相続・遺言2020年04月03日
国税通則法23条1項に定める更正の請求 (通常の場合の更正請求) 申告の計算誤り等
編著:渡邉定義
著:平岡良 山野修敬
相続税法32条に規定する「事由が生じたことを知った日」は遺産分割調停を取り下げた日ではなく、調停外で行った遺産分割の日であり、また、相続税法55条の規定に基づき、課税価格を計算したものは、国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は計算に誤りがあったとは認められないから、国税通則法23条1項1号の要件を満たすものではないとした事例
(国税不服審判所裁決平29・1・6(非公開裁決)(大裁(諸)平28-33)(棄却))
争 点
1 相続税法32条に規定する「事由が生じたことを知った日」は、遺産分割調停を取り下げた日か、あるいは、調停外で行った遺産分割の日か。
2 相続税法55条の規定に基づき課税価格の計算をした場合、その後分割が確定したときに、相続税法32条1号〔現行32条1項1号〕の要件に該当し、さらに、国税通則法23条1項1号の要件にも該当するか否か。
【事案の概要】
本件は、審査請求人3名(請求人ら)が、父(本件被相続人)から相続(本件相続)により取得した財産の一部が法定申告期限までに分割されていなかったため、相続税法(平成23年12月法律第114号による改正前のもの。以下同じ。)55条《未分割遺産に対する課税》の規定に基づき相続税の申告をした後、遺産分割が行われたことから、更正の請求をしたところ、原処分庁が当該更正の請求は期限を徒過したものであるとして、更正すべき理由がない旨の通知処分をしたのに対し、請求人らが原処分の全部の取消しを求めた事案である。
【認定事実】
① 請求人らは、本件相続に係る相続税について、相続税法55条の規定に基づき、法定申告期限内に申告した。
請求人らは、本件未分割財産の中に含まれている宅地について租税特別措置法69条の4第1項に規定する特例(本件特例)を受けるため、「申告期限後3年以内の分割見込み書」を原処分庁に提出した。
② 請求人らは平成25年2月18日、本件相続に係る相続税の修正申告をした(本件修正申告の時点においても分割されていなかったため、請求人らは、前記①と同様、相続税法55条の規定に基づきその課税価格を計算した。)。
③ Aが平成27年2月23日付けで他の相続人2人を相手方として本件相続に係る遺産分割調停(本件調停)を申し立てた。
④ 請求人らは平成27年7月30日付けで、租税特別措置法69条の4の規定に基づき、本件法定申告期限から3年を経過する日において、本件調停の申立てがされていることを理由に「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を原処分庁に提出し、原処分庁は同年9月25日付けで当該申請書に係る申請を承認した。
⑤ 請求人らは、平成27年10月29日付けの遺産分割協議書を作成し、本件調停外で遺産分割(本件遺産分割)をした。
⑥ Aが平成27年11月4日付けで本件調停の申立てを取り下げた。
⑦ 請求人らは平成28年3月4日、本件遺産分割に基づき、かつ、対象宅地に本件特例を適用して、各更正の請求(本件各更正の請求)をした。
◆納税者の主張
1 争点1について
相続税法32条の規定に基づく更正の請求は、同条各号に規定する「事由が生じたことを知った日」の翌日から4か月以内に行う必要があるところ、租税特別措置法施行令40条の2第13項〔現行25項〕が準用する相続税法施行令4条の2第1項2号は、当該「事由が生じたことを知った日」について、相続税の法定申告期限の翌日から3年を経過する日において、遺産分割に関する調停の申立てがされているときは、当該調停が成立した日又は当該調停の申立てが取り下げられた日とする旨規定している。
本件において遺産分割に関する調停を取り下げた日は、平成27年11月4日であるから、同日の翌日から4か月以内である平成28年3月4日にされた本件各更正の請求は、相続税法32条所定の期限内にされたものである。
2 争点2について
本件各更正請求は、本件法定申告期限から5年を経過していないことから、国税通則法23条1項所定の要件に該当する。
◆課税庁の主張
1 争点1について
平成27年10月29日に遺産分割協議が成立していることから、請求人らが当該分割協議により取得した財産に係る課税価格が、民法の規定による相続分の割合に従って計算された課税価格と異なることとなった日は、当該遺産分割の日であるところ、同日の翌日から4か月を超えた平成28年3月4日にされた本件各更正請求は、相続税法32条所定の期限を徒過してされた不適法なものである。
2 争点2について
平成25年2月18日付けの修正申告は未分割財産について相続税法55条の規定に従って課税価格を計算しており、その内容に法令違反や計算誤りは認められないから、国税通則法23条1項の所定の要件に該当しない。
1 争点1
(1) 相続税法32条は、相続税の申告書を提出した者は、同条各号のいずれかに該当する事由により当該申告に係る課税価格及び相続税額が過大となったときは、当該事由が生じたことを知った日の翌日から4か月以内に限り、更正の請求をすることができる旨規定し、当該事由について、同条1号は、同法55条の規定により分割されていない財産について民法の規定による相続分の割合に従って課税価格が計算されていた場合において、その後当該財産の分割が行われ、共同相続人が当該分割により取得した財産に係る課税価格が当該相続分の割合に従って計算された課税価格と異なることとなったことと規定している。本件各更正の請求についてみると、請求人らは、平成27年10月29日付けで遺産分割協議書を作成して本件遺産分割をしており、同日に本件遺産分割をしたと認められるから、同日に相続税法32条1号所定の事由が生じ、請求人らは「当該事由が生じたことを知った」も のと認められる。そうすると、同条に基づく更正の請求の期限は、その翌日から4か月以内の平成28年2月29日までとなるところ、本件各更正の請求は、同年3月4日にされているから、同条所定の期間にされたものとはいえない。
(2) これに対し、請求人らは、相続税法施行令4条の2第1項2号が「分割できることとなった日」について、調停の取下げの日と規定していることに鑑みると、本件において相続税法32条に規定する「当該事由が生じたことを知った日」は、本件調停を取り下げた日である平成27年11月4日である旨主張する。
しかし、相続税法施行令4条の2第1項の規定は、相続税法19条の2第2項に規定する「分割できることとなった日」について定めたものであり、本件特例に係る租税特別措置法69条の4第4項に規定する「分割できることとなった日」について規定する政令である租税特別措置法施行令40条の2第13項〔現行25項〕の規定により準用されるものでもあるが、相続税法32条に規定する「当該事由が生じたことを知った日」について定めるものではないから、請求人らの主張は論拠を欠いており、請求人らの主張は採用することができない。
2 争点2
国税通則法23条1項1号は、納税申告書を提出した者は、当該申告書に係る国税の法定申告期限から5年以内に限り、当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額が過大であるときには、税務署長に対し、更正の請求をすることができる旨規定している。
これを本件についてみると、請求人らは、各申告時において、本件未分割財産が分割されていなかったため、相続税法55条の規定に基づき、これを法定相続分の割合に従って取得したものとしてその課税価格を計算したものであり、この点について国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は計算誤りがあったことは認められない。
したがって、本件各更正の請求は、国税通則法23条1項所定の要件に該当しない。
1 本事例は、遺産分割調停の途中でありながら、調停外でも遺産分割協議を試み、それが調った場合ですが、この場合、相続税法32条に規定する「当該事由が生じたことを知った日」は、遺産分割が成立した日であって、調停取下げの日ではないと判断されました。
2 相続税法55条《未分割遺産に対する課税》に基づいた申告は、「仮の申告であり、遺産分割確定後に正しい申告に是正することになる。」と考える向きがありますが、相続税法55条に基づく申告は、未分割の場合の国税に関する法律の規定に従った誤りのない申告であり、国税通則法23条1項の要件には該当しないと判断されました。
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