企業法務2020年06月15日 印紙税判断の勘所【後編】 執筆者:沼野友香

1 契約の効力と印紙税
印紙税は、契約書や領収書など経済取引に伴い作成される一定の文書またはこれらの文書の作成に対して課税されるものです。
ここで気をつけなければならないのは、印紙税の課否判断と契約そのものの効力とは区別して考える必要があるという点です。
印紙税は、上述のように、契約書等経済取引に伴い作成される文書やこれらの文書の作成に対して課税されるものです。言い換えれば、経済取引に含まれる法律行為(契約等)に対して課税されるものではなく、一定の文書または文書を作成するという事実行為に対して課税されるものです。したがって、課税文書を作成すれば印紙税は課されるのであって、その文書作成の基礎となる契約の有効・無効は印紙税の課否には影響しません。
反対に、課税文書を作成した際に印紙の貼り漏れや不足等があった場合でも、その文書作成の基礎となる契約の効力には影響しません。
・契約の有効・無効にかかわらず、課税文書である契約書や領収書などを作成すれば、印紙税が課税される。
・課税文書である契約書や領収書を作成して印紙を貼ったあと、契約が無効であることが判明または契約が取り消された場合でも、印紙税の還付をすることはできない。
・課税文書である契約書や領収書を作成し、印紙を貼らなかったとしても、そのことで契約の効力がなくなることはない。
2 文書の作成目的が重要
前編の復習になりますが、印紙税法上、「契約書」とは、契約証書、協定書、約定書その他名称のいかんを問わず、契約の成立若しくは更改又は契約の内容の変更若しくは補充の事実を証すべき文書をいいます(印紙税法 別表第一 課税物件表の適用に関する通則5)。
このように契約の成立等の事実を証明する目的で作成される文書には印紙税が課されますが、裏を返せば、契約の成立等の事実を証明する目的以外の目的で作成される文書には印紙税は課されません。
そして、この作成目的については、文書の記載内容に基づき客観的に判断します。
例えば、以下の2つの事例を見比べてください。文書作成者としては、いずれも単なる宿泊の案内文書として作成したものと主張するかもしれません。ところが、事例1と事例2は、文書の記載内容から課税・不課税の結論が分かれます。
事例1 課税(第2号文書(請負に関する契約書))
山田太郎 様
月日:2020年〇月〇日より1泊
人数:大人2名(単価:大人1名1泊2食¥25,000、合計50,000円)
チェックイン予定時刻:16時
上記のとおり確かにお引き受けいたします。
今後の宿泊予約の変更・取消は、違約金を申し受けますので、ご了承くださいませ。
2020年〇月〇日 グランドホテル
事例2 不課税(単なる案内文書)
山田太郎 様
月日:2020年〇月〇日より1泊
人数:大人2名(単価:大人1名1泊2食¥25,000、合計50,000円)
チェックイン予定時刻:16時
上記の通りお待ち申し上げております。
2020年〇月〇日 グランドホテル
宿泊契約は、宿泊という仕事の完成に対して報酬を支払う契約であり、旅館業者等が顧客から宿泊の申込みを受けた場合に、宿泊年月日、人員、宿泊料金等を記載し、当該申込みを引き受けた旨を記載して顧客に交付する宿泊申込請書等は、第2号文書(請負に関する契約書)として取り扱うこととされています(印紙税法基本通達 別表第1 第2号文書の16)。事例1と2を比較すると、事例1には「確かにお引き受けいたします」の記載があり、顧客の申込を承諾する文書(=契約の成立を証明する文書)として第2号文書に該当することになりますが、事例2にはこのような承諾文言がないため単なる案内文書として不課税になります。
3 まとめ
本稿では、文書の作成の裏にある契約と印紙税との関係について解説をしました。契約の有効・無効が印紙税の課否判断に影響しないこと、同じ契約内容でも作成される文書の記載内容によって印紙税の判断が異なることはいずれも意外と思われるのではないでしょうか。このような印紙税独自の考え方をぜひ身に着けてください。
(2020年6月執筆)
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執筆者

沼野 友香ぬまの ゆか
弁護士
略歴・経歴
鳥飼総合法律事務所
中央大学法学部卒業
慶應義塾大学大学院法務研究科修了
第二東京弁護士会所属
主に、税務、知的財産権、企業法務、労務・人事に係る業務に携わる。
株式会社鳥飼コンサルティンググループ主催、新日本法規出版株式会社協賛による「印紙税検定(初級
篇)」の立ち上げに参画、「印紙税検定(中級篇)」の講師を務める。鳥飼総合法律事務所印紙税相談室
の創設メンバー。
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