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一般2023年09月15日 海外フットボールクラブの日本ツアー~来日興行チケット代をめぐる課題 執筆者:松本泰介

 今年の夏は、多くの海外フットボールクラブが来日しました。サッカーにあまり興味のない方でも、連日ニュースが流れていましたので、なんかたくさん来ているな、という印象は持たれたかもしれません。7月8月の試合だけでも、以下の試合 が行われました。

① 7/19 横浜F・マリノスvsセルティック(日産スタジアム)
② 7/22 ガンバ大阪vsセルティック(パナソニックスタジアム吹田)
③ 7/23 横浜F・マリノスvsマンチェスター・シティ(国立競技場)
④ 7/25 パリ・サンジェルマンvsアル・ナスル(ヤンマースタジアム長居)
⑤ 7/26 バイエルンvsマンチェスター・シティ(国立競技場)
⑥ 7/27 アル・ナスルvsインテル(ヤンマースタジアム長居)
⑦ 7/28 パリ・サンジェルマンvsセレッソ大阪(ヤンマースタジアム長居)
⑧ 7/29 バイエルンvs川崎フロンターレ(国立競技場)
⑨ 8/1  パリ・サンジェルマンvsインテル(国立競技場)

 2022年にはパリ・サンジェルマンが来日し、Jリーグの3クラブと対戦しましたが、3試合とも超満員で、新国立競技場で開催された試合では当時の最多入場者記録なども達成するなど大盛況でした。このような影響を受けてか、2023年は多くの海外フットボールクラブの来日興行が行われることになりました。
 ただ、超満員の試合があった一方で、あまりに近接した時期に多数の試合が行われることになったためお客さんが分散してしまったのか、空席の多い試合も目立ちました。今回の来日興行の観客動員数は以下のとおりです。

① 7/19 横浜F・マリノスvsセルティック(日産スタジアム) 20,263人
② 7/22 ガンバ大阪vsセルティック(パナソニックスタジアム吹田) 12,482人
③ 7/23 横浜F・マリノスvsマンチェスター・シティ(国立競技場) 61,618人
④ 7/25 パリ・サンジェルマンvsアル・ナスル(ヤンマースタジアム長居) 25,432人
⑤ 7/26 バイエルンvsマンチェスター・シティ(国立競技場) 65,049人
⑥ 7/27 アル・ナスルvsインテル(ヤンマースタジアム長居) 3,805人
⑦ 7/28 パリ・サンジェルマンvsセレッソ大阪(ヤンマースタジアム長居) 32,430人
⑧ 7/29 バイエルンvs川崎フロンターレ(国立競技場) 45,289人
⑨ 8/1  パリ・サンジェルマンvsインテル(国立競技場) 50,139人

(引用:FOOTBALL ZONE)

 今回、空席が目立った試合、特に④、⑦については、チケット代が高額だったことが指摘されていました。⑦の試合においては出場していたセレッソ大阪の香川真司選手が、「これだけのビッグクラブを相手にプレーできることは貴重。だからこそスタジアムが満員になってほしかった」、「子供たちにこういうサッカーを見せたいし、僕がここまで言う必要はないかもしれないけど、チケットの値段を考え直してほしい。サッカーが好きな子供たちの見やすい値段で設定してほしい。それはすごく残念だなと思います」などコメントするなど、大きな話題になっていました。
 今回の来日興行のチケット価格は、以下のとおりでした。

 高額チケットやホスピタリティボックスについては様々なメニューがついていますので単純比較はできませんが、最低価格を見ますと、パリ・サンジェルマン、アル・ナスル、インテルが出場していた試合は他に比べると倍から3倍程度の違いがあったことがわかります。また、特に集客が芳しくなかった②④⑥⑦の興行の会場はすべて大阪でした。関東圏と比べると、世帯収入、家計資産、富裕層の数など、商圏としては苦戦が予想される地域でしたので、このような商圏でのチケット価格としてはかなり高額で、空席が目立った理由になったかもしれません。
 ただ、確かに金額だけでいえば高いのですが、このような来日興行のチケット価格について、いくらが適正なのかは難しい判断です。世界的にメジャーなクラブ、選手が来日興行を行う場合の最低価格として1万円や2万円という価格設定をすること自体は、サッカーW杯のチケット価格などとの比較の観点からすればそれほど高いというわけでもないとも思われます。日本では、会場を満員にすることに特に重きが置かれますが、一方で、興行としての収益を最大化することとのバランスが悩ましいところだったりします。
 加えて悩ましい点は、これらの来日興行のチケット価格を定める主催者は別々なので(日本サッカー協会やJリーグが主催者としてクレジットされていることがありますが、実際金銭的リスクを負っている主催者は別ですので、それぞれの興行の主催者は別々になります)、チケット価格を揃えることは法的に難しい点が挙げられます。来日興行の実施を承認している日本サッカー協会やJリーグがチケット価格を指示することは独占禁止法違反になりますし、また、主催者同士でチケット価格を協議、統一することも独占禁止法違反のおそれがあるでしょう。

 今回は、海外フットボールクラブの来日興行に関して、来日興行チケット代をめぐる課題を整理してみました。なかなか単純な問題ではなく、今後も検討が必要な課題と思われます。

(2023年9月執筆)

執筆者

松本 泰介まつもと たいすけ

早稲田大学スポーツ科学学術院教授・博士、弁護士

略歴・経歴

専門分野はスポーツ法、スポーツガバナンスなど。

主な経歴は、日本プロ野球選手会監事、日本プロサッカー選手会執行理事、日本スポーツ仲裁機構スポーツ団体のガバナンスに関する協力者会議委員、早稲田大学競技スポーツセンター副所長、早稲田大学スポーツビジネス研究所(RISB)研究員など。

主な著作に、「スポーツビジネスロー」(大修館書店)、「代表選手選考とスポーツ仲裁」(大修館書店)、「標準テキスト・スポーツ法学」(エイデル研究所刊。編集委員)、「理事その他役職員のためのガバナンスガイドブック」(日本スポーツ仲裁機構刊。共著)、「トラブルのないスポーツ団体運営のために ガバナンスガイドブック」(日本スポーツ仲裁機構刊。共著)など。

その他経歴、肩書などは、https://wasedasportslaw.amebaownd.com/参照。

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