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民事2020年03月26日 傷病休職に関する取扱いが問題となる場合 契約書リーガルチェックのポイント-事例でみるトラブル条項例- 編集者:秦周平 仲晃一 山中俊郎
執筆者:奥山隆輔 北野了考 田尾賢太 塚元健 秦周平 髭野淳平 吉田将樹 田中勲 仲晃一 山中俊郎


条 項 例
(傷病休職)
第◯条 傷病休職期間は、◯年間とする。
2 傷病休職により休職を命ぜられた者が休職期間満了時に復職できないときは、休職期間満了の日をもって解雇とする。
<問題点>
① 復職の可否についての判断に時間を要する場合の休職期間の延長の規定がない。
② 休職が複数回に及ぶ場合の期間の通算に関する規定がない。
③ 復職の可否について、会社が指定する医師の診断を受けることを命じるための規定がない。
④ 休職期間満了時の取扱いが自動退職ではなく、解雇とされているため、解雇予告手当の支払等、解雇に関する規制を受ける。

改 善 例
(傷病休職)
第◯条 傷病休職期間は、◯年間とする。ただし、会社が特に必要と認めた場合、当該期間を延長することがある。
2 復職後6か月以内に同一傷病(類似の傷病を含む。)により欠勤するときは、欠勤期間の開始日より休職とし、以後連続又は断続する欠勤日は、復職前の休職期間と通算する。
3 傷病休職は、前項の場合を除き、同一傷病(類似の傷病を含む。)について1回限りとする。
4 休職期間までに休職事由が消滅したときは、従業員は速やかに、復職願を医師の診断書とともに提出しなければならない。
この場合、会社が必要と認めたときは、本人に会社の指定する医師による診断を命じることができる。
5 傷病休職により休職を命ぜられた者が休職期間満了時に復職できないときは、休職期間満了の日をもって退職とする。
解 説
1 休職
 休職とは、従業員を就労させることが不適当な場合又は不能な場合に、会社が、労働契約を存続させつつ労働義務を一時免除又は就労を禁止することをいいます。
 公務員については、法律上休職制度が定められていますが、民間企業においては、休職制度の設置の有無及び休職制度の内容についての法律上の規制はなく、これらは、労使間の取決めに委ねられています。
 休職制度が存在する場合、それは従業員に対して明示すべき労働条件となり(労基15、労基則5①十一)、全従業員に適用されるものであれば、就業規則の記載事項となります(労基89十)。多くの会社では、就業規則に休職制度が規定されています。
 休職の内容は様々であり、①業務外の病気や負傷を理由とする傷病休職、②その他の傷病以外の自己都合による欠勤事故を理由とする事故欠勤休職、③起訴された従業員につき、社会的な信用や企業秩序の維持、あるいは懲戒又は解雇等の処分が決定されるまでの待機を目的として行う起訴休職、④他社への出向に伴う自社での不就労に対応する出向休職、⑤留学や公職への就任に伴う自己都合休職、⑥労働組合の役員に専念する場合の専従休職、⑦懲戒処分の一環としての懲戒休職等があります。
 ここでは、近時のメンタルヘルス事案の増加に伴い、実務において最も問題となる場面の多い傷病休職について取り上げます。傷病休職は、業務外の病気や負傷により、欠勤が長期間に及ぶ従業員について、解雇を一定期間猶予することを目的とする制度です。
2 傷病休職の期間
 傷病休職の期間は、一般的には、1年から3年の間で決められている例が多く見られます。
 休職期間の定め方は、①一律に期間を定めるもの、②勤務年数により期間を区分するもののいずれかが多く見られますが、いずれの場合にも、復職の可否の判断に時間を要する場合があるため、前記改善例1項ただし書のように、休職期間の延長に関する規定も入れておくべきです。
3 休職期間の通算、回数
 近年メンタルヘルスにより欠勤する従業員が急増し、これらは通常の怪我や疾病と異なり、一旦、症状が回復しても再発する事案が多く見られます。
 そのため、会社としては、従業員がメンタルヘルスにより傷病欠勤を繰り返す事態に対応する規定を設ける必要性があります。
 具体的には、①前記改善例2項のように、同一傷病による傷病欠勤の場合には、休職期間を通算する規定を置くこと、②前記改善例3項のように、休職期間の回数に制限を設けることが考えられます。
 また、メンタルヘルス事案の場合、診断名が異なる場合も多いため、同一の場合のみならず、類似の傷病を含めて、休職期間を通算することを明示すべきです。
4 会社の指定する医師の診断
 傷病休職からの復職の判断の可否については、医学的な判断を伴うため、前記改善例4項のように、従業員の復職願の提出に際して、医師の診断書を併せて提出する旨を規定すべきです。
 もっとも、従業員の主治医が、復職後の業務内容等を十分に把握しないまま、復職が可能であるとの診断書を作成する事案も見られます。 このような事案に対応するため、会社が必要と認めた場合には、会社の指定する医師の診断を受けなければならない旨の規定も併せて規定しておくべきです。
 判例上、傷病休職期間の満了時において、従前の業務に復帰できる状態ではないが、より軽易な業務には就くことができ、そのような業務での復職を希望する者に対しては、会社は現実に配置可能な業務の有無を検討する義務があるとされており、そのような検討により軽減業務を提供せずに退職扱いや解雇を行った場合には、それらは無効であると判断されていますので(JR東海事件=大阪地判平11・10・4労判771・25、キャノンソフト情報システム事件=大阪地判平20・1・25労判960・49)、復職の可否の判断については、慎重な検討が必要です。
 従業員が、合理的な理由なく、医師の診断書の提出や会社指定の医師の診断を拒否する場合において、復職の可否について、従業員に不利な判断をした判例(大建工業事件=大阪地決平15・4・16労判849・35)があります。
5 傷病休職期間満了後の扱い
 従業員が傷病休職から復職しないまま休職期間が満了したときの会社の取扱いとしては、①普通解雇とする扱いと、②自動退職とする扱いがあります。
 普通解雇とすると、解雇予告手続(労基20)等の規制が及ぶため、自動退職として規定すべきです。
トラブル例
◯会社が、就業規則の傷病休職に期間の通算に関する規定を「欠勤後一旦出勤して3ヶ月以内に再び欠勤するとき(中略)は、前後通算する。」から「欠勤後一旦出勤して6ヶ月以内または、同一ないし類似の事由により再び欠勤するとき(中略)は、欠勤期間は中断せずに、その期間を前後通算する。」と変更した事案について、近時いわゆるメンタルヘルス等により欠勤する者が急増していること等を理由に、就業規則の変更として、必要性及び合理性を認め、有効であるとした事例(野村総合研究所事件=東京地判平20・12・19労経速2032・3)

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