一般2025年02月28日 宮崎県のスポーツキャンプ事情 執筆者:大橋卓生

 2025年2月1日、プロ野球の春季キャンプが始まりました。昨年、移籍をお手伝いした選手の近況を見に行くという口実の下、宮崎県で実施されているプロ野球球団の春季キャンプをいくつか回ってきました。
 春季キャンプシーズンに突入した宮崎県を訪れて感じたことは、立派なスポーツ施設が多く、キャンプを実施する球団等スポーツクラブや選手にとっては良い環境が整っているということでした。公益財団法人宮崎県観光協会のウェブサイトによれば、2025年の春のキャンプは、プロ野球8球団(二軍・三軍含む)、Jリーグ(J1からJ3)16クラブが宮崎県でキャンプを実施するようです。同観光協会が平成30年度に発行した「スポーツキャンプ・合宿ガイド」によれば、野球施設29ヶ所、サッカー施設30ヶ所、陸上施設12ヶ所、テニス施設31ヶ所、屋内施設・武道施設38ヶ所、マリンスポーツ(サーフィン等)・アクティビティ(ゴルフ・ボルダリング等)施設62ヶ所あるようです。
 まさに「スポーツランドみやざき」の名にふさわしい充実度です。
 しかし、同時に、果たしてキャンプシーズン以外にこれらスポーツ施設は十分利用されているのであろうか、と疑問が浮かびました。
 これら施設の年間の稼働状況を調べてみましたが、把握できませんでした。
 令和6年度の宮崎県の予算によれば、「3つの日本一挑戦」プロジェクトの1つとして「スポーツ観光」が掲げられており、スポーツ関連予算として23.6億円の予算が計上されていました1。宮崎県の人口(約106万人)と同程度の都道府県の令和6年度のスポーツ関連予算の額を調べてみたところ、大分県(約112万人)で2億円程度、石川県(約113万人)で5億円程度、山形県(約106 万人)で1.4億円程でした2
 こうしてみると宮崎県が同規模の他県よりも相当程度スポーツに予算を割り当てていることが分かります。2027年には宮崎県で国民スポーツ大会が開催される予定であり、この予算は上記予算とは別に計上されており、複数年にわたりますが、約600億円の予算を計上しています。ますます宮崎県のスポーツ関連施設は充実するものと思います。
 宮崎県庁のウェブサイトによれば、令和6年の春季キャンプの経済効果について約107億円、PR効果について60億円と試算しており、これだけでも予算の約7倍の効果であり、十分に元が取れているように見受けられます。令和6年の春季キャンプ(令和6年1月から3月)においては、378団体1万1183人が参加し、観客数は75万3347人と公表されています。プロ野球やJリーグといったプロスポーツだけでなく、社会人や大学などスポーツ部活動の合宿も相当程度行われているものと思われます。令和5年度(令和5年4月から令和6年3月)1年間のスポーツキャンプの受入れ状況は、1024団体2万6807人とのことです。春季キャンプ(1月から3月)で宮崎県を利用する団体の割合は約37%ですが、約63%の団体は春季キャンプの時期以外にも宮崎県を利用していることが分かります。プロスポーツでいえば、侍ジャパンやラグビー日本代表など秋季に宮崎県でキャンプをしているようです。
 特に令和6年度において宮崎県は、スポーツキャンプの総合窓口を設置し、競技別の部会を作って、キャンプや大会の招致活動に力を入れていることが分かります。さらに、多言語対応やパラリンピック・デフリンピックの国内外代表合宿の受入を積極的に行っています。東京オリンピック・パラリンピック時には、ドイツの陸上チーム(オリ・パラ)、イギリスのトライアスロンチーム(オリ・パラ)、ノルウェーのトライアスロンチーム(オリ)、米国女子サッカー代表チーム(オリ)、ボクシング6カ国合同合宿を受け入れた実績があります。2025年9月に世界陸上東京大会、11月にデフリンピック東京大会、2026年には愛知・名古屋アジア競技大会と日本国内で大きな国際大会が予定されており、事前キャンプ地として宮崎県が選択される余地は多分にあります。
 これだけ多くのスポーツ関連施設を維持するには、施設の維持管理にかかるコストの負担や利用者数の季節的な変動は大きな課題と思われます。このため、宮崎県や市区町村では、保有するスポーツ施設について指定管理者制度を利用し、民間事業者が管理・運営するという方式を採用しています。こうした民間事業者によってスポーツ施設を多目的に利用されている例も見られました。たとえば、ひなたサンマリンスタジアムでは、アイドルグループの日向坂46のイベント「ひなたフェス2024」が開催されたり、みやざき臨海公園では音楽とサーフィンをテーマにした「THE DROP FESTIVAL 2024 in MIYAZAKI」が開催されました。
 こうしていろいろと調べてみますと、宮崎県のスポーツ施設は春季キャンプシーズン外でも多様な形で活用されていました。スポーツだけでなく観光や文化などさまざまな分野と連携することで、今後もその価値を高めていくことが期待されています。持続可能な運営と地域全体の活性化を見据えた戦略的な取り組みが、今後の宮崎県におけるスポーツ施設のさらなる発展の鍵となると思います。

1https://www.pref.miyazaki.lg.jp/documents/86039/86039_20240207143059-1.pdf
2予算規模も宮崎県の6598億円に対して、大分県6898億円、石川県6170億円(ただし令和5年度)、山形県6497億円

(2025年2月執筆)

(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)

執筆者

大橋 卓生おおはし たかお

弁護士

略歴・経歴

1991.03  北海道大学法学部卒業
1991.04~
 2003.01 株式会社東京ドーム勤務
2004.10〜 弁護士登録(第一東京弁護士会)
2011.11~ 虎ノ門協同法律事務所
2012.01~ 金沢工業大学虎ノ門大学院 准教授(メディア・エンタテインメントマネジメント領域)
2018.04~ 金沢工業大学虎ノ門大学院 教授(メディア・エンタテインメントマネジメント領域)
2021.08~ パークス法律事務所

【著書】
「デジタルコンテンツ法の最前線」共著,商事法務研究会,2009
「詳解スポーツ基本法」共著,成文堂,2010
「スポーツ事故の法務 裁判例からみる安全配慮義務と責任論」創耕舎、2013
「スポーツ権と不祥事処分をめぐる法実務―スポーツ基本法時代の選手に対する適正処分のあり方」共著,第一東京弁護士会総合法律研究所研究叢書,清文社,2013
「スポーツにおける真の勝利-暴力に頼らない指導」共著,エイデル研究所,2013
「スポーツガバナンス 実践ガイドブック」共著,民事法研究会,2014
「スポーツにおける真の指導力ー部活動にスポーツ基本法を活かす」共著,エイデル研究所,2014
「スポーツ法務の最前線ービジネスと法の統合」共著,民事法研究会,2015
「標準テキスト スポーツ法学」共著,エイデル研究所,2016
「エンターテインメント法務Q&A」共著,民事法研究会,2017
「スポーツ事故対策マニュアル」共著,体育施設出版,2017

執筆者の記事

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索