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一般2023年05月17日 ChatGPT 問題 執筆者:石丸文佳

最近、ChatGPTというAIが流行りのようです。何でも 質問を打ち込むと、数秒で回答が出てくるとか。
勿論 これまでも、ネットで検索すれば質問に対するある程度の回答は得られたのですが、 検索結果を更に辿って行かないと答えに辿り着けないのと異なり、ChatGPTだと一発でそれらしい回答文が示されるらしく、学生がレポートや試験の回答に使ってしまったり、企業、果ては国家レベルで使用しているところもあるそうです。
既に、このAIの功罪は様々なところで指摘されています。AIが参考にした元データがそもそも正しくない場合、回答が全く虚偽の内容になってしまったり、回答が正しくとも元データの著作権を犯しているのではないか、等々です。いみじくも巷で言われているように、「ChatGPTはもっともらしい嘘をしたり顔で述べる人によく似ている」というところでしょう。
…さて、この程度の説明は、それこそChatGPTに聞けばそのものの説明から現状の扱われ方、長所、短所まで網羅して示してくれそうですので、人間の有用性を示すには、AIを超える独自性や創作性が要求される時代になりました。ですので、ここでは、ChatGPTによって裁判が素人でも自力でできるようになるのか、という点を掘り下げて書いてみたいと思います。一弁護士としては死活問題とも言える問題です!
まず、刑事事件では ChatGPTの出番は少なそうです。ChatGPTがどれだけ過去の判例を積み上げても、それは類似事例であればこのくらいの量刑、というのが出せる程度で、ひとつとして同じ事件は存在しない以上、有罪か無罪かを示すことまではできないでしょう。百歩譲って、裁判所ならばこのような事実が認定されればこのような判断になる、という限度でAIを使って判決を書けるかもしれませんが、弁護人としては無罪を主張する被疑者・ 被告人の意思を無視して、過去の判例に照らし合わせれば有罪らしいから有罪、とするような書面は書けません。となると、従来 と同じく、刑事弁護人は無罪になりそうな事実を拾い集めてそこに焦点を当てて書面を書き、あるいは自白事件であっても罪を軽くするための示談交渉や情状の材料を新たに作ることになります。そのようなことは ChatGPTにはできませんから、刑事弁護人の仕事はAIでは代替できそうにありません。
民事事件や家事事件ではどうでしょうか。たとえば不貞慰謝料を請求する事件があるとして、ChatGPTは事実に忠実に書面を作るというより、事例を作り上げて訴状を書いてきそうです。実際の事実とは異なっていても、ChatGPTはこういう事実であれば勝てる、こういう判例があれば勝てるという判断を前提に訴状を書きそうだと思うからです。もとより、人は嘘をつきますから、ありもしない事実、勘違いしてい る事実を基に請求を行うことはこれまでにもあったことですが、今後はなお一層、証拠に基づいた事実が記載されているかという確認が必要になりそうです。一見、もっともらしい訴状や準備書面をChatGPTは書いてくれそうですが、やはりそれだけでは裁判に耐えられません。書面内に判例の指摘があっても、その判例が実在するかどうかが明らかにされなければなりません(ChatGPTで法律相談をしてみたところ、架空の判例を創作して回答してきたという話を聞いたことがあります )。これまでは、判例の指摘はいちいちそのような判決を証拠として提出しなくとも公知の事実とされていた部分があるのですが、そのようなしきたりは通用しなくなるでしょう。
とはいえ、何となくそれらしい書面が書けてしまう以上、費用を掛けたくないという人による本人訴訟は増えるのかもしれません。しかし、全くの素人が本人訴訟を行えば、おそらくは裁判が進行するにつれ、思わぬ主張をしたことになってしまって墓穴を掘ったり、然るべき証拠を然るべき時に提出できなくて敗訴することもまた増えそうです。意外と、弁護士の価値は上がるのかもしれません。
今回は、弁護士業に焦点を当てて述べてみましたが、おそらくどんな職種でも、人の手や目線が入ることによって価値を作出できる部分はきっと存在しています。このことは、反面、人は自らの能力を高めることを怠ってはいけないということでもあります。AI頼みで勉学を怠ってしまった学生には、是非とも肝に銘じてほしいですね。

(2023年5月執筆)
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