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行政・財政2023年05月24日 国有財産の使用許可制度 7 (第三者が許可処分を争った場合の具体例) 執筆者:髙松佑維

1.はじめに

国有財産法以外の特別な定めの例、許可に関する第三者との関係、その際の原告適格の判断基準等について取り上げた前回の記事に続いて、今回は第三者が許可処分を争った具体例を紹介します。
2.第三者が許可を争った裁判例(国有財産法上の使用許可処分の事例)
(1) ゴルフ場やホテル等のリゾート施設建設を目的とした国有林に関する使用許可処分(当時の同法第18条第3項(現在の同条6項))について、周辺住民が処分取消しを求めた事案(宮崎地裁平成6年5月30日判決)で、周辺住民の原告適格は認められませんでした。
原告らは、本件許可処分は保安林の指定解除と同様の結果をもたらし、居住地と国有林との位置関係から直接の利害関係を有する原告らには法律上保護された利益がある旨を主張しました。
しかし、裁判所は、対象国有林は行政財産の中の「公共用財産」ではなく「企業用財産(当時の条文)」と認定し、国が営む事業用財産としての企業用財産の性質や許可の根拠法令(国有財産法)等の趣旨・目的を検討し、保安林指定解除に関する利益侵害は保安林指定解除処分等を対象にその処分の適否を争えば足りると判断し、原告らには本件許可処分の取消しを求める法律上の利益がないとしました。
(2) このように、原告適格の検討では、被侵害利益等の検討の前提として、許可対象財産の種類・性質、他の処分との関係といった事情も、重要な考慮事情の一つになると考えられます。
3.第三者が許可を争った裁判例(特別な定めに基づく使用収益の許可処分の事例)
(1) 道路法上の占用許可(同法第32条)について争われた事例では、例えば、以下のようなものがあります。
道路沿いの不動産を所有し賃貸していた原告が、地下鉄駅のエレベーター施設設置目的の道路占用許可の無効確認等を求めた事案(東京地裁平成28年6月30日判決)では、原告の原告適格は認められませんでした。
原告は、本件許可によって、視認性及び眺望の阻害等のため所有建物の価値下落や営業上重大な損害等が生じており、許可の根拠法令等は周辺住民の自由で安全な交通、周辺住民所有不動産の財産的価値等が害されない利益を保護する趣旨をも含んでいる等と主張しました。
しかし、裁判所は、道路の本来的機能である公衆の自由な通行の利益は一般的公益的性質を有しており、道路占用許可の各規定には周辺住民の所有建物の視認性や営業上の利益、土地建物自体の経済的価値を維持する利益等に関する定めはなく、各規定がこれらの利益を個別的利益として保護しているとは解されないほか、本件許可による道路通行阻害の不利益も認められない等とし、上記判断を行いました。
(2) 同様に、交差点付近のゴミボックス設置目的の道路占用許可処分について、隣接住民が処分取消しを求めた事案(津地裁平成28年12月8日判決)でも、原告の原告適格は認められませんでした。
原告は、本件ゴミボックス設置によって交通上の危険にさらされ、安全な交通環境等で生活する利益が侵害され、自宅敷地利用制限や土地の市場価値下落の財産権侵害もあると主張しました。
しかし、裁判所は、道路の安全円滑利用が道路利用者の共通利益であることや許可手続規定の内容等から、原告主張の利益等はあくまで反射的に実現されるもので個別具体的な利益として保護されているとは解されないとしました。
(3) 一方で、高速道路高架下施設整備目的の道路占用許可処分について、周辺住民らが取消し等を求めた事案(東京地裁令和元年5月30日判決)では、一部の周辺住民の原告適格が認められました。
まず裁判所は、道路法等の各規定を詳細に検討し、高架道路の構造強度や安全性、保全のための占用場所基準、災害発生時の道路占用禁止・制限、特定高架道路下の建築基準等の内容や、許可処分を通して保護しようとしている利益内容・性質等に鑑み、上記規定は、高架道路の倒壊や炎上等による被害が直接的に及ぶことが想定される範囲の居住住民の生命や身体の安全を具体的利益としても保護すべきとして、違法な許可処分等によって上記被害を受けるおそれのある住民に対し、上記被害を免れる利益を個別的利益としても保護すべきとする趣旨を含んでいるとしました。
その上で、高架橋の高さや居住位置を踏まえ、高架橋が倒壊し又は炎上した場合に生命、身体に係る直接的な被害を受ける蓋然性がある地域内に居住すると判断した一部の原告らに原告適格を認め、その他の原告らには認めない判断をしました。
(4) このように、同じ根拠法令に基づく許可でも事案によって、同じ許可事案でも個別事情によって、異なる判断がされています。
各事例を見ると、対象財産内容(構造や実際の状況、位置関係等はどのようなものか)、原告らに影響が及ぶ権利・利益の内容(生命・身体か、財産的なものか)等によって、同じ根拠法令や事案の中でも、着目検討される条項及び内容が変わってくると考えられます。
そのため、被侵害利益や根拠法令との関係等の事前検討の際は、予め上記視点を念頭に置くことも大切になるでしょう。
(2023年5月執筆)

執筆者

髙松 佑維たかまつ ゆうい

弁護士

略歴・経歴

早稲田大学高等学院 卒業
早稲田大学法学部 卒業
国土交通省 入省
司法試験予備試験 合格
司法試験 合格
弁護士登録(東京弁護士会)
惺和法律事務所

大学卒業後、約7年半、国土交通省の航空局に勤務。
国土交通省本省やパイロット養成機関の航空大学校などに配属され、予算要求・予算執行・国有財産業務などに従事。

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