民事2020年03月30日
許諾の範囲(期間、地域、対象)が不明確な場合 契約書リーガルチェックのポイント-事例でみるトラブル条項例-
編集者:秦周平 仲晃一 山中俊郎
執筆者:奥山隆輔 北野了考 田尾賢太 塚元健 秦周平 髭野淳平 吉田将樹 田中勲 仲晃一 山中俊郎
(実施権の許諾)
第◯条 甲は、甲の有する技術について、実施権を乙に許諾する。
<問題点>
① 許諾の範囲(許諾の期間、許諾の地域、対象となる権利、許諾の種類)が明確でない。
(通常実施権の許諾)
第◯条 甲は、特許第◯号に係る特許権について、本契約の有効期間中、日本国内において通常実施権を乙に許諾する。
1 許諾とその範囲
特許・商標・著作権・ノウハウなどの知的財産の所有者が自己の知的財産を他社に利用させることはよく行われています。このような利用の許諾はライセンスと呼ばれ、許諾を行う側をライセンサー、許諾を受ける側をライセンシーといいます。
ライセンス契約では、許諾の範囲を明確に規定することが必要です。
許諾の範囲としては、対象となる知的財産の種類(特許等)、許諾する権利の種類(独占的実施権か非独占的実施権かなど)、許諾の時期的・地域的・内容的範囲、サブライセンス・下請け・製造委託の可否、改良発明の取扱いなどがあります。 ここでは、対象となる知的財産の種類(特許等)と許諾の時期的・地域的・内容的範囲について述べます。
2 ライセンス対象となる知的財産の特定
ライセンス対象の特定は、ライセンス料の算定や、ライセンシー(実施権者)の製品がライセンスの範囲内かどうかの判断のために必要です。ライセンス対象の特定は、例えば特許の場合は、通常、特許番号、発明の名称等により行いますが、ライセンス対象を特定の製品や技術分野で特定しても差し支えありません。ただし、ライセンス範囲が十分明確になるように注意すべきです。
また、多数の特許権を一括して許諾する場合、ライセンシー(実施権者)の求める技術以外の技術についても一括してライセンスを受ける義務を課すことは、不公正な取引方法に該当して独占禁止法に違反するおそれがありますので、留意が必要です(知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針(以下「指針」といいます。)第4 5(4))。
3 許諾の時期的・地域的・内容的範囲
許諾の時期的範囲としては、例えば、ある基準日から1年間、2年間のように定めてもかまいませんし、契約の有効期間と一致させてもかまいません。また、特許権の有効期間としてもかまいませんが、特許権消滅後にもライセンス契約を継続することは、独占禁止法に抵触するおそれがあります(指針第4 5(3))。
許諾の地域的範囲としては、日本国内での実施に限ることもできますし、実施の態様に応じて製造地域、販売地域のような制限を付けることもできます。また、輸出を禁止したり、特定の国への輸出に限定したりすることもできます。輸出の制限は、真正商品の並行輸入との関係で問題になることがあります。
許諾の内容的制限としては、製造、販売等の行為のみ許諾してもかまいませんし、特定の製品や技術分野に制限することも原則として可能です。また、最低製造数量・最低販売数量を規定することは、原則としてかまいませんが、製造数量・販売数量の上限を定めることは、市場全体の供給量を制限する効果がある場合には、不公正な取引方法に該当します(指針第4 3(2)イ・4(2))。その他、販売先の制限、原材料・部品の品質又は購入先の制限等について注意する必要があります(指針第4 4(1)(2))。
ライセンサー(許諾者)及びライセンシー(実施権者)のいずれの立場であっても、ライセンス契約が自社の事業の発展に役立つように許諾の範囲を設定することが肝要です。
なお、ライセンシー(実施権者)の製品がライセンス特許の技術的範囲に属するかどうかについて、当事者間で意見が対立することがあります。このような事態に対処するために、仲裁や特許庁の判定制度の利用等に関する条項を設けておくことは有用です。
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