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一般2024年02月21日 「支援をする」ということ 執筆者:冨田さとこ

研修の講師や講演を頼まれることが年々増えています。直近では、母校(都立大)の一般教養科目で2時間いただきました。多くが1~2年生を占める100人以上の学生を前に、「私もこんな感じだったのかな」と想像しながら壇上に立つのは不思議な気持ちでした。話の内容は、よく話している「これまで自分がやってきたことと、そこから考えたこと」。昨年は技能実習制度見直しの有識者会議にも参加させていただいたので、そこにも触れました。慣れた話なのに、緊張して早口になった結果、事前の打合せよりかなり長い質疑応答の時間が残ってしまいました。でも、学生たちが次々と質問をしてくれて救われました。

「なぜ、やってもいないことを『自白』してしまうのですか」「技能実習制度の見直し案を見たら、全然変わっていないように思いました。なぜ、変えられないのですか」「外国人と日本人が一緒に楽しく働ける環境は、どうやったら作れますか」「仕事でくじけそうな時は、どうやって乗り越えましたか」「政府の会議って、最初から決められた結論があるのではありませんか。本当に喧々諤々と議論しているのですか?」学生らしい真っ直ぐな質問に、時にたじろぎながら、対話を楽しみました(どう答えたか?想像にお任せします)。

人に説明しようとすると、分かったつもりで曖昧にしていたことを確認したり、普段の活動を第三者的な視点で振り返る必要があるので、数多くの発見があります。そんな中、ある機関から、新しいお題での講演依頼をいただきました。「支援のコツ」について話して欲しいというものです。経験値ばかりで言語化したことのない部分で、かつ弁護士向けではなく、企業や民間団体、自治体など外国人支援の現場にいる方々が対象とのこと。私にできるのか、できるとしても相応しいのか…と悩んだ結果、「支援一般」について解説するほどの経験も専門知識もないと開き直り、法律問題を抱えた当事者の近くに「こんな人がいてくれたらありがたい」という話をしました。

法律相談に来る方が求めることは様々です。弁護士を相手に壁打ちのように問を発して、長く迷っていた問題に結論を出す人(「私には6分の1の相続権がある。でも、少し欠けてもここで終わりにしよう」)。いままさに問題の渦中にあり、相手方との交渉や意思表示の前提としての知識を獲得しに来た人(意に反した退職届を書くように求められている人が、解雇が適法となる条件を聞きに来る等)。情報収集や各種解決手段の比較は終えていて、代理人となる弁護士を探しにきた人(「この弁護士は私の事件を扱える能力があるのかな。費用は?」)。その段階によって、法律事務所の外に「あったらいい」と思う支援は異なります。

初回相談で類型的に難しいと感じるのは、家庭内暴力(DV)の被害を受けた方が、最初に相談したのが弁護士という場合です。よく言われるように、DV被害者と加害者は共依存関係になっていることも多く、初期の段階では別れるかどうかも迷っていることが多いのです。また、長年にわたる支配関係の中で、自尊心や、それを基にした決断力を奪われていることもあります。でも、私たちは飽くまで法律の専門家であり、相談者の人生を隅々まで知るわけではありません。ひとしきり手続などを説明した後に、「私にとって一番いい方法は何でしょうか」「決めて欲しい」と言われてしまうと、こと家族の問題なだけに、「決められたら、また来てくださいね」と言わざるを得ません。

また、DV被害者の場合、何よりも安全確保を最優先に、加害者と物理的に引き離すことを考えますが(「誰かに相談した」ということが知られると苛烈な暴力に繋がる可能性もある)、住み慣れた家を出るという決断は、そう簡単にできるものでもありません。これが外国人の場合、相手との婚姻生活が日本に在留する基礎になっていることも多く、更に迷いが生じます。

こういう時、DV被害者支援の経験のあるケースワーカー(CW)がついていると安心です。シェルターを手配して、本人に寄り添って生活の再建まで伴走してくれます。我々弁護士の出番は、ケースワーカーの手によって、法的手続や相手方との窓口、必要があれば在留資格への対応等とセットされています。実際、日本に長く暮らしていたのに、外で働くことも許されず、限られた社会生活しか経験できなかった外国人女性について、自治体のCWが、シェルターに保護をして、ハローワークの職業訓練制度を使って資格を取らせ、1人で暮らしていけるだけの収入に繋いでくれたということがありました。その間、私は、離婚調停と在留資格の変更に集中できました。

一方で、「支援者」と名乗る人が横にいることで、かえって問題解決が遅れることもあります。同じく外国人女性からのDVの相談で、友人の日本人が同席していたことがあります。外国でDV被害に遭っているのですから、友人が付き添ってくれるのは心強いでしょう。ただ、この友人は、本人よりも話したがり、質問をしたがります。また、本人に「ね、離婚したほうがいいよ!そうしよう!」と決断を迫っていました。

私は、目の前にいる女性の具体的な状況を前に見込みを伝えるのですが、横にいる友人から「じゃあ、~という場合はどうなるのですか?」と問われる。「シェルターに入るという方法もある」と説明すると、「それは誰がどう運営しているのですか?」と、やはり友人が質問をする。「離婚したほうがいいですよね!」とバイアスをかけようとする。そんなことが続くうちに、どんどん時間が過ぎていきました。ただでさえ考える要素が多いのに、整理されていない情報が溢れかえった状態の中で、当事者は混乱した様子で黙りこくっていました。

以上のような経験を踏まえて、頼まれた「支援のコツ」の研修では、当事者の意思を尊重することは最低限の要求事項であり、自分の立ち位置と、持っている知識、支援できる範囲を把握した上で支援に臨んで欲しいこと。専門家を使いこなすことは大切だが、自分の勉強は後回しにして欲しいことなどを話しました。研修の講師として話したことは全て自分に返ってくるので口はばったいのですが、「連携」という言葉が多用されるいま、関係機関が互いの専門性を生かして効率よく当事者を支援する方法は、もう少し言語化しなくてはいけないなと考えています。この必要性を見いだせたのも講師依頼のおかげなので、今年も頑張ろうと思います(冒頭部分を回収できなかったので、無理矢理まとめてみました)。

(2024年2月執筆)

執筆者

冨田 さとことみた さとこ

弁護士

略歴・経歴

【学歴】
2002年(平成14年)11月 司法試験合格
2003年(平成15年)3月 東京都立大学法学部卒業
2013年(平成25年)9月 Suffolk大学大学院(社会学刑事政策修士課程(Master of Science Crime and Justice Studies))修了

【職歴】
2004年(平成16年)10月 弁護士登録(桜丘法律事務所(第二東京弁護士会))
2006年(平成18年)10月 法テラス佐渡法律事務所赴任
2010年(平成22年)3月 法テラス沖縄法律事務所赴任
2015年(平成27年)9月 国際協力機構(JICA)ネパール裁判所能力強化プロジェクト(カトマンズ、ネパール)チーフアドバイザー
2018年3月~現在 日本司法支援センター(法テラス)本部
2020年7月~現在 法テラス東京法律事務所(併任)
※掲載コラムは、著者個人の経験・活動に基づき綴っているもので、新旧いずれの所属先の意見も代表するものではありません。

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