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民事2020年03月31日 知的財産権の帰属が明確でない場合 契約書リーガルチェックのポイント-事例でみるトラブル条項例- 編集者:秦周平 仲晃一 山中俊郎
執筆者:奥山隆輔 北野了考 田尾賢太 塚元健 秦周平 髭野淳平 吉田将樹 田中勲 仲晃一 山中俊郎


条 項 例
(システム開発の成果物の帰属)
第◯条 本件システムその他の成果物に関する著作権は、受託者に帰属する。
<問題点>
① システム開発においては、受託者が開発行為を行うが、成果物についての著作権は著作者である受託者が有するため、委託者が自由に利用できない場合がある。
② 著作者人格権は一身専属的権利であるため、著作者に留保されるものであり、システム開発の成果物を委託者が一切改変して利用できない場合がある。
③ システム開発の成果物に関する知的財産権には、著作権の他に特許権の前身となる特許を受ける権利があり、特許を受ける権利は原始的に発明者に帰属するため、システム開発の成果物を委託者が自由に実施できない場合がある。

改 善 例
(成果物の帰属)
第◯条 本件システムその他の成果物のうち新規なものに関する著作権(著作権法第27条及び第28条に定める権利を含む。)は、委託者と受託者の共有とし、持分は均等とする。また、受託者は委託者に対して著作者人格権を行使しない。
2 本件成果物に関して生じた発明について、特許を受ける権利の帰属は、委託者又は受託者がそれぞれ単独で発明をした場合は委託者又は受託者に帰属し、共同で発明をした場合は両者の共有としかつ持分は均等とする。ただし、本件成果物に受託者に帰属する特許権が含まれる場合、受託者は委託者に対し、本件成果物を使用するために必要な範囲で、無償の通常実施権を許諾する。
解 説
1 システム開発の成果物の範囲
 システム開発においては、その開発の工程に沿って、要件定義書、仕様書、構成図、プログラム等の成果物ができることになります。開発途中に受託者から委託者に提示される報告書やモック(システムのデザインや機能を部分的に確認するための試作品)等の中間成果物も含まれます。システム開発では、受託者がシステム成果物を委託者に納入することが求められますから、最終的にどのような成果物を納入するのかを具体的かつ明確に規定しておく必要があります。また、成果物は著作物になりますので、その帰属を明確にしておく必要があります。前記改善例1項では共有であることを明記しています。
2 二次的著作物
 著作権法2条1項11号には、二次的著作物について、「著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案することにより創作した著作物をいう。」との規定があります。また、著作権法61条2項には、「著作権を譲渡する契約において、第27条又は第28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これら の権利は、譲渡した者に留保されたものと推定する。」との規定があります。これは、著作者である譲渡人(上記でいう受託者)の地位を保護することを趣旨とするものですが、翻訳権や二次的著作物に関する権利も委託者に帰属させたい場合には、契約に明記しておく必要がありますので、要注意です。即ち、かかる「特掲」がないと、譲受人(上記でいう委託者)は、システム開発の成果物を含む新システムを開発した場合、その自己使用はもとより、第三者に譲渡する際にも受託者の許諾を要することになってしまいます。
3 著作者人格権
 更に注意を要するのは著作者人格権です。著作者人格権には、公表権(無断で著作物そのものを公表されない権利)、氏名表示権(著作物を公表する際に表記する著作者名を決定したり、実名、無名又は変名を決定したりする権利)及び同一性保持権(無断改変によって誤解されない権利)があります(著作17~20)。財産権である著作権は譲渡できますが、著作者人格権は人格権の性質上、著作者に一身専属的に帰属し、譲渡できませんので、「受託者は委託者に対して著作者人格権を行使しない。」といった規定が必要になることがあります。
4 システムに関する著作権と特許権(特許を受ける権利)
 システム開発の成果物は、表現物という観点からは著作権の対象となりますが、技術的思想の創作(アイデア)という観点からは「発明」と捉えられ、特許を受ける権利の対象となります(著作10①九、特許2①③)。ここで、発明は自然人たる発明者がなすものですから、特許を受ける権利は原始的には発明者(上記でいう受託者)に帰属し、したが って、その特許を受ける権利から生じる特許権も、基本的には、その発明者に帰属することになります。著作権とは別に、特許を受ける権利及び特許権についても、何らかの権利処理をしておくとよいでしょう。例えば、前記改善例の2項においては、特許を受ける権利についても共有と定めています。
トラブル例
◯開発委託契約書に「受託者が作成した仕様書、本件開発製品及び附属文書その他本件業務の過程で作成したプログラム、書類、図面、情報その他の資料(以下、本件著作物という)に関する著作権(著作権法第27条、同28条の権利を含む)及び所有権その他一切の権利は、委託料の完済時に委託者が取得する」と規定されており、「本件著作物」として「ソースコード」が明記されていなかったことから、受託者がこのソースコードに改変を加えたシステムは委託者の著作権を侵害しないと判断された事例(東京地判平15・11・17(平15(ワ)5020))

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