企業法務2022年09月29日 育児・介護休業法改正がいよいよ施行へ~男性の育児休業の取得は進むか~ 執筆者:末吉宜子
1 はじめに
2021年6月、育児・介護休業法が改正され、2022年4月1日以降、順次施行されることとなった。本稿では、これまでの育児・介護休業法の成立と改正の経過、2021年6月改正の主な改正点、そして改正された制度それぞれの施行時期、などについて紹介し、今回の改正で、男性の育児休業の取得は進むのか、考えていきたい。
2 育児・介護休業に関する法律の成立と主な改正の経過
育児・介護休業法の前身は、1991年に成立した「育児休業等に関する法律」である。この法律で、育児休業・短時間勤務等が制度化された。従来、女性看護師や女性教師に限って認められていた育児休業を男性を含めたすべての職種に広げて認めたのである。
1995年には、現在の名称の「育児休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」として改正された。育児休業に関しては、満1歳に満たない子を養育するために最長1年の育児休業が認められた。そしてこの法律で介護休業が制度化され、連続3か月を限度に1人1回の介護休業が認められた。
2004年の改正では、子の看護休暇が制度化され、小学校への就学開始時期に達する前までの子を養育する労働者が、子供の病気や負傷など看護のために、子の人数に関わらず1年間に5日を限度として休暇を取得できることとなった。また、育児休業期間も最長1年半まで延長された。
2009年には介護休暇の制度が創設され、1年に 5日まで、対象家族が 2人以上の場合は 10日までの、介護休暇の制度が新設された。また、育児休業期間については、それまで子が満1歳に達するまでとされていたところを、父母がともに育児休業を取得する場合は、1歳2か月に達するまでとなった。これは「パパママ育休プラス」と名付けられた。
2016年の改正では、育児休業の期間が、保育園に入れないなどの場合に、これまで最長1歳半までだったところを最長2歳まで再延長が可能となった。
このように育児・介護休業法が改正を重ねてきた背景には、出産、育児、そして親などの介護によって、多くの人が仕事を辞めざるを得ない状況にあり、それに何とか歯止めをかけたいとの意図があったものといえる。
3 2021年6月の改正の柱と施行時期
2021年6月に改正された育児・介護休業法の主な柱としては、次の6項目である。
(1) 男性の育児休業取得促進のための「産後パパ育休」の創設(施行は2022年10月1日)
子の出生後8週間以内に4週間まで取得することができる枠組が創設された。女性は、出産後最大8週間の産後休業を取得できるが、同じ期間、配偶者も育児のための休業を取得できることとなった。出産後の付き添い、退院時の付き添い、新生児期の子どものケアなど、出産直後ならではの育児への関わりが求められていたことを制度化したものである。そして2回まで、分割取得を可能としている。
(2) 育児休業の2回までの分割取得(施行は2022年10月1日)
(1)の「産後パパ育休」とは別に、育児休業も2回までの分割取得が可能となった。男性の育児休業を取りやすくするための制度改善である。
(3) 育児休業の制度周知、取得意向を事業主が確認する義務(施行は2022年4月1日)
妊娠・出産(本人または配偶者)の申し出をした労働者に対して、事業主から個別に育児休業の制度の存在を説明し、休業取得の意向を確認することを義務づけた。これも男性の育児休業を取りやすくするための制度改善である。調査によれば、上司などから説明や働きかけがあった場合、育児休業の取得率が上がっているとのことである。
(4) 育児休業の取得状況の公表の義務付け(施行は2023年4月1日)
常時雇用する労働者数が1000人を超える事業主に対して、育児休業の取得の状況の公表を義務付けた。これも育児休業を取りやすくする環境整備の促進を目指す制度改革と思われる。
(5) 有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和(施行は2022年4月1日)
有期雇用労働者については、これまで「事業主に引き続き雇用された期間が1年以上である者」との要件があったが、これを廃止した。
(6) 育児休業給付に関する所要の規定の整備(施行は2022年10月1日)
育児休業の分割取得などに対応できるよう、育児休業給付について雇用保険など関連する規定を整備することが定められた。
4 まとめ
育児と介護は、家庭の中で非常に負担の多い営みである。仕事と家庭の両立、育児・介護による離職を防ぐために、これまで様々な法改正がなされてきた。
男性の育児休業の取得は、女性と比べ、まだ圧倒的に少ない。今回の改正は、男性の育児休業の取得について、利用したいと考える内容、利用しやすい内容に改正したものといえる。2022年4月と10月に6つの項目のうち5つが施行される運びとなっている。これらの改正が実効性のあるものとなるよう、今後も検証を続けていくことが求められる。今後の改正の動きについても注視していきたい。
(2022年9月執筆)
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執筆者
末吉 宜子すえよし たかこ
弁護士
略歴・経歴
資格 弁護士
1983年弁護士登録(東京弁護士会)
役職 東京弁護士会消費者問題特別委員会 委員
日弁連消費者問題対策委員会 幹事
医療問題弁護団 副幹事長
著書(共著) 医療紛争の法律相談(青林書院 2003)
医療事故の法律相談(学陽書房 2009)
美容医療トラブル解決への実務マニュアル(日本加除出版 2018)
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