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一般2023年05月11日 日本のスポーツ関連法人のチェックアンドバランス ~スポーツ界の主権者は誰か 執筆者:松本泰介

 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会をめぐる収賄事件、談合事件は、東京地方検察庁特別捜査部から起訴され、有罪判決が出される事態になっています。ただ、これらの事件に限らず、日本のスポーツ関連法人では、数々の不祥事が発生してきました。今回は、このような日本のスポーツ関連法人の不祥事に関して、法人のチェックアンドバランスの観点から、検討させていただきます。

1. チェックアンドバランスを機能させる上での課題

 日本のスポーツ関連法人において、特に財団法人のチェックアンドバランスを機能させることを難しくしている1つの理由が、財団法人のチェックアンドバランスが「人」に依存していることです。

 本来、財団法人は、財産の維持、運用に関して執行者と監視者という二者の牽制関係によって適正な運営を目指すものですが、その牽制関係は、執行者や監視者になる「人」の能力に大きく依存してしまいます。株式会社などの営利法人の場合は、剰余金の分配が可能なため、その経済的利益を求める株主と取締役の間に、経済的な牽制関係が生まれますが、財団法人では、剰余金の分配などの経済関係はなく、このような牽制関係がありません。また、社団法人には法律上社員という構成員がいますが、財団法人には想定されておらず、構成員と法人の機関という関係の牽制関係もありません。となると、財団法人の理事監事間、あるいは評議員との間には「人」としての牽制関係しかありません

 なお、社団法人の社員も社団法人で自由に設定ができてしまうため、実質的な構成員と法人の機関の間に牽制関係がなく、チェックアンドバランスが機能していない場合もあります。

2. あるべきチェックアンドバランスに向けて ~スポーツ界の主権者は誰か

 このような課題がある中、今後、スポーツ関連法人のチェックアンドバランスを機能させるうえで、1つ検討すべき点は、スポーツ界の主権者が誰なのかということです。

 先ほど財団法人には構成員はいない、ということを述べましたが、日本のスポーツ関連法人では本当にそうでしょうか。社団法人は法律上の社員はいますが、実は社団法人の社員は社団法人で自由に設定ができてしまう中で、スポーツ界の主権者、実質的構成員は誰になるでしょうか。

 スポーツ関連法人が制定する規則・規程の影響をもっとも大きく受けるのは、スポーツ関連法人に登録する競技者になります。現代の民主主義の観点からすれば、国民に適用される法律の制定過程に、選挙などを通じて国民が関与するのは当たり前となっています。ですので、スポーツ界でも、このような規則・規程の制定過程において競技者を関与させる必要があるでしょう。また、現代のスポーツ関連法人の意思決定には法的正統性も求められます。

 したがって、競技者こそがスポーツ界の主権者、実質的構成員でしょう。このような実質的構成員から、民主的な手続きによってスポーツ関連法人の機関が選任される場合、理事や監事など法人の機関との間でチェックアンドバランスを機能させることができます。

 欧米の中央競技団体などでは、競技者が所属するクラブの代表者を選出し、その代表者が一定地域の代表者を選出しています。そして、一定地域の代表者が中央競技団体の代表者を選出するなど、中央競技団体において民主的意思決定手続きが担保されています。このような民主的意思決定手続きにより、中央競技団体のチェックアンドバランスを機能させています。日本のスポーツ関連法人でも導入を検討しなければならない視点です。

【参考文献】
奥島孝康「スポーツ団体の自立・自律とガバナンスをめぐる法的考え方」、日本スポーツ法学会年報第18号、2011年
川井圭司「スポーツ界におけるこれからの意思決定 : 国際的動向にみる「民主的」決定とグッドガバナンスの本質」、同志社政策科学研究22巻2号、27頁、2021年
川井圭司「東京オリパラ組織委員会会長交代劇にみるグッドガバナンスの本質」、2021年3月1日
公益法人制度改革に関する有識者会議第13回議事概要、平成 16 年6月2日
内閣府「公益法人の各機関の役割と責任」
日本スポーツ仲裁機構「ポスト2020におけるスポーツガバナンス 理事その他役職員のためのガバナンスハンドブック」、2019年
文部科学省 平成 23 年度 スポーツ政策調査研究(ガバナンスに関する調査研究)

(2023年4月執筆)

執筆者

松本 泰介まつもと たいすけ

早稲田大学スポーツ科学学術院教授・博士、弁護士

略歴・経歴

専門分野はスポーツ法、スポーツガバナンスなど。

主な経歴は、日本プロ野球選手会監事、日本プロサッカー選手会執行理事、日本スポーツ仲裁機構スポーツ団体のガバナンスに関する協力者会議委員、早稲田大学競技スポーツセンター副所長、早稲田大学スポーツビジネス研究所(RISB)研究員など。

主な著作に、「スポーツビジネスロー」(大修館書店)、「代表選手選考とスポーツ仲裁」(大修館書店)、「標準テキスト・スポーツ法学」(エイデル研究所刊。編集委員)、「理事その他役職員のためのガバナンスガイドブック」(日本スポーツ仲裁機構刊。共著)、「トラブルのないスポーツ団体運営のために ガバナンスガイドブック」(日本スポーツ仲裁機構刊。共著)など。

その他経歴、肩書などは、https://wasedasportslaw.amebaownd.com/参照。

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