一般2023年04月12日 スポーツ団体の運営:ガバナンスコードよりも大切なこと 執筆者:大橋卓生

企業の不祥事が続いたことから、コーポレートガバナンスコードが導入されました。それでもなお企業不祥事は続発したことから、コーポレートガバナンスコードは厳しいものになってきました。それでもなお企業不祥事は続いています。最近の大きな出来事では、東京オリンピックの談合事件が記憶に新しいところです。こうした談合事件は過去から繰り返し発生していますが、厳しいコーポレートガバナンスコードの下でも発生しているのが実情です。
スポーツにおいても、スポーツ団体の不祥事が続いたことから、令和元年にスポーツ団体のガバナンスコードが導入され3年が経とうとしています。しかしながら、スポーツ団体の不祥事は相変わらず発生しています。今後、おそらく、ガバナンスコードは厳しいものになっていくと思いますが、不祥事は繰り返されるでしょう。
いくつかの中央競技団体や地方競技団体の支援をしていて、スポーツ団体の現場感覚としては、ガバナンスコードに記載されている条件をいかに満たすか、というところに注力しているように思われます。個人的にこうした対応を「お化粧をする」と呼んでいます。すなわち、ガバナンスコードに対応するための条件は整えるが、実態が伴っていないことを意味します。とりあえず、「コンプライアンス委員会」という名称の委員会を作って、弁護士を委員長に据えておく、「暴力等の相談窓口」を作って、外部の専門家に窓口を委託する、といった感じです。
さて、こうした制度は機能しているのでしょうか。機能しているのであれば、浄化作用が働き、過去の多くの問題が明るみに出てきてしかるべきと思います。
指導者の暴力の問題を例に挙げると、弁護士で構成されるコンプライアンス委員会や相談窓口を有するスポーツ団体において、問題が団体内できちんと処理されず、第三者機関を頼られるという事案が少なからずあります。これは、現場で起きている暴力事案が、コンプライアンス委員会に上がっておらず、相談窓口も利用されていないあるいはコンプライアンス委員会等が機能していないということにほかなりません。
コーポレートガバナンスコードと同様、スポーツ団体のガバナンスコードは、弁護士や会計士など専門家にとっては業務拡大のチャンスですが、現状は、そうした専門家が「お化粧」を手伝っているようにしか見えません。
オリンピック・パラリンピックのスポーツ団体が一般的な企業と決定的に異なるのは、次の点だと思います。
① 役員はほぼ非常勤で、事務所に常駐しているのは事務局員であること
② 代表選手の強化を担当する強化委員会、審判を統括する審判委員会、コンプライアンス委員会など実質的にスポーツ団体の業務を担う委員も基本的に非常勤であること
③ スポーツ団体の経理・財務は事務局が掌握していること
このことは、スポーツ団体の事務局を担当してみないとなかなか実感ができないところです。
筆者は2年ほど中央競技団体の事務局長(1年間はほぼ常駐)を務めた経験があります。
こうした実態が意味するところは、事務局がすべての情報を把握できる立場にあり、各委員会が現場の情報を握っているということです。そして、それらの情報は、基本的に、役員には入ってこないということです。
こうした実態から生じる様々な問題に対応してきた経験を踏まえていえば、ガバナンスコードに取り組むことも大切ですが、役員が事務局を管理し、各現場で生じている出来事がタイムリーに把握できる体制(組織内の情報の流通)を構築することの方が、とりわけ不祥事防止の観点からは、重要だと考えています。
ガバナンスコードは、スポーツ団体の組織について健康な骨組みを示すものにすぎません。しかしながら、骨組みだけでは組織は動きません。スポーツ団体に関わる人材が連携し、役員にまで情報が速やかに流れる組織を作り運営することで、グッドガバナンスを成し遂げられる基盤ができると考えています。
ガバナンスコードについて支援できる専門家は多くなってきましたが、筆者が指摘した意味でのスポーツ団体の組織運営について支援できる専門家はごく限られているというのが実感です。ガバナンスコードの導入が専門家の業務拡大だけで完結してしまうことを憂慮しています。
(2023年4月執筆)
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執筆者

大橋 卓生おおはし たかお
弁護士
略歴・経歴
1991.03 北海道大学法学部卒業
1991.04~
2003.01 株式会社東京ドーム勤務
2004.10〜 弁護士登録(第一東京弁護士会)
2011.11~ 虎ノ門協同法律事務所
2012.01~ 金沢工業大学虎ノ門大学院 准教授(メディア・エンタテインメントマネジメント領域)
2018.04~ 金沢工業大学虎ノ門大学院 教授(メディア・エンタテインメントマネジメント領域)
2021.08~ パークス法律事務所
【著書】
「デジタルコンテンツ法の最前線」共著,商事法務研究会,2009
「詳解スポーツ基本法」共著,成文堂,2010
「スポーツ事故の法務 裁判例からみる安全配慮義務と責任論」創耕舎、2013
「スポーツ権と不祥事処分をめぐる法実務―スポーツ基本法時代の選手に対する適正処分のあり方」共著,第一東京弁護士会総合法律研究所研究叢書,清文社,2013
「スポーツにおける真の勝利-暴力に頼らない指導」共著,エイデル研究所,2013
「スポーツガバナンス 実践ガイドブック」共著,民事法研究会,2014
「スポーツにおける真の指導力ー部活動にスポーツ基本法を活かす」共著,エイデル研究所,2014
「スポーツ法務の最前線ービジネスと法の統合」共著,民事法研究会,2015
「標準テキスト スポーツ法学」共著,エイデル研究所,2016
「エンターテインメント法務Q&A」共著,民事法研究会,2017
「スポーツ事故対策マニュアル」共著,体育施設出版,2017
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