行政・財政2025年10月01日 行政財産の使用許可と住民訴訟 執筆者:髙松佑維

1.はじめに
国または地方公共団体所有の行政財産の使用許可の場面では、様々な法的紛争の類型があります。
今回の記事では、代表的なケースを確認しつつ、第三者等が主体となる場合の事例を取り上げ、財産の適正管理の視点についてあらためて確認したいと思います。
2.主体ごとの代表的な法的主張
行政財産の使用許可に関して、申請者側(使用希望者・使用者)が主体的に何かを争う場合は、「当初申請より使用不許可処分とされたため、その“不許可処分”を争う」、「許可期間満了後に更新(再度の許可)を求めたものの不許可とされたため、“更新(再度の許可)申請に対する不許可処分”を争う」、「使用許可処分に伴い決定された“使用料”の内容について争う」といったものが代表的です。
また、許可者側(行政)が主体的に何かを争う場合は、「使用許可期間満了等に伴い、“占有財産の明渡し”を求める」、「使用料の未払、期間満了後や更新申請に対する不許可後の期間における使用料相当損害金発生に伴い、“使用料や損害金の支払”を求める」といったものが代表的です。
3.第三者等が主体となって是正を求める場合
(1) 一方、以前の記事で「第三者が“使用許可処分の取消し”を求める」場面を紹介しましたが、他にも第三者等が“使用許可や行政の対応内容の不備”について次のような形でその是正を求める場合があります。
(2) 国有財産に関しては、会計検査院が各省庁等の事務処理に関する実地検査で不適切な事例を発見して指摘し、是正改善を求めるケースがあります。
例えば、ある機関で庁舎の一部分を他者に使用許可していたところ、当該他者に倉庫として使用させていた部分が使用許可範囲に含まれておらず、使用許可を行わないまま長期間使用させていた実態や使用料計算の際の消費税等相当額の算定誤りが会計検査で判明し、使用料の徴収漏れ等の是正を求めた事例がありました(平成24年度決算検査報告(55))。
法令上、国有財産の管理では適正かつ効率的な運用が明確に求められており(財政法第9条2項、国有財産法第9条の5)、不適切な使用料徴収は国民全体の財産の不適切な管理、ひいては国民の損失という問題につながります。
(3) 地方公共団体の行政財産の使用許可に関しては、第三者(住民)が財産管理や使用許可に関する不備等の存在を主張し、住民訴訟(地方自治法第242条の2第1項)という形式で問題提起がなされるケースがあります。
この場合、第三者(住民)が、行政の不適切な対応(例えば、使用許可の不備ないし懈怠)等に伴い行政(財産管理者・使用許可権者)には“財産使用者に対する損害賠償又は不当利得返還の請求権”が発生している旨を主張し、“行政に対してそれらの請求権の履行を求める”という内容の裁判が行われます(同項4号)。
(4) ある私有地の所有者(会社)がゴルフ場を運営していたところ、ゴルフ場の一部が隣接市有地(行政財産)に越境していたことが発覚したため、市が無断使用による賃料相当損害金の支払を会社に請求し、会社が被請求額を支払っていた事案において、住民らは住民訴訟の中で、市が算定して受領した金額は市が受けた損害に満たない安価なもの等と主張し、不足分等の請求を行うよう求めました。
裁判所は、ゴルフ場という使用形態の特徴、発覚後の徴収経緯、当該土地が行政財産のため法律上行政財産としての対価を得て第三者に使用させることができること、無断使用によってその利用可能性が妨げられたこと、関係条例及び規則の内容を踏まえ、住民らの主張を一部認め、使用料相当の損害賠償の請求を当該会社へ行うよう市に対して命じる判決を下しました(那覇地裁令和5年4月21日判決)。
(5) 他自治体からの災害派遣職員の後任者の職員が教職員住宅(自治体財産)へ入居する際、自治体(村)が入居許可や家賃及び敷金の免除に係る手続を執らず、当該職員が家賃及び敷金を支払うことなく居住を開始し、一定期間経過後に村が許可や免除の手続を執っていた事案で、住民は住民訴訟の中で、入居や賃料免除が違法等と主張し、村に生じた損失分の不当利得返還請求を行うよう求めました。
裁判所は、当該住宅を行政財産と認定した上で、当時の入居希望教職員の有無、災害からの復興の経過や状況、県幹部職員であった当該職員の招へい及びその際の住居確保の必要性、行政財産使用料条例の規定の該当性等の事情に照らし、一定期間経過後に行われた入居許可及び賃料免除に裁量権の逸脱濫用を認めなかった一方、一定時期まで条例又は地方自治法(第238条の4第7項:行政財産の使用許可)等に基づく入居許可等をした形跡が無く、条例等には入居許可等に係る手続の明確な定めがあり、当初の派遣職員の入居時に各手続を行っていたこと等から、入居から一定時期までの使用は適法な入居許可に基づかないものとして住民の主張を一部認め、不適法な入居期間に係る賃料相当額の不当利得返還の請求を当該職員へ行うよう村に対して命じる判決を下しました(熊本地裁令和7年3月19日判決)。
(6) 国や自治体が所有する行政財産は、国民や住民全体の財産という側面・性質を有することから、適正管理及び適正使用が求められています。
そのような前提の下で上記の各事例を見ると、許可の不存在や不合理に低い金額徴収等も含め、行政が適正管理や適切な使用許可を行わなかった場合は、最終的に国民・住民の損失につながり得るという視点が見えてきます。
このような“国民や住民全体の財産の使用(使用料)として適切なのか”、“不適切管理は国民・住民の損失につながり得る”という視点は、使用許可事案の検討において非常に大切であり、事案を正しく検討するため常に意識しておくべきものといえるでしょう。
(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)
(2025年9月執筆)
人気記事
人気商品
執筆者

髙松 佑維たかまつ ゆうい
弁護士
略歴・経歴
早稲田大学高等学院 卒業
早稲田大学法学部 卒業
国土交通省 入省
司法試験予備試験 合格
司法試験 合格
弁護士登録(東京弁護士会)
惺和法律事務所
大学卒業後、約7年半、国土交通省の航空局に勤務。
国土交通省本省やパイロット養成機関の航空大学校などに配属され、予算要求・予算執行・国有財産業務などに従事。
執筆者の記事
-
-
団体向け研修会開催を
ご検討の方へ弁護士会、税理士会、法人会ほか団体の研修会をご検討の際は、是非、新日本法規にご相談ください。講師をはじめ、事業に合わせて最適な研修会を企画・提案いたします。
研修会開催支援サービス -