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福祉・保健2024年03月25日 高齢者の身元保証問題 執筆者:石丸文佳

 私は現在、消費生活相談員の有志が立ち上げて活動している高齢者問題研究会という会に関与しています。この会が現在関心を持っているのが、高齢者の身元保証問題です。
 高齢者の身元保証問題とは、高齢者が施設に入居したり病院に入院したりする際、多くは身元保証人を立てることを要求されますが、家族がいない、あるいはいても頼れないような関係性にある等で身元保証人の当てがない高齢者は施設入居や入院ができないのか、という問題です。これは、生涯独身人口が増えており、離婚や死別も含めると今後益々おひとり様が当たり前になるであろう時代において、誰もが他人事ではありません。
 施設や病院が身元保証人を求めるのは、大別すると①本人が支払等を行えなくなった場合の連帯保証人としての役割、②医療行為等が必要になったものの本人意思が確認できない場合に代わりに意思決定すること、③死後のお骨や財産等の引き取りが理由です。つまり、経済面の担保、本人意思がはっきりしないときもしくは本人意思が存在しない死後の決定行為を行う役割を身元保証人に求めているわけです。

 しかし、実際には身元保証人がいなくとも入所等ができることはあります。主に、後見人等が就いている場合です。勿論、後見人等が就いていてもなお身元保証人としての署名を迫ってくる不見識な施設等がないとは言いませんが、それがなくとも入所等が可能というのは既に通説と言って良いでしょう。
 後見人等が就いていれば、後見人等は本人の負債の肩代わりはしませんが、本人の資産から必要な支払をしてくれます。資産に見合わない施設等に入所させることはないですし、一旦入所したものの、このままでは遠からず施設等の費用を払えなくなりそうだと判断すれば、安価な施設等に移る手続もとります。だから、施設等は経済的な不安を抱く必要がありません。
 後見人等は医療同意もできませんが、それは施設等に入所する前に予め、いざというときの対応を本人に決めておいてもらえれば済む話です。入所中に胃ろうが必要になったときに希望するか、延命措置を取るか、施設で看取りまで希望するかといった事項を予め書面で提出させている施設等も多くあります。医療行為は本人の希望が第一優先ですから、身元保証人が決めるよりも余程良いと言えます。
 後見人等は基本的には生前の本人の身上監護と財産管理を行うものではありますが、多くの後見人等は適当な親族がいなければ、御遺体を荼毘に付してお骨を引き取る等、然るべき死後事務を行っています。だから、後見人等が就いていれば、施設等も身元保証を強く求めないことが多いのです。
 後見人等が就くほど能力が衰えれば、身元保証は不要であり、後見等を活用すればよいというわけです。
 では、後見人等が就くような能力の衰えがない場合はどうでしょうか。このような場合は、本来本人が然るべき経済行為と意思決定を行えばよいのです。死後の問題は残りますが、それは生前に自身で死後事務委任契約等を締結することで、同様に身元保証はなくても大丈夫という結論になります。

 ところが、本人に能力があるなら身元保証は本来不要であるにも拘らず、施設等が「うちに入所するならこの業者との身元保証契約を締結することが条件である」という対応をとってくることが往々にしてあります。この場合の問題は、高齢者側に選択権が全くないということです(選択権は施設に入所するかしないかという点のみ)。
 問題となる多くの身元保証契約は、①身元保証だけでなく財産管理や任意後見契約、遺言作成等、本人が必要ないと思う部分まで一括契約を強いられるうえ、②後見人等と比して極めて高額な費用を要求することがほとんどです。更に、③サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)等の介護度が低めの高齢者を対象とする施設の場合、必ずしもそこに最期までいられるわけではないにも拘らず、移転先の施設ではその身元保証業者が使えない可能性があり、後に希望の施設に移れなかったり、移れたとしても更に別の業者と高額な身元保証契約を再度締結しなければならなくなったりするのです。契約自由の原則からは程遠く、このような問題を回避しようと思うなら、能力が衰えるまで施設等には入らないという唯一許された選択権を行使して、あとは後見人等が就任するまで待つということになるでしょう。しかし、必要のない身元保証契約を強制されるような現状は望ましいものではなく、本来は行政の介入が必要だと考えます。
 この点、厚生労働省は、認知症と向き合う「幸齢社会」実現会議というものを開催し、その中で生活困窮者向けの身元保証等の仕組みを作ろうとしています。要は、民間の身元保証による支援を受けられない無資力者でも、必要に応じて施設等に入れるようにしようということです。
 しかし、これは全く不完全な話だと私は考えています。資力がなくても後見人等が就けば、必要なときに施設等に入れないということはないのです。むしろ、資力がある高齢者に付け込んで、民間レベルで問題のある高額な契約を押し付けて暴利を得ている業者がいることこそが問題だと思うのです。

(2024年3月執筆)

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