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民事2022年02月28日 改正民法による成年年齢引き下げ-この4月にいよいよ施行- 執筆者:末吉宜子

1 民法の一部を改正する法律(成年年齢)成立の経緯
2018年6月13日、民法の定める成年年齢を20歳から18歳に引き下げる内容の民法の一部を改正する法律が成立した。成年年齢の見直しは、明治9年の太政官布告で20歳と定められて以来、約140年ぶりであった。
民法改正の検討がなされることになった直接のきっかけは、2007年に成立した「日本国憲法の改正手続に関する法律(いわゆる「国民投票法」)」にある。同法は、国民投票の投票権を有する者を「日本国民にして年齢満十八年以上の者」(3条)と定め、その附則で、18歳から20歳未満の者が国政選挙に参加することができるように、公職選挙法だけでなく、民法その他の法令の規定についても検討を加え、必要な法制上の措置を講ずることを求めた。
これを受けて、2008年に法務大臣から法制審議会に「民法上の成年年齢を引き下げるべきか否か」につき諮問があり、法制審議会で「民法成年年齢部会」を設置して審議が行われることになった。審議では、積極意見と消極意見が拮抗し、部会の2008年12月の「中間報告」では、成年年齢引き下げについては、両論併記となった。
消極意見が最も懸念したのは、18歳と19歳は未成年者取消権を喪失することになるため、消費者被害が拡大することが想定されたことであった。
2009年7月の「最終報告書」では、民法の成年年齢を18歳に引き下げることを適当とする、との結論で一本化され、2009年10月の総会で、その旨、法務大臣に答申されたが、「消費者被害の拡大など様々な問題が生じるおそれがあるため、引下げの法整備を行うには、若年者の自立を促すような施策や消費者被害の拡大のおそれ等の問題点の解決に資する施策が実現されることが必要である。」と意見が述べられている。
2 成年年齢引き下げに伴う若年者の消費者被害の防止に向けた動き
2009年10月の法制審議会の答申後、実際に改正民法が成立した2018年6月まで、実に約9年が経過している。この間、170本以上ある「未成年者」「20歳」といった年齢条項が入っている法律について、各法律の所管官庁で成年年齢の引き下げに連動して法律を改正するかどうか、という実務的な検討が行われた。
若年者の消費者被害の防止・救済のための施策については、2016年9月に消費者庁長官から消費者委員会に、その対応策について意見が求められ、消費者委員会内に「成年年齢引下げ対応検討ワーキング・グル-プ」が設置された。
ワーキング・グル-プでは、14回の会議で合計31の有識者・関係団体・関係機関・関係省庁からヒアリングを実施し、2017年1月に消費者庁長官あてに回答を出した。
その回答では、若年成人の消費者被害の防止・救済のための制度整備、処分等の執行の強化、消費者教育の充実、事業者の自主的取組の促進等を推進すべきである、などの意見が述べられた。
2018年6月に改正法が成立したが、審議の過程で成年年齢の引き下げに伴う諸問題への対応が未だ不十分であることへの懸念が示され、参議院法制委員会は附帯決議を採択した。附帯決議では、成年年齢の引き下げに伴う消費者被害の拡大を防止するための法整備、処分等の執行の強化、マルチ商法等による消費者被害の拡大防止対策、消費者教育の質量の充実、18歳及び19歳の若年者への自立支援及び周知の徹底等の措置を講じることへの格別の配慮を求めるとともに、施行日までにこれら各措置について効果測定や調査を実施し、随時公表すること、など具体的な行動指針を求めた。
3 2022年4月1日の施行に向けて
こうした動きを踏まえ、2018年2月には消費者庁、文部科学省、法務省及び金融庁が「若年者への消費者教育の推進に関するアクションプログラム」を策定し、政府は2018年3月に、若年者への消費者教育を「当面の重要課題」とした。
こうして4年が経過し、いよいよこの4月には成年年齢を18歳に引き下げる民法が施行される。
国民生活センターが取りまとめた相談情報によれば、2016年から2020年までの5年間に、契約当事者を18歳又は19歳とする相談件数は、毎年1万件に及んでいるという。未成年者取消権を行使できなくなることによって、消費者被害が拡大していく懸念はなくなっていない。
4月からの施行後も、若年者の消費者被害の実態を調査・検討する作業を続け、被害防止のための具体的な施策を進めていくことが求められている。

(2022年1月執筆)

執筆者

末吉 宜子すえよし たかこ

弁護士

略歴・経歴

資格 弁護士
   1983年弁護士登録(東京弁護士会)

役職 東京弁護士会消費者問題特別委員会 委員
   日弁連消費者問題対策委員会 幹事
   医療問題弁護団 副幹事長

著書(共著) 医療紛争の法律相談(青林書院 2003)
       医療事故の法律相談(学陽書房 2009)
       美容医療トラブル解決への実務マニュアル(日本加除出版 2018)

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