解説記事2003年04月21日 【実務解説】 ケーススタディで見る「企業組織再編」(3)(2003年4月21日号・№16)
実務解説
制度理解をあきらめた人のために…
ケーススタディで見る「企業組織再編」(3)
税理士法人 緑川・蓮見事務所 代表社員 蓮見正純
商法改正・企業組織再編税制導入後今日までに、組織再編成の形態やその方法はますます複雑かつ多様なものとなってきました。
そこで4回にわたり“組織再編成をより身近に!”をテーマとして、具体的な事例及び図解を用いながら、一つの参考例として企業再編の活用をイメージして頂きたいと思います。
Q 当社(公開会社)は、関連事業を営む甲社の周辺分野におけるノウハウ獲得のため、甲社買収を検討しております。
資金負担の少ない方法での買収を望んでいるのですが、何か良い方法はありますでしょうか?
なお、買収後は別組織での運営を考えております。
A株式交換の手法によれば、キャッシュレスでの企業買収が可能です。
《Memo》
・会社を買収したいが買収資金が十分でない。
・企業買収にはリスクがあるので、自己資本を充実しておきたい。
・買収を迅速に行いたい。
上記のようなケースにおいては、株式交換の手法により買収(M&A)する手法が効果的です。
通常企業買収といえば、買収相手の株式を取得する方法が考えられますが、株式を取得するためには当然のことながら、キャッシュが必要になります。
しかし株式交換によれば、キャッシュアウトしないで、自社株式の発行又は自己株式の譲渡によって、一株残らずすなわち100%企業買収できます。
その結果、あたかも買収資金を資本調達し、当該資金によって企業買収したかのような財務内容になりますので、財務の安全性が、通常の株式の買取に比べて高くなります。
以上を設例にとって見てみましょう!
設例 株式交換による企業買収

解決方法



ポイント解説
Point 1 買収するA社におけるメリット及び留意点
1. 株式交換によることで、キャッシュレスでの買収が可能である。
一般に企業買収(M&A)にあたってのシンプルな方法としては、株式買取による手法が考えられます。設例の場合ですと、B社株式をB社の株主に個別に折衝して買い取ることとなりますが、当然のことですが、買収時の株主価値に見合った対価をキャッシュで支払わなければなりません。
財務格付けが低い会社は、銀行借入れによって多額の、しかもリスクの高い投資資金を調達することは、昨今大変難しい状況になっていますので、買収資金の負担は大きくなります。よって買収資金が不要な株式交換は大変魅力的な手法と言えます。
2. 株式交換によることで、買収会社を100%子会社化できる。
仮にキャッシュリッチな会社であっても、すべてのB社株主が買収に同意してくれなければ、B社株式を全株取得することはできません。
しかし、株式交換を使えば、株主総会の特別決議等の所定の法的手続きを経れば、買取に応じないB社株主にもA社株式との株式交換を強制でき100%子会社化が可能です。
3. 株価が高い会社でないと株式交換手法は採るべきでないのか?
ご存知の通り、株価が低い時に株式交換を行うことは、A社株式の多くのシェアをB社株主に渡すことになり、得策ではないと言われていますが、果たしてそうでしょうか。この考え方は買収側が被買収側を支配するといった視点では、その通りかも知れませんが、両者が株式交換によって強固な資本関係を構築し、新たな企業価値を創造して行くといった視点からは、そのような考えかたは、当てはまりません。
Point 2 買収されるB社株主のメリット及び留意点
1. 換金性のあるA社株式の取得
B社株主は、株式交換によって、公開株式であるA社株式を取得することになりますので、株式交換後はA社株式を容易に換金することが可能です。
ご存知の通り、非公開会社株式はその流通性の無さによって、たとえば、オーナーの相続時の納税資金不足や、自社株式を承継する者にとっての資金負担の重さといった社会問題を引き起こしていますが、この設例のように、公開会社の株式と株式交換ができると、それらの問題の解決の路が開けてきます。
そして、非公開株式の譲渡益に対しては、個人株主の場合、総額26%の所得税等が生じますが、公開株式の譲渡益については、当面の間、総額10%の所得税等で済みますので、これもこの設例におけるB社個人株主にとって大きなメリットです。
2. キャピタルゲイン課税
B社株主は株式交換によりA社株式を取得することになりますが、税務上は原則として株式交換取引を譲渡取引であると捉え、B社株式にかかわる譲渡損益について課税が行われます。
しかし特例として、株式交換取引につき交付金銭がない等の一定要件を満たす場合には譲渡損益の認識はされず、その部分のB社株式譲渡損益課税は将来の株式売却時点まで繰延べられることとなります。
≪イメージ≫

3. 株式交換後のグループ経営次第で、B社株式と交換したA社株式の価値は大きく上昇します。
株式交換により、A社とB社において大きなシナジー効果が生まれれば、A社の株主価値が増大しますので、B社株主にとって、たとえ株式交換時のB社株式の価値が低くても、交換後のA社グループの業績次第で高い株式価値にすることができます。
Point 3 合併と株式交換
キャッシュレスでの企業買収手段としては、設例による株式交換の他に合併(吸収合併)によることも考えられます。合併も株式交換と同様に、被合併法人の株主に対して合併法人の株式を交付するわけですから資金負担の問題は生じません。
しかし、合併と株式交換の最大の相違点は、合併の場合には被合併法人が消滅するのに対し、株式交換においては100%子会社となる会社(設例のB社)は存続するという点です。

設例のようにA社とB社との企業文化の違いなどの理由から、再編後もB社を別組織で運営したい場合には、合併ではなく、株式交換の選択が考えられるのです。
Point 4 金庫株解禁による自己株式の利用
仮にA社が自己株式を保有しているのであれば、株式交換によりB社株主に発行される新株の代わり(「代用自己株式」と呼ばれます。)として利用することが可能です。さらに商法改正による金庫株の解禁により、原則として自己株式の取得・保有に制限がなくなり、A社が相当数の自己株式を保有しているのであれば、新株を発行するまでもなく、B社株主に対してはその保有している自己株式を交付すれば良いのです。

効果
代用株式の利用により新株式発行事務手続きの省略などのメリットを享受することができます。
金庫株解禁によりさらに株式交換の手法が使いやすくなったと言えます。
補足 関係会社の資本関係整理のための株式交換の活用例
《例》

≪解説≫
◆ D社株式をC社オーナーが保有している場合、D社を利用してオーナーへ不当に利益が流出する恐れがあるとして、D社をC社の100%子会社にするよう指導されることがあります。
◆ オーナーが所有するD株式のC社への譲渡により資本関係の解消を図る場合には、オーナーに多額のキャピタルゲイン課税発生のおそれがあります。
◆ 株式交換を利用することにより、オーナーに租税負担なしに100%子会社化が可能になるのです。(上記図表参照)
まとめ
M&Aが企業経営の重要な選択肢の一つとして認知されてきましたが、今回挙げた「株式買取」、「株式交換」、「合併」以外にも「第三者割当増資」、「営業譲渡」、「株式移転」、さらに目新しいところでは「新株予約権の割当」などその手法は多岐にわたっております。
M&Aは一般的に‘時間を買うこと’、つまり自社の不足している経営資源を短時間で獲得するという目的があります。ただし、M&Aの手法の選択及びその活用法についてはそれぞれにメリット・デメリットがあり、さらにスキームを実行するにあたっては、商法・税法等の関係法令も考慮しなければなりません。
まずは再編後のビジネスモデルを明確にし、どのような企業グループを目指すのかを具体的に描くことが重要になるでしょう。これらが明確であれば、それを実現しうる手法・スキームが見えてくると思います。
制度理解をあきらめた人のために…
ケーススタディで見る「企業組織再編」(3)
税理士法人 緑川・蓮見事務所 代表社員 蓮見正純
商法改正・企業組織再編税制導入後今日までに、組織再編成の形態やその方法はますます複雑かつ多様なものとなってきました。
そこで4回にわたり“組織再編成をより身近に!”をテーマとして、具体的な事例及び図解を用いながら、一つの参考例として企業再編の活用をイメージして頂きたいと思います。
Q 当社(公開会社)は、関連事業を営む甲社の周辺分野におけるノウハウ獲得のため、甲社買収を検討しております。
資金負担の少ない方法での買収を望んでいるのですが、何か良い方法はありますでしょうか?
なお、買収後は別組織での運営を考えております。
A株式交換の手法によれば、キャッシュレスでの企業買収が可能です。
《Memo》
・会社を買収したいが買収資金が十分でない。
・企業買収にはリスクがあるので、自己資本を充実しておきたい。
・買収を迅速に行いたい。
上記のようなケースにおいては、株式交換の手法により買収(M&A)する手法が効果的です。
通常企業買収といえば、買収相手の株式を取得する方法が考えられますが、株式を取得するためには当然のことながら、キャッシュが必要になります。
しかし株式交換によれば、キャッシュアウトしないで、自社株式の発行又は自己株式の譲渡によって、一株残らずすなわち100%企業買収できます。
その結果、あたかも買収資金を資本調達し、当該資金によって企業買収したかのような財務内容になりますので、財務の安全性が、通常の株式の買取に比べて高くなります。
以上を設例にとって見てみましょう!
設例 株式交換による企業買収

〈前提〉 1. A社は通信事業を営んでいる公開会社です。 2. B社はA社の事業と関連する周辺事業を営んでおり、B社固有のノウハウや高い技術力を有しています。 |
〈目的〉 1. B社固有のノウハウの獲得及びマーケットシェアのさらなる拡大を図るため、極力資金負担を抑えたB社の買収方法を検討しております。 2. 買収後の組織運営は、従来どおり別組織で行う方針です。 |
解決方法

〈STEP1〉 A社はB株主より、B社株式を取得します。 |

〈STEP2〉 A社はB社株式の取得対価として、B社株主にA社株式を割当て又は交付します。 (つまり、A社とB社株主における株式の交換取引となります。) |

〈STEP3〉 B社はA社の100%子会社となります! |
ポイント解説
Point 1 買収するA社におけるメリット及び留意点
1. 株式交換によることで、キャッシュレスでの買収が可能である。
一般に企業買収(M&A)にあたってのシンプルな方法としては、株式買取による手法が考えられます。設例の場合ですと、B社株式をB社の株主に個別に折衝して買い取ることとなりますが、当然のことですが、買収時の株主価値に見合った対価をキャッシュで支払わなければなりません。
財務格付けが低い会社は、銀行借入れによって多額の、しかもリスクの高い投資資金を調達することは、昨今大変難しい状況になっていますので、買収資金の負担は大きくなります。よって買収資金が不要な株式交換は大変魅力的な手法と言えます。
2. 株式交換によることで、買収会社を100%子会社化できる。
仮にキャッシュリッチな会社であっても、すべてのB社株主が買収に同意してくれなければ、B社株式を全株取得することはできません。
しかし、株式交換を使えば、株主総会の特別決議等の所定の法的手続きを経れば、買取に応じないB社株主にもA社株式との株式交換を強制でき100%子会社化が可能です。
《留意点》株主総会の特別決議について 株式交換においては、A、B両会社の間で株式交換契約書が作成されるとともに、その内容について株主総会の特別決議が必要となりますが、買収されるB社が小規模な会社であれば一定要件の下に、買収する側のA社においての株主総会手続が不要となり(「簡易株式交換」といいます。)、より迅速な買収が可能となります。 |
3. 株価が高い会社でないと株式交換手法は採るべきでないのか?
ご存知の通り、株価が低い時に株式交換を行うことは、A社株式の多くのシェアをB社株主に渡すことになり、得策ではないと言われていますが、果たしてそうでしょうか。この考え方は買収側が被買収側を支配するといった視点では、その通りかも知れませんが、両者が株式交換によって強固な資本関係を構築し、新たな企業価値を創造して行くといった視点からは、そのような考えかたは、当てはまりません。
Point 2 買収されるB社株主のメリット及び留意点
1. 換金性のあるA社株式の取得
B社株主は、株式交換によって、公開株式であるA社株式を取得することになりますので、株式交換後はA社株式を容易に換金することが可能です。
ご存知の通り、非公開会社株式はその流通性の無さによって、たとえば、オーナーの相続時の納税資金不足や、自社株式を承継する者にとっての資金負担の重さといった社会問題を引き起こしていますが、この設例のように、公開会社の株式と株式交換ができると、それらの問題の解決の路が開けてきます。
そして、非公開株式の譲渡益に対しては、個人株主の場合、総額26%の所得税等が生じますが、公開株式の譲渡益については、当面の間、総額10%の所得税等で済みますので、これもこの設例におけるB社個人株主にとって大きなメリットです。
2. キャピタルゲイン課税
B社株主は株式交換によりA社株式を取得することになりますが、税務上は原則として株式交換取引を譲渡取引であると捉え、B社株式にかかわる譲渡損益について課税が行われます。
しかし特例として、株式交換取引につき交付金銭がない等の一定要件を満たす場合には譲渡損益の認識はされず、その部分のB社株式譲渡損益課税は将来の株式売却時点まで繰延べられることとなります。
≪イメージ≫

3. 株式交換後のグループ経営次第で、B社株式と交換したA社株式の価値は大きく上昇します。
株式交換により、A社とB社において大きなシナジー効果が生まれれば、A社の株主価値が増大しますので、B社株主にとって、たとえ株式交換時のB社株式の価値が低くても、交換後のA社グループの業績次第で高い株式価値にすることができます。
Point 3 合併と株式交換
キャッシュレスでの企業買収手段としては、設例による株式交換の他に合併(吸収合併)によることも考えられます。合併も株式交換と同様に、被合併法人の株主に対して合併法人の株式を交付するわけですから資金負担の問題は生じません。
しかし、合併と株式交換の最大の相違点は、合併の場合には被合併法人が消滅するのに対し、株式交換においては100%子会社となる会社(設例のB社)は存続するという点です。

設例のようにA社とB社との企業文化の違いなどの理由から、再編後もB社を別組織で運営したい場合には、合併ではなく、株式交換の選択が考えられるのです。
Point 4 金庫株解禁による自己株式の利用
仮にA社が自己株式を保有しているのであれば、株式交換によりB社株主に発行される新株の代わり(「代用自己株式」と呼ばれます。)として利用することが可能です。さらに商法改正による金庫株の解禁により、原則として自己株式の取得・保有に制限がなくなり、A社が相当数の自己株式を保有しているのであれば、新株を発行するまでもなく、B社株主に対してはその保有している自己株式を交付すれば良いのです。

効果
代用株式の利用により新株式発行事務手続きの省略などのメリットを享受することができます。
金庫株解禁によりさらに株式交換の手法が使いやすくなったと言えます。
補足 関係会社の資本関係整理のための株式交換の活用例
企業買収手法としての株式交換の活用のほかに、グループの関係会社の資本関係を整理する手段としても株式交換は有効です。 |
《例》

≪解説≫
◆ D社株式をC社オーナーが保有している場合、D社を利用してオーナーへ不当に利益が流出する恐れがあるとして、D社をC社の100%子会社にするよう指導されることがあります。
◆ オーナーが所有するD株式のC社への譲渡により資本関係の解消を図る場合には、オーナーに多額のキャピタルゲイン課税発生のおそれがあります。
◆ 株式交換を利用することにより、オーナーに租税負担なしに100%子会社化が可能になるのです。(上記図表参照)
まとめ
M&Aが企業経営の重要な選択肢の一つとして認知されてきましたが、今回挙げた「株式買取」、「株式交換」、「合併」以外にも「第三者割当増資」、「営業譲渡」、「株式移転」、さらに目新しいところでは「新株予約権の割当」などその手法は多岐にわたっております。
M&Aは一般的に‘時間を買うこと’、つまり自社の不足している経営資源を短時間で獲得するという目的があります。ただし、M&Aの手法の選択及びその活用法についてはそれぞれにメリット・デメリットがあり、さらにスキームを実行するにあたっては、商法・税法等の関係法令も考慮しなければなりません。
まずは再編後のビジネスモデルを明確にし、どのような企業グループを目指すのかを具体的に描くことが重要になるでしょう。これらが明確であれば、それを実現しうる手法・スキームが見えてくると思います。
税理士法人緑川・蓮見事務所 神保町事務所 住所:〒101-0051 東京都千代田区神田神保町三丁目10番2 共立ビル7F TEL:03-3556-7113 FAX:03-3556-7084 URL:http://www.proggest.co.jp/ |
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