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民事2024年04月05日 消費者法のゆくえ(2) 執筆者:井田雅貴

1 はじめに

 消費者庁では、令和4年8月30日から同5年6月30日まで「消費者法の現状を検証し将来の在り方を考える有識者懇談会(以下「懇談会」という。)が実施され、議論の整理状況が公表されている(以下「議論」という)。
 以下では、整理状況のうち、筆者が気になった点について雑感を述べる。

2 消費者法に何が必要か

 議論では、デジタル化の影響が法に及ぼす影響について、デジタル技術が、これを適切に構築することで安全・公正な取引を担保することにも寄与するものであることを前提としつつ、デジタル取引においては消費者の脆弱性がより顕在化しがちであるとする。例えば、近年よく言われるダークパターン(Webサイトの表記やデザインを利用してユーザーにとって不利な決定に誘導する手法のこと)を例としてあげている。消費者にとって取引のデジタル化によってより簡便・迅速な取引が可能となった反面、取引の過程で得られたデータを利用して個人の性向を分析し、必ずしも望まない取引に誘うことが容易となっている。
 このような取引のデジタル化が果たされた現代社会で、法と技術との関係はどうあるべきか。議論では、1つの方向性として、消費者法によって、デジタルプラットフォーマーが提供する取引環境に対するガバナンスシステムやデジタルプラットフォーマーが自ら適切な規律を実践することができる仕組みを構築する必要があるとしている。インターネット上の取引は、大抵、事業者側が選択したプラットフォーム上でなされることや、プラットフォーマーも自社が構築した仕組み上でトラブルが多発することは望まず、係る事態発生の予防・防止のために何らかの手段を講じる(自主規制)ことを期待した方が却って迅速な是正が可能となることから、係る方向性は妥当といえる。

3 AIの発展・普及と消費者法

 現代社会では、事業者が消費者取引に関してAI技術を利用している傾向にある。
 議論では、AIそれ自体を含む技術やシステム設計が取引を規律することを前提に、そこでの規律の在り方を、体制整備義務や透明性確保、事後的監査の仕組みなどを組み合わせることで法によって担保するアプローチが有効と考えらる、としている。AIを利用した取引そのものが問題ではなく、また、予めAIを利用した取引を類型化して取引の内容を規制することは困難であることから、取引にAIを利用するプロセスを監視・監督し、問題が生じたら速やかに是正する、という仕組みの方が消費者にとってのメリットを損なわない面があることから、係る規制の方向性は妥当といえる。

4 被害・損失をリカバリーする仕組みの検討

 現代社会では、例えばSNSを利用した特殊詐欺事案では被害回復を図る
ことが相当困難である場合や、少額の加害的取引が大規模でなされた場合に消費者が法的救済を断念するという場合も存する。
 議論では、被害回復の仕組みの多様化を図る必要があるとして、例えば、不法行為法制による損害賠償制度の活用、あるいは、デジタルプラットフォーマーが提供するADRの活用や、被害回復に係る消費者団体訴訟制度の活用促進、が提案されている。現在社会における消費者被害の原因は、消費者の意思形成過程に働きかける手法がより巧妙になっている点が挙げられるところ、これに正面から規制を及ぼす(契約の解消)よりも直截的な被害回復請求として損害賠償請求を重視することは十分考えられる。また、消費者が被害回復を断念する一因として被害救済過程で生じるコストが見合わないという点も存在する。この場合、消費者にとって簡便な被害回復手段としてADRや消費者団体訴訟制度をより積極的に活用できる仕組みを構築することは係る弊害の除去として有力な手段である。
 これまでの消費者法が、ともすれば意思表示に瑕疵があるとする範囲を拡張していくという傾向にあったことは否定できない。しかし、そのことには時間を要するばかりか、他の手段に依拠した方がより容易に被害回復を図る事ができる事例も存する。この意味で、規制内容や規制手段をより多面的に組み合わせて消費者被害の回復を図ることが消費者法の制定・改正の際には求められることとなるであろう。

(2024年3月執筆)

執筆者

井田 雅貴いだ まさき

弁護士(弁護士法人リブラ法律事務所)

略歴・経歴

出   身:和歌山県 田辺市
昭和63年:京都産業大学法学部法律学科入学
平成 4年:京都産業大学法学部卒業
平成 7年:司法試験合格
平成 8年:最高裁判所第50期司法修習生
平成10年:京都弁護士会 谷口法律会計事務所 所属
平成14年:大分県弁護士会登録変更 リブラ法律事務所 所属
平成16年:弁護士法人リブラ法律事務所に改組

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