害回復手段がないとは言いませんが、難しいものがあることは事実です。被害回復に先んじて、被害防止の啓蒙が必要な所以です。このコラムを通じて詐欺師の手口を知ることで、少しでも被害に遭う方が少なくなることを願ってやみません。
(2024年7月執筆)
(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)
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