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契約2022年09月16日 東京オリパラ組織委員会元理事問題の本質 ~利益相反 執筆者:松本泰介

 2022年8月17日、東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下「東京オリパラ」といいます)組織委員会の高橋治之元理事が東京オリパラのスポンサーから多額の資金提供を受けたとして、受託収賄罪の容疑で、東京地方検察庁特別捜査部に逮捕されました。

 近年のオリンピック・パラリンピックでは、2002年ソルトレイクオリンピック招致に関する買収問題で永久追放処分が下されたり、2016年リオデジャネイロオリンピック招致に関しては、ブラジルオリンピック委員会の会長が贈賄容疑で逮捕されています。このようなオリンピック・パラリンピックの汚点は数々ありますが、日本でもこのような事態が起こったことは、オリンピック・パラリンピック関係者にとって痛恨の極みでしょう。

 ただ、現代のスポーツビジネスでこの問題の本質を考えた場合、最も大きな課題は、スポーツビジネスの仲介者の「利益相反」でしょう。本稿では、現代のスポーツビジネスにおいて、このような事態に発展しないように、スポーツビジネスにおける利益相反をどのように防ぐのかを考えてみたいと思います。

1. 代理ビジネスにおける利益相反

 スポーツビジネスにおいては、特に代理ビジネスにおいて現実的な問題として利益相反が表面化します。今回の東京オリパラ組織委員会元理事も誰のために仕事をしていたのでしょうか。組織委員会の理事である以上、組織委員会の最大利益を目指すべきでしょうが、一方で、スポンサーの便益を図る活動を行っていたようにも見えます。また、コンサルタント料やスポンサー料から不明瞭な分配を受け取っていたのであれば、自己の便益も図っていたと思われます。

 組織委員会の理事は「みなし公務員」に該当したため、受託収賄罪という犯罪が問題となっていますが、実態としての大きな課題は利益相反にあります。これが日本●●協会という中央競技団体の理事の場合を考えれば、まさに誰を見ながら仕事をしていたのかという利益相反の問題になります。

2. 国民のため、相手のためというデタラメ

 このような利益相反の場合、日本では、全員のためにやったので問題ない、仕事の対価である以上自らが報酬をもらっても問題ない、などの主張がよく行われます。日本人は、全体利益を中心に考えるため、利益相反の前提となる個々の利益意識が低くなり、利益相反意識も低いため、このような主張が行われます。今回の問題で、東京オリパラ組織委員会の元理事も、「国民のためにやってきた」趣旨のことを述べていると報じられています。このような発言は、日本のスポーツビジネスでもよく見られ、「スポーツの育成、普及のためにやっている」、「相手のためを思ってやっている」という話はよく出ます。しかしながら、お金の流れをよく見れば、自分あるいは自分の関連会社でしっかり利益を得ていることは少なくありません。なかには、自分はボランティアで理事をやっている、といいながら、自らの関連会社で代理店手数料をきちんと受け取っている理事もいました。つまり、自己の利益を得ているにもかかわらず、このような便法を使ってそれを隠そうとしており、利益相反の意識が極めて鈍麻している裏返しでもあります。

3. 日本で利益相反をどう防ぐか

 今回、東京オリパラ組織委員会の理事会で、他の理事や監事は、元理事の活動に対して、どれくらい監督機能を果たしていたでしょうか。上記のような、元理事はオリンピックのために頑張ってくれている、国民のために尽力してくれている、元理事なら大丈夫などの過度な信頼から、十分な監督ができていなかったのではないでしょうか。

 また、スポンサーは、自らが元理事に支払った費用の行き先にどれくらいの関心を持っていたのでしょうか。元理事の言われるがまま対応していたのではないでしょうか。

 利益相反に関しては、法律の規定を参考に、役員会の承認があったらいいのではないか、双方が同意しているのであればいいのではないか、との意見もあります。しかしながら、グッドガバナンスの観点からは、利益相反に関して透明性や説明責任が求められます。そもそも利益相反行為を行った者の問題もありますが、それをチェックする仕組みが極めて重要になるでしょう。特に代理店ビジネスの場合は、スポーツ組織もスポンサーなどの取引事業者も、代理店ビジネスの利益相反に対して双方が主体的に監督することや、対外的に説明することが求められるでしょう。

 札幌オリンピック・パラリンピック招致も話題になっていますが、スポーツ界において、このような利益相反に対する透明性、説明責任を尽くさなければ、今後国民の十分な理解は得られないでしょう。

 これに関わる法曹の専門性や倫理観が強く求められますし、固定された法律事務所ではなく、関わる法曹の競争、よりレベルの高い専門的アドバイス、制度設計が求められるでしょう。

(2022年9月執筆)

執筆者

松本 泰介まつもと たいすけ

早稲田大学スポーツ科学学術院教授・博士、弁護士

略歴・経歴

専門分野はスポーツ法、スポーツガバナンスなど。

主な経歴は、日本プロ野球選手会監事、日本プロサッカー選手会執行理事、日本スポーツ仲裁機構スポーツ団体のガバナンスに関する協力者会議委員、早稲田大学競技スポーツセンター副所長、早稲田大学スポーツビジネス研究所(RISB)研究員など。

主な著作に、「スポーツビジネスロー」(大修館書店)、「代表選手選考とスポーツ仲裁」(大修館書店)、「標準テキスト・スポーツ法学」(エイデル研究所刊。編集委員)、「理事その他役職員のためのガバナンスガイドブック」(日本スポーツ仲裁機構刊。共著)、「トラブルのないスポーツ団体運営のために ガバナンスガイドブック」(日本スポーツ仲裁機構刊。共著)など。

その他経歴、肩書などは、https://wasedasportslaw.amebaownd.com/参照。

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