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医療・薬事2020年05月25日 発足から5年目に入った医療事故調査制度 執筆者:末吉宜子

1 医療事故調査制度の発足までの経緯
医療事故が起こった時、患者・遺族は、なぜこのような事故が起こったのか、知りたいと願う。しかし、医療行為が患者・遺族の目の届かないところで行われ、医療が高度の専門性を有する分野であることから、何が起きたのかを知ることは実は容易ではない。 一方で、医療事故の原因を明らかにすることは、再発を防止し、医療安全のためにも不可欠である。
医療事故調査制度の創設に向けての運動は、2000年(平成12年)頃から始まり、2005年(平成17年)には、「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」が開始された。
厚労省は、2007年(平成19年)4月に医療事故調査制度創設に向けた議論を開始し、2012年(平成24年)に「医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会」が発足した。その検討部会で「医療事故に係る調査の仕組み等に関する基本的なあり方」の公表がなされたのが2013年(平成25年)5月であった。そして、2014年(平成26年)6月に医療法が一部改正され、「医療事故調査制度」が創設された(施行は、2015年(平成27年)10月1日)。
2 医療事故調査制度の仕組みと当初から指摘されていた問題点
創設された医療事故調査制度の概要としては、「医療事故」が発生したときに、医療機関が自ら事故原因を調査・分析し(院内調査)、その調査報告を第三者機関(医療事故調査・支援センター)が収集・分析し、再発防止に繋げる、というものである。現在、一般社団法人日本医療安全調査機構が、厚生労働大臣の指定を受け、医療事故調査・支援センターとしての業務を行っている。
制度発足の当初から、問題点として次のようなことが指摘されていた。
① 調査を開始すべき「医療事故」の範囲
この制度での「医療事故」は、医療機関において「予期しなかった死亡または死産」である。医療行為が行われる前に患者・家族に死亡、または死産が起こりうることを説明していた場合やカルテ等に起こりうることが記載されている場合は、「医療事故」にはあたらない。また、対象はあくまでも死亡または死産であり、後遺症が残ったケ-スは「医療事故」にはあたらない。
患者が亡くなった場合、死亡の可能性について事前に医療機関から十分な説明があったかどうかは、事後によく争われる。この制度は、下記②のとおり、医療事故該当性の判断が医療機関側に委ねられていることと相まって、遺族としては納得しがたい場合があるのではないか、と指摘されていた。
② 医療事故該当性の判断について、病院等の管理者に委ねられていること
「医療事故」の範囲は上記のとおりであるが、その該当性の判断は医療機関に委ねられている。医療行為が行われる前に患者・家族に死亡・死産の可能性を説明した、など「医療事故」ではないと医療機関が判断したことに対しては、制度上、遺族は異議を申し立てることは認められていない。
③ 院内調査の方法について、その手法は各医療機関に委ねられていること
医療法規則には調査の項目の例示はあるが、具体的にどのようにそれらの調査をするのかについては触れていない。また、調査を行う体制(委員会の設置やメンバーの構成)についても規定はない。
3 制度創設から4年間の統計資料にみる運用実態
医療機関が「医療事故」について調査・分析を行った報告書は、第三者機関である医療事故調査・支援センターに送られ、集計・分析がなされる。
日本医療安全調査機構では、月ごとのほか年ごとでも各医療機関から上がってくる院内調査報告書の集計をし、対外的に公表をしている。この度、2020年3月に、2019年の年報が公表された。
そこには、制度が創設され、動き出した2015年10月から、2019年12月までの4年間の統計が記載されている。
その統計でまず目を引くのは、報告件数である。2015年は10月から12月までの3か月であったため、81件と少なかったが、2016年は406件、2017年は370件、2018年は377件、2019年は373件とほぼ横ばいである。制度発足前は、年間1500件~1600件くらいになるのではないかとの見通しだったということであるから、これらの数字は非常に低いとみるべきであろう。
同統計によれば、病床規模別の報告実績で、500床台の規模の医療機関でもこの4年間に1件も報告実績がないところが54.5%あり、700床台でも40%ある。医療事故調査制度が十分運用されていないのではないかと懸念される。
「医療事故」の該当性の判断が医療機関に委ねられ、その判断に対して遺族は異議申立てができないという制度設計が影響しているのではないだろうか。
医療事故調査・支援センターへの相談内容の統計では、医療事故報告の対象についての医療機関からの相談は、2016年、2017年は200件以上あったが、その後は100件台に落ちている。これに対し、遺族からの相談は、医療事故の対象についての相談が、2016年は182件、2017年は223件、2018年は374件、2019年は406件と増加している。「医療事故」の該当性について、遺族が問題としていることが伺われる。
4 まとめ
医療事故調査制度は、遺族の思いに応え、医療安全に資するものとして長い年月をかけてようやく創設されたものである。実効性のある運用がなされるよう、制度の見直しも含め、今後とも注視していきたい。

(2020年5月執筆)

執筆者

末吉 宜子すえよし たかこ

弁護士

略歴・経歴

資格 弁護士
   1983年弁護士登録(東京弁護士会)

役職 東京弁護士会消費者問題特別委員会 委員
   日弁連消費者問題対策委員会 幹事
   医療問題弁護団 副幹事長

著書(共著) 医療紛争の法律相談(青林書院 2003)
       医療事故の法律相談(学陽書房 2009)
       美容医療トラブル解決への実務マニュアル(日本加除出版 2018)

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