一般2026年03月23日 ユニバーサル・アクセス権=テレビなのか? 執筆者:松本泰介

2026年3月に開催されたWorld Baseball Classic(WBC)を観戦しました。現地での観戦はもちろんのこと、有料視聴環境であったNetflixや、無料での観戦環境としてのラジオ放送、ソーシャルメディアやデータ配信など、いろいろ試したことで非常に興味深い大会となりました。
1. もう無料で楽しむのはテレビじゃない
皆さんもよくご存じのとおり、今回のWBCの放映では地上波放送はなく、Netflixの有料配信のみとなりました。これまで地上波放送が存在したWBCが一切テレビにて見ることができなくなったのは、過去映像の記憶がある方々からするとなかなかショッキングなことかもしれません。こちらはWBC大会がメジャーリーグ(MLB)とMLB選手会の意向が強く反映されることから、放映権料による資金獲得に重点を置かれた契約となったということでしょう。
地上波放送はなくなったものの、NetflixのInstagramではハイライト映像がほぼリアルタイムで投稿されていました。夜のテレビのスポーツニュースのハイライトでさえ時間の遅さを感じます。となると、無料で観ることができる試合映像というのも、もはやテレビというメディアからSNSに移行したともいえるでしょう。筆者も海外サッカーなどはほとんど見る時間もなく、SNSでハイライト映像を見ることも増えました。その意味では、今回のWBC大会主催者もNetflixもスポーツ映像の新しい視聴環境にチャレンジしているのではないかと感じられました。
従来のテレビの地上波放送が続いていた場合、このような無料の観戦体験はなかなか生まれなかったわけですので、今回Netflixを中心として、有料・無料を問わず、非常に多様な観戦体験が生まれたことは非常に有意義だったと思われます。
2. ユニバーサル・アクセス権はテレビ?
ユニバーサル・アクセス権の議論になりますと、イギリスやフランス、韓国の放送関連法の話題が多いので、いつもテレビの地上波無料放送の話になります。
ただ、ユニバーサル・アクセス権の議論は、元々コミュニケーションの自由ということからすれば、本当にテレビを前提とした議論でいいのか、ということも考えられます。ご年配の方などはなかなかテレビでないと情報を仕入れられない、ということなのかもしれません。ただ、テレビの地上波放送はチャンネル数の少なさと番組枠(時間枠)の制限がある以上、十分なコミュニケーションができるツールなのか、ということも考えさせられました。今回のWBCでは、地上波無料放送がなくなったばかりに、むしろ無料での別の楽しみ方ということが際立った大会でもありました。
1つは、Netflixのソーシャルメディアを中心とした、SNSを中心とした楽しみ方です。これまで地上波無料放送が実施されていた時代は、テレビが中心であったため、生放送や夜のスポーツニュースの視聴率から、なかなか試合のハイライト映像などを使用したSNSの活用はなされていませんでした。しかしながら、今回は、NetflixのSNSで、試合のハイライト映像はほぼリアルタイムで流されていましたし、ベンチなどの特別映像、テレビ映像とは違った編集映像、脚色映像など、非常に工夫された映像がどんどん配信されていました。その意味では、Netflixは、単に有料配信を独占しただけでなく、無料でのスポーツ映像の楽しみ方の多様性を示したといえるでしょう。
もう1つが、データ配信です。今回のWBCでは、侍ジャパン事業などを行っているNPBエンタープライズがリリースした「NPB+」というアプリケーションで、WBCの試合データがリアルタイムで配信されていました。打球速度や高さ、ホームラン打球の軌道やピッチングの軌道など、ホークアイから抽出された様々なデータが表示されていました。普段のテレビ映像ではなかなか見られないデータが無料で配信されており、SNSで共有することも機能として備えていました。こちらもすばらしい情報提供、コミュニケーションが図られていたといえるでしょう。
若い世代のテレビ離れを考えた場合、ユニバーサル・アクセス権を保障するために、テレビではない、ソーシャルメディアやデータ配信を考えていくことを非常に痛感させられた大会となりました。
(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)
(2026年3月執筆)
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執筆者

松本 泰介まつもと たいすけ
早稲田大学スポーツ科学学術院教授・博士、弁護士
略歴・経歴
専門分野はスポーツ法、スポーツガバナンスなど。
主な経歴は、日本プロ野球選手会監事、日本プロサッカー選手会執行理事、日本スポーツ仲裁機構理事、早稲田大学スポーツビジネス研究所(RISB)所長など。
主な著作に、「スポーツビジネスロー」(大修館書店)、「代表選手選考とスポーツ仲裁」(大修館書店)、「標準テキスト・スポーツ法学」(エイデル研究所刊。編集委員)、「理事その他役職員のためのガバナンスガイドブック」(日本スポーツ仲裁機構刊。共著)、「トラブルのないスポーツ団体運営のために ガバナンスガイドブック」(日本スポーツ仲裁機構刊。共著)など。
その他経歴、肩書などは、https://wasedasportslaw.amebaownd.com/参照。
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