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一般2023年12月13日 AIと肖像 執筆者:大橋卓生

 映画“アイリッシュマン”(NETFLIX)では、Deepfakeによって、ロバート・デ・ニーロ等を30歳若くして登場させました。映画”インディージョーンズと運命のダイヤル”(2023)では、79歳のハリソン・フォードを37歳にして登場させました。声のDeepfakeも登場しています。映画”トップガン マーヴェリック”(2022)のアイスマン役のヴァル・キルマーは、病気で声を失いましたが、Deepfakeによってセリフをしゃべりました。
 Deepfakeは、現役の人物だけでなく、亡くなった人物も復活させています。映画”ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー”(2016)では、1977年公開のスター・ウォーズ(エピソード4)の前日譚ですが、主要な登場人物の一人ターキン総督役のピーター・カッシングは既に亡くなっていましたが、Deepfakeによって”ローグ・ワン”に登場して話題を呼びました。映画以外でも、フロリダのダリ美術館では、Deepfakeでダリを蘇らせ、訪問者とおしゃべりをしたり、自撮りの記念撮影をしたりしています。日本では、AI生成したアイドルがグラビア写真集になったりしています。伊藤園がCMにAIタレントを起用したことも話題になりました。生身のタレントは不倫や違法薬物など不祥事を犯した場合、スポンサーも損害を被ることから、こうしたAIタレントの起用は今後増えるように思います。
 Deepfakeは、こうした使い方のほか、ポルノなど違法に使用され問題となっています。また、政治家のDeepfakeも虚偽の言動が頒布されています。日本でも岸田首相の偽動画騒動がありました。

 俳優や著名人の肖像をデジタルによって複製し、利用する場合、肖像権・パブリシティ権の問題となります。これらの権利は、いずれも最高裁判所の判例によって認められたもので、制定法はありません。
 肖像権は、他人から無断で撮影されたり、撮影された写真等を無断で公表されない権利です(最判平成17年11月10日等参照)。パブリシティ権は、肖像等の有する顧客吸引力を排他的に利用する権利(ピンク・レディー事件最判平成24年2月2日)です。最高裁判所は、いずれの権利も人格権を根拠としています。

 現在存命中の人物について、その肖像等を利用する場合、肖像権・パブリシティ権が働くことは間違いありません。したがって、ポルノやフェイク動画だけでなく、映像コンテンツなどに無断で利用する場合、肖像権・パブリシティ権の侵害を根拠に規制することができます。
 日本の著作権法では、AIの機械学習のため著作物をディープラーニングに利用することが許容されています(著作権法30条の4参照)。このため、俳優やアーティスト、スポーツ選手等著名人の映像をディープラーニングすることが容易になっています。
 著名人だけでなく、一般の人々も、SNSやブログ等で自分が映った写真をアップしており、これらもディープラーニングが容易にできてしまいます。この点で問題になっているのは、児童ポルノ規制です。児童ポルノ規制法では、実在の児童が被写体となっているものを前提としています。こうしたディープラーニングをしたAIによって生成された架空の児童ポルノは規制対象となっておらず、規制がでないという問題が生じています。
 他人の肖像等を映像コンテンツなどに利用する場合は、通常、契約を取り交わします。ただ、制作側と俳優等との力関係に格差があるような場合、一度の契約で、広汎な肖像等の利用(デジタルレプリカを含む)を認める内容の契約が交わされるおそれがあります。まさに、この点が問題となってハリウッドの俳優組合は、2023年7月から11月までストライキを行いました(ストライキの目的はこの問題だけではありません)。スタジオ側と俳優組合との交渉では、デジタルレプリカを用いる場合、実際の俳優が働いた日数分の報酬を支払うというなどの合意をしたようです。諸外国においては、ディープラーニングをさせる段階、AI生成物を利用する段階でそれぞれ権利保護について議論されていますが、日本においては検討されているものの、上記のとおり、著作権法30条の4が存在するため、現在はディープラーニングの段階を規制できない状態になっています。

 今後、特に、考えていかなければならい問題として、亡くなった人の肖像利用についてです。肖像権・パブリシティ権は、人格権に由来します。人格は人が亡くなると消滅するのが原則です。例外的に、著作権法では、著作者の人格的利益について著作者の死後も一定期間保護していたり(著作権法60条・116条)、刑法において死者に対する名誉毀損罪(刑法230条2項)を設けて死者の名誉を保護しています。しかしながら、前述のとおり、肖像権・パブリシティ権は、制定法がなく、特段、死後の肖像権・パブリシティ権は保護されていない状態にあります。
 米国においては多くの州法において、プライバシー権と並んでパブリシティ権が法制化されており、死後のパブリシティ権も認められており、その譲渡や相続も法制化されています。筆者の経験から、亡くなった人の肖像利用は、遺族の許諾を得て行っていますが、遺族の亡くなった人への感情に配慮するという趣旨のように思われます。
 米国のような肖像権立法については、亡くなった人本人の意思を問うことができない状態で、その肖像等をビジネスに利用し続けることに疑問が投げかけられています。2014年になくなった名優ロビン・ウィリアムズは、遺書で、彼の死後25年間は肖像等を使用しないようその意思を起こしています。しかしながら、その意思に反して、彼をAIで復活させる動きがあるようです。遺族が複数になると、死後の肖像の利用を巡って遺族間で紛争が生じる可能性もあります。果たして亡くなった人はそうしたことを望んでいるのでしょうか。

(2023年12月執筆)

執筆者

大橋 卓生おおはし たかお

弁護士

略歴・経歴

1991.03  北海道大学法学部卒業
1991.04~
 2003.01 株式会社東京ドーム勤務
2004.10〜 弁護士登録(第一東京弁護士会)
2011.11~ 虎ノ門協同法律事務所
2012.01~ 金沢工業大学虎ノ門大学院 准教授(メディア・エンタテインメントマネジメント領域)
2018.04~ 金沢工業大学虎ノ門大学院 教授(メディア・エンタテインメントマネジメント領域)
2021.08~ パークス法律事務所

【著書】
「デジタルコンテンツ法の最前線」共著,商事法務研究会,2009
「詳解スポーツ基本法」共著,成文堂,2010
「スポーツ事故の法務 裁判例からみる安全配慮義務と責任論」創耕舎、2013
「スポーツ権と不祥事処分をめぐる法実務―スポーツ基本法時代の選手に対する適正処分のあり方」共著,第一東京弁護士会総合法律研究所研究叢書,清文社,2013
「スポーツにおける真の勝利-暴力に頼らない指導」共著,エイデル研究所,2013
「スポーツガバナンス 実践ガイドブック」共著,民事法研究会,2014
「スポーツにおける真の指導力ー部活動にスポーツ基本法を活かす」共著,エイデル研究所,2014
「スポーツ法務の最前線ービジネスと法の統合」共著,民事法研究会,2015
「標準テキスト スポーツ法学」共著,エイデル研究所,2016
「エンターテインメント法務Q&A」共著,民事法研究会,2017
「スポーツ事故対策マニュアル」共著,体育施設出版,2017

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