一般2023年01月13日 日ハム新球場60フィート問題 執筆者:大橋卓生
昨年11月、北海道日本ハムファイターズの新球場「エスコンフィールド北海道」の本塁後方のファウルゾーンが、公認野球規則を満たしていないことが完成後に発覚し、来オフ以降に改修することを条件に使用を認めるという特例を設けたことが話題になっていました。
野球公認規則2.01によれば、「本塁からバックストップまでの距離・・・60フィート(18.288メートル)以上を必要とする」とされています。この規則の基になったのは、米国の野球規則です。米国の野球規則2.01によれば、”It is recommended that the distance from home base to the backstop・・・shall be 60 feet or more.”となっています。意味としては60フィート以上を推奨するということになり、義務にはならないと解されます。実際、MLBの球場を見てみると60フィートに満たない球場が多く見られます1。
この部分、翻訳ミスではないかとの指摘が多々見られます。
外野については、野球公認規則によれば2.01、「両翼は320 フィート(97.534メートル)以上、中堅は400フィート(121.918メートル)以上あることが優先して望まれる」とされています。これに対応する米国の野球規則2.01によれば、”A distance of 320 feet or more along the foul lines, and 400 feet or more to center field is preferable.”と「より望ましい」という意味の”preferable”が使われており、これも義務とはされていません。この点、野球公認規則は原文に近い訳になっています。
野球公認規則が、米国の野球規則の翻訳をベースとして作成されたということは事実としても、上記の記載を野球公認規則として採択した以上は、記載された日本語をベースに規則を解釈するほかなく、「必要とする」と記載されていることから、義務であると解釈することについて違和感はありません。現に、従来の日本のプロ野球の球場が60フィートルールを遵守して建設されていますので、義務として運用されてきたように思います。
そうだとすると、今回の日ハム新球場において、完成まで60フィートルールが見落とされてきたことは、杜撰としかいいようがありません。
当事者である日ハム球団だけの問題ではなく、野球公認規則を執行する立場にある日本プロ野球機構(NPB)にも問題があると思います。60フィートルールが義務的なルールであれば、日ハム球団が建設に着工する前に、当該ルールを遵守した設計になっていることを確認する手続が最低限必要です。この最低限の確認が最初にできていれば、今回の問題は起こりませんでした。こうした野球公認規則を執行するためにガバナンスがプロ野球界にできていなかったことを明示する事案といえます。
この問題は、60フィートルールに合致させるために日ハム球団が巨額な費用を投じて改修するということになりました。60フィートを必要とする何らかの理由があったのかと思いきや、NPBはなぜ60フィート必要か説明できない、としています。やり得を許さないという一種の制裁的な対応に思われます。ただ、それだけのために改修させることは無駄な費用を投じさせるように思えてなりません。
緩い球場規格ルールによって球場の形状が異なっているのが、野球の面白いところのように思います。MLBはその傾向が特に顕著かと思います。
いま、野球場に求められているのは、安全に観戦できる環境のように思います。米国では、ファウルボール事故の責任を限定する判例が存在しますが、ファウルボール事故で子どもや女性の被害が頻発したことから、MLBは、日本の球場に倣って内野の防球ネットを延長しています。各球場の形状が異なることから、一律の目安は出ていますが、MLBコミッショナーオフィスが個別に相談に乗っているようです。
日本のプロ野球界においては、札幌ドームのファウルボール事故裁判以来、特段の安全対策が施されたという話は聴きません。こうした球場規格のルールが問題となったいま、安全面からその規格を再検討することが必要なように思います。
(2023年1月執筆)
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執筆者
大橋 卓生おおはし たかお
弁護士
略歴・経歴
1991.03 北海道大学法学部卒業
1991.04~
2003.01 株式会社東京ドーム勤務
2004.10〜 弁護士登録(第一東京弁護士会)
2011.11~ 虎ノ門協同法律事務所
2012.01~ 金沢工業大学虎ノ門大学院 准教授(メディア・エンタテインメントマネジメント領域)
2018.04~ 金沢工業大学虎ノ門大学院 教授(メディア・エンタテインメントマネジメント領域)
2021.08~ パークス法律事務所
【著書】
「デジタルコンテンツ法の最前線」共著,商事法務研究会,2009
「詳解スポーツ基本法」共著,成文堂,2010
「スポーツ事故の法務 裁判例からみる安全配慮義務と責任論」創耕舎、2013
「スポーツ権と不祥事処分をめぐる法実務―スポーツ基本法時代の選手に対する適正処分のあり方」共著,第一東京弁護士会総合法律研究所研究叢書,清文社,2013
「スポーツにおける真の勝利-暴力に頼らない指導」共著,エイデル研究所,2013
「スポーツガバナンス 実践ガイドブック」共著,民事法研究会,2014
「スポーツにおける真の指導力ー部活動にスポーツ基本法を活かす」共著,エイデル研究所,2014
「スポーツ法務の最前線ービジネスと法の統合」共著,民事法研究会,2015
「標準テキスト スポーツ法学」共著,エイデル研究所,2016
「エンターテインメント法務Q&A」共著,民事法研究会,2017
「スポーツ事故対策マニュアル」共著,体育施設出版,2017
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