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一般2021年12月22日 DAOとスポーツ組織 執筆者:大橋卓生

2021年に入って急速にNFT(Non Fungible Token ; 非代替性トークン)が広まった感があります。NFTは、簡単にいえば、デジタルコンテンツの所有者等の電子情報をブロックチェーン上に書き込み、紐付けるものです。デジタルコンテンツ自体は容易に複製できますが、当該所有者等の情報が付されたデジタルコンテンツは1つしか存在しないということで、希少価値を生み出しています。スポーツの世界ではNBAが、選手のデジタルカード(プレーのハイライト動画)をNFT化して”NBA Top Shot”1として売り出しています。欧州のサッカークラブでは、ファントークンをNFT化しています2。日本のスポーツ界でもNFTの利用がはじまっています3

このNFTの次に波が来ると予想されているのは、DAOです。DAOとは、Decentralized Autonomous Organizationの略で、自立分散型組織と訳されています。
株式会社や国家など一般的な組織には、中央集権的な管理組織(取締役会や国会・内閣など)が存在します。これに対して、DAOは、中央集権的な管理機構が存在しない組織形態です。DAOの意思決定は、参加者の過半数など予め設定されたルールに則って行われ、意思決定された事項は、ブロックチェーン上に書き込まれたスマートコントラクト(自動的に実行されるプログラム)4によって自動的執行されることになります。ルールやスマートコントラクトの書き換えが困難で、その内容を確認でき、スマートコントラクトが実行されたかなどの検証も可能です。DAOは組織としてその運営が透明かつ公正、効率的に行われるという特徴を有しています。Bitcoinのネットワークは、中央集権的な管理機構が存在せず、最初のDAOと言われています。

こうした透明かつ公正に組織運営ができるというDAOの長所は、スポーツ組織が目指すグッドガバナンスに適合しそうです。日本のスポーツ団体において問題が生じているのは、まさに中央集権的な管理機構である理事会や評議員会・社員総会です。こうした中央集権的な管理機構を排除し、理想的なスポーツ団体の運営をスマートコントラクト化できれば、スポーツ団体のグッドガバナンスが実現できるものと思われます。
もっとも、プログラムであるスマートコントラクトは、曖昧な条件設定ができないこと、The DAO事件5に見られるようにプログラムのハッキングに弱いなど弱点があります。前者の点は、スポーツ団体のグッドガバナンスを学ばせたAIによって補完されていくように思います。
現時点で、DAOは、既存の中央集権的なスポーツ組織運営を代替できるものではありませんが、そうした徴候は少しずつ出始めています。
先に述べたファントークンを用いて、ファントークンの保有者に、クラブに関する何らかの意思決定権を与えています。例えば、バルセロナFCにおいては、トークン保有者はホームスタジアム(カンプ・ノウ)のドレッシングルームの壁面のデザインを応募でき、トークン保有者による投票によってデザインを決定することとしています。パリ・サンジェルマンにおいては、ホームスタジアム(パルク・デ・プランス)に飾る王冠のデザインをトークン保有者による投票によって決めることとしています。ファンサービスの域を出ない感じですが、アメリカでは、シカゴ・ブルズの元GMジェリー・クラウゼにちなんだDAO ”Krause House”(「KH」)がアメリカプロバスケットボールリーグNBAのチームを買収することを目標に掲げて起ちあがっています6。KHの目論見はFlightpaperとして公表されています。これによれば、①チームの株式を過半数保有する方法、②過半数に満たない少数の株式を保有する方法、③チームが発行するソーシャルトークンを保有する方法を挙げ、②を推奨するとしています。KHは、ファンがチームのガバナンスの一画に食い込み、チームの決定に関与することを目標としています。いわゆる、ファンを物言う株主としてチームの重要な決定(所在地、マーケティング、GMやヘッドコーチの選任など)に投票という形で関与させることを考えているようです。KHは起ち上げ後6日間で2000人のメンバーが約4億円相当の仮想通貨を集めたようです。NBAチームの買収には1000億円単位の資金が必要とされるといわれており、今後、KHが成功するかどうか興味深いところです。

最後に、DAOの組織の法的問題について言及します。DAOはブロックチェーン上で展開され、様々な国の人々がDAO参加できることになりますが、この組織は、法的にどのように評価すればよいか、そもそもどの国の法律が適用されるか。また、DAO参加者の責任は有限か無限か。米国ワイオミング州は、DAOを有限責任会社とする法律を施行したようです。オーストラリアではDAOの法人化立法を求める要請が弁護士等のグループからなされているようです。
しかし、Decentralizedな組織であるDAOを一国の法律で縛ることができるかは疑問です。
少数の人の手によって運営される中央集権的なスポーツ組織は腐敗を払拭できず、マイナーな存在となり、より洗練されたDAOによるグッドガバナンスを達成したスポーツ組織が主流になるものと思います。

1 https://nbatopshot.com/
2 https://www.socios.com/
3 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000084533.html
  https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000144.000019259.html
4 スマートコントラクトを提唱したNick Szabo (1993). Smart Contracts: Building Blocks for Digital Marketsによれば、自動販売機の例が挙げられている。
5 2016年に、参加者の投票で投資先を決める自立分散型投資ファンドThe DAOにおいてハッキングにより日本円で52億円相当額の仮想通貨が盗まれた事件
6 https://www.npr.org/2021/11/26/1059413217/crypto-enthusiasts-want-to-buy-an-nba-team-after-failing-to-purchase-us-constitu

(2021年12月執筆)

執筆者

大橋 卓生おおはし たかお

弁護士

略歴・経歴

1991.03  北海道大学法学部卒業
1991.04~
 2003.01 株式会社東京ドーム勤務
2004.10〜 弁護士登録(第一東京弁護士会)
2011.11~ 虎ノ門協同法律事務所
2012.01~ 金沢工業大学虎ノ門大学院 准教授(メディア・エンタテインメントマネジメント領域)
2018.04~ 金沢工業大学虎ノ門大学院 教授(メディア・エンタテインメントマネジメント領域)
2021.08~ パークス法律事務所

【著書】
「デジタルコンテンツ法の最前線」共著,商事法務研究会,2009
「詳解スポーツ基本法」共著,成文堂,2010
「スポーツ事故の法務 裁判例からみる安全配慮義務と責任論」創耕舎、2013
「スポーツ権と不祥事処分をめぐる法実務―スポーツ基本法時代の選手に対する適正処分のあり方」共著,第一東京弁護士会総合法律研究所研究叢書,清文社,2013
「スポーツにおける真の勝利-暴力に頼らない指導」共著,エイデル研究所,2013
「スポーツガバナンス 実践ガイドブック」共著,民事法研究会,2014
「スポーツにおける真の指導力ー部活動にスポーツ基本法を活かす」共著,エイデル研究所,2014
「スポーツ法務の最前線ービジネスと法の統合」共著,民事法研究会,2015
「標準テキスト スポーツ法学」共著,エイデル研究所,2016
「エンターテインメント法務Q&A」共著,民事法研究会,2017
「スポーツ事故対策マニュアル」共著,体育施設出版,2017

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