一般2025年09月02日 保護者(親)を巻き込んだコンプライアンスの実践のススメ 執筆者:飯田研吾

 中央競技団体向けのスポーツ団体ガバナンスコードでは、役職員向けのコンプライアンス教育、選手及び指導者向けのコンプライアンス教育、並びに、審判員向けのコンプライアンス教育を実施すべきと定められている(原則5)【1】

 一方で、未成年選手の保護者(親)に対するコンプライアンス教育については触れられておらず、少なくとも、ガバナンスコード上は保護者へのアプローチという点はあまり意識されていないように思われる。

 しかし、ここ最近、保護者を巻き込んだコンプライアンスの実践の必要性を感じる出来事が増えており、今回は、そのことについて少し述べたいと思う。

 1つ目はセーフガーディングの観点からである。指導者や役職員向けに、暴力・ハラスメント(暴力等)の根絶に向けた研修は広く実施されるようになってきた。しかし、選手、特に未成年選手に対する暴力等の背景には、保護者が子どもに対する暴力等を容認しているケースも珍しくない。また、保護者が子どもに対して寝る時間も十分に確保できないほど長時間・夜遅くまで練習をさせたり、期待をかけ過ぎてしまって精神的に追い込むケースもみられる。

 海外に目を向けると、例えばアメリカでは、U.S. Center for SafeSportという暴力等の問題に取り組む専門機関が、「Parent and Guardian’s Handbook for Safer Sport」【2】という保護者向けのハンドブックを公表している。また、カナダでは、中央競技団体向けの研修ツールの中に、保護者向けのプログラムが用意されている【3】

 2つ目は、指導者と保護者との関係性という観点からである。特にスポーツ少年団や地域のスポーツクラブ、民間のクラブチームといった小規模なスポーツ団体において、自分の子どもが活躍している姿をたくさん見たい、自分の子どもをレギュラーにしてほしい、といった思いから、指導者に対して、過度な要求を行うケースが見られる。指導者側(団やクラブ側)で、ポリシーや方針を策定・公表することや、保護者とのコミュニケーションを密に図っていくことが重要であるが、同時に、保護者側の意識・考え方を変えていく必要性を感じる。

 最後に3つ目は、保護者同士のトラブルの防止という観点である。保護者同士がSNS等で悪口を言い合う、ある子どもの保護者を仲間外れにする、場合によっては、ある子どもをクラブやチームから辞めさせようと動く、といったケースを見聞きする。こうした保護者同士のトラブルの最大の被害者は言うまでもなく子ども(選手)である。

 手前味噌となり恐縮であるが、私も策定に関わったユニセフの「子どもの権利とスポーツの原則」【4】において、保護者は、子どもを取り巻く大人の中でも、最も重要な支援者と位置付けられており、スポーツを通じた子どもの健全でバランスのとれた成長をサポートすることが期待されている。

 保護者の行動一つによって、子どものスポーツ環境が大きく変わり得るだろうと、私自身、子を持つ一人の親として、強く感じるところである。

 今後、中央競技団体を始めとするスポーツ団体では、指導者や選手だけでなく、保護者も巻き込んだ形で、対話やコミュニケーションを通じたコンプライアンスの実践に力を入れていく必要があるのではなかろうか。




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(2025年8月執筆)

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