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民事2024年08月02日 消費者法のパラダイムシフトのゆくえ(1) 執筆者:井田雅貴

1 はじめに

 消費者委員会では、令和5年12月27日から「消費者法制度のパラダイムシフトに関する専門調査会」(以下「パラダイムシフト調査会」という。)が開催されており、本稿作成時点で、第7回まで実施されている。
 https://www.cao.go.jp/consumer/kabusoshiki/paradigm_shift/index.html
 以下では、パラダイムシフト調査会の議論状況を、数回に分けて述べる。

2 パラダイムシフト調査会の設置目的

 内閣総理大臣から、令和5年11月7日付消制度第319号にて、消費者委員会に諮問があったことを契機とする。
 諮問内容は、超高齢化やデジタル化の進展等消費者を取り巻く取引環境の変化に対応するため、消費者の脆弱性への対策を基軸とし、生活者としての消費者が関わる取引を幅広く規律する消費者法制度のパラダイムシフトについて検討すること、であり、具体的には、①消費者が関わる取引を幅広く規律する消費者取引全体の法制度の在り方、②ハードロー的手法とソフトロー的手法、民事・行政・刑事法規定など種々の手法をコーディネートした実効性の高い規律の在り方、③デジタル化による技術の進展が消費者の関わる取引環境に与える影響についての基本的な考え方等、を検討することとされている。
 パラダイムシフト調査会は、上記諮問を受け、概ね、下記スケジュールで取りまとめを行うとされている。

<前半>
 1.消費者が関わる取引を幅広く規律する消費者取引全体の法制度の在り方
 ①消費者法制度における“脆弱性”概念の捉え方
 ②金銭の支払いに限られない消費者取引の拡大(情報、時間、関心・アテンションの提供)への対応の在り方
 ③「客観的価値実現」((取引環境・取引結果の)安全な状態の確保)の位置付け
 2.デジタル化による技術の進展が消費者の関わる取引環境に与える影響についての基本的な考え方
 ①デジタル取引の特徴の分析・具体化
 ②デジタル取引について、リアル取引と(次元の)異なる規律が必要となる場面、規律が整備されていない場面の整理
<後半>
 3.ハードロー的手法とソフトロー的手法、民事・行政・刑事法規定など種々の手法をコーディネートした実効性の高い規律の在り方
 ①消費者法制度における“規律のグラデーション”の在り方
 ②消費者法制度における“実効性のある様々な規律のコーディネート”の在り方
 ③既存の枠組みにとらわれず、消費者取引を幅広く捉える規律の在り方
 ④消費者法制度の担い手の在り方(ヒアリング例)・公私協働の仕組みや共同規制の活用可能性・消費者団体訴訟制度の活用可能性・技術の活用可能性・実効性の高い手法の在り方(刑事法分野を含む)

 パラダイムシフト調査会は、令和7年の夏ころに意見を取りまとめるとのことであり、長い時間をかけてじっくりと議論をしていきたい、という思惑が伺える。

3 パラダイムシフト調査会(第1回)で議論されたこと

消費者庁から「消費者取引の環境変化を踏まえた消費者法制の見直しについて」という資料が提出された。そこでは、概略、以下の問題意識が提示されている。

 ・高齢化やデジタル化の進展等に伴い、消費者を取り巻く環境が日々変化している現代においては、これまでのように消費者法を個別課題ごとに都度対応すべく改正を行っても、消費者取引の安心・安全を十全に実現するのは難しい。また、国会における議論としても、消費者契約法の令和4年改正時に、衆・参両院から「既存の枠組みに捉われない抜本的かつ網羅的なルール設定の在り方について検討を開始すること」という附帯決議がなされている。
 というこれまでの取り組みの限界を指摘し
 ・高齢化の進展により認知機能が不十分な消費者の割合が拡大している
 ・デジタル化の進展等により限定合理性や認知バイアス等が利用され消費者に不利益・不公正な取引が生じやすい状況が生じている
 ・消費者取引の国際化も急速に普遍化している
 ・デジタル化と情報過剰社会の進展は、消費者が情報、時間、関心・アテンションを提供する新たな消費者取引を拡大させるとともに、デジタル技術がこれらを含むデジタル消費者取引の在り方を規律する
 という社会的背景を踏まえ
 ・消費者を取り巻く取引環境の変化に対応するため、消費者法を理念から見直し、その在り方を再編し拡充するための検討が必要。
 と結論づけている。

 消費者庁の上記資料には、令和4年8月から同5年6月まで実施された「消費者法の現状を検証し将来の在り方を考える有識者懇談会」における議論のエッセンスも記載されている。それによれば、

 ①消費者法制は「一般的・平均的・合理的」な消費者と事業者間の「情報の質・量、交渉力の格差」だけではなく、「消費者の脆弱性」や金銭のみならず、情報・時間・関心を事業者に提供する「主体的な生活者としての消費者」といった概念も取り込んで規律していく必要がある。
 ②今後の消費者法制は消費者が係わる取引の全体を私法・公法双方のアプローチで幅広く規律していく必要がある。その際、悪質性の度合い等の事業者の多様性に応じ、実効性を確保する必要がある。
 ③ハードロー的手法とソフトロー的手法、民事・行政・刑事法規定、AI等の技術など種々の手法をコーディネートした上で、実効性の高い規律の在り方を検討していく必要がある。
 とのことである。

 かかる議論が、今回、内閣総理大臣からなされた諮問に反映されているといえる。

筆者は、これまでも、消費者法制が何度も改正されたにもかかわらず、とりわけ、デジタル技術を利用した取引において多数の消費者被害事例が発生している(被害回復が容易ではない)という現代的諸相を踏まえ、より実効性ある規制の在り方を、いわばこれまでの知見を総動員して考える、という取り組みは正鵠を得たものと理解している。他方で、テーマが大きいことから、どのように取りまとめるのかも注目している。
 次回以降も、パラダイムシフト調査会の議論状況をお伝えする次第である。

次回に続く

(2024年7月執筆)

(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)

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執筆者

井田 雅貴いだ まさき

弁護士(弁護士法人リブラ法律事務所)

略歴・経歴

出   身:和歌山県 田辺市
昭和63年:京都産業大学法学部法律学科入学
平成 4年:京都産業大学法学部卒業
平成 7年:司法試験合格
平成 8年:最高裁判所第50期司法修習生
平成10年:京都弁護士会 谷口法律会計事務所 所属
平成14年:大分県弁護士会登録変更 リブラ法律事務所 所属
平成16年:弁護士法人リブラ法律事務所に改組

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