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医療・薬事2021年07月26日 加速する国の不妊治療への支援 執筆者:末吉宜子

1 不妊治療の概要
不妊治療は、国の支援事業の対象となるかどうかという観点から、一般的治療と特定不妊治療とに分けて考えられている。
一般的治療には、妊娠しやすい性交のタイミングを図ることが治療の内容となる「タイミング法」と採取した精子を調整し、子宮内に注入する「人工授精」がある。
一般的治療のうち、タイミング法は現在も健康保険の適用があるが、人工授精は保険適用はない。但し、人工授精は費用的には低額である。
特定不妊治療には、「体外受精」と「顕微授精」がある。
「体外受精」とは、卵巣から採取した卵子をシャーレ上で精子と受精させるものである。受精卵を3~5日培養したのち、子宮内に戻すが、培養後すぐに移植するのを新鮮胚移植といい、一旦凍結し、適切な時期に子宮に移植するのを凍結胚移植という。
「顕微授精」とは、顕微鏡下で卵子内に精子を一つ注入するものである。精子数が少ない場合や体外受精が複数回不成功の場合などにも行われる。受精卵は3~5日培養したのち、新鮮胚移植又は凍結胚移植を行う。
厚生労働省が行っている不妊治療費助成制度や今後保険診療の導入が検討されている不妊治療は、特定不妊治療を対象としている。現在は保険の適用がない。
2 特定不妊治療の実態
日本産科婦人科学会では、学会に登録されているすべての生殖補助医療機関に対して、毎年、実体調査をしている(日本産科婦人科学会ARTデータ)。
全出生数と特定不妊治療による出生数の対比でいうと、2010年(平成22年)は、約107万人の出生数のうち、特定不妊治療による出生数は約2万9000人、2014年(平成26年)は、約100万人の出生数のうち、特定不妊治療による出生数は約4万7000人、2018年(平成30年)は、約92万人の出生数のうち、特定不妊治療による出生数は約5万7000人である。
特定不妊治療による出生数が年々増加していること、全出生数は減少していることがわかる。
また、別の調査によれば、2020年(令和2年)10月から11月に実施した、日本産科婦人科学会に不妊治療実施機関として登録されている医療機関622施設に対する調査で、回答のあった307施設のうち、価格の算出に必要な項目について有効回答の得られた86施設での特定不妊治療にかかる費用は、新鮮胚移植が、中央値が37万円~51万円、凍結胚移植が43万円~58万円との結果が出ている。
3 厚生労働省による「不妊に悩む方への特定治療支援事業」
不妊治療の経済的負担の軽減を図るため、配偶者間の不妊治療に要する費用の一部を助成するものとして、2004年(平成16年)に創設された。創設時は、1年度当たり給付額10万円、通算助成期間2年であった。
「特定治療支援事業」は、年々、給付額の拡充、給付要件の緩和が続き、2019年度(令和元年度)までには、初回治療の助成額は30万円、男性不妊治療の初回の助成額も30万円、妻の年齢が40歳未満の場合は通算6回まで助成、所得制限は730万円(夫婦合算)となった。
但し、2016年度(平成28年度)からは、妻の年齢が43歳以上の場合は、助成対象外となり、妻の年齢が40歳以上43歳未満の場合は、助成は通算3回までとなった。
4 2021年(令和3年)1月以降の更なる拡充と保険適用に向けた動き
2021年1月以降、令和3年度までの15ヶ月について、第三次補正予算が計上され、「特定治療支援事業」について、所得制限の撤廃、助成額は1回30万円、助成回数は、子ども一人当たり6回、と拡充されることになった。
この動きは、不妊治療への保険適用を検討し、保険適用までの間、助成措置を大幅に拡充するというものである。令和2年9月16日の閣議決定で、「少子化に対処し、安心の社会保障を構築」との項目で「不妊治療への保険適用を実現」することが掲げられ、令和2年12月15日閣議決定では、「令和3年度(2021年度)中に詳細を決定し、令和4年度(2022年度)当初から保険適用を実施する」、と決定された。
5 不妊治療への支援の拡充と懸念
不妊治療は経済的な負担が大きいことは事実であり、保険適用がなされるのは、子どもを望む夫婦には朗報である。
しかし、不妊治療は女性の側に精神的、肉体的に大きな負担がかかることを理解すべきである。入院・通院の負担、妊娠、出産まで至らなかった場合の落胆、保険で治療を受けられるのだから治療をしたらどうか、という世間の無言の圧力、なども考えられる。
保険適用で終わりにするのではなく、トータルで継続的なサポ-トが必要ではないだろうか。

(2021年7月執筆)

執筆者

末吉 宜子すえよし たかこ

弁護士

略歴・経歴

資格 弁護士
   1983年弁護士登録(東京弁護士会)

役職 東京弁護士会消費者問題特別委員会 委員
   日弁連消費者問題対策委員会 幹事
   医療問題弁護団 副幹事長

著書(共著) 医療紛争の法律相談(青林書院 2003)
       医療事故の法律相談(学陽書房 2009)
       美容医療トラブル解決への実務マニュアル(日本加除出版 2018)

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