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行政・財政2024年10月17日 普通財産の貸付制度 3 執筆者:髙松佑維

1.はじめに

前回の記事では、行政財産の使用許可制度と普通財産の貸付制度における法的性質の違い(前者は許可形式を採用した行政処分、後者は私法上の契約(有償貸付ならば賃貸借契約、借地借家法等の適用もあり得る))等を主に紹介しました。
 両制度の違いは様々な側面で異なる結論を導き出すことになり、特に期間満了後の使用継続の場面における借地借家法等の適用(法定更新等の適用)の影響は大きく、どちらであるかは結果を左右する重要な事柄です。
 両制度のどちらなのかが明確な事案では上記性質に沿った検討だけで済みますが、事案(特に古くから続く事案等)によっては、その形式・形態から問題になる(争われる)場合もあり、注意が必要です。

2.これまでの経緯の重要性

(1)検討の前提(行政財産と普通財産)

そもそも、両制度はそれぞれ異なる種類の財産を対象とした制度であるため、形式部分が争われる場合、対象財産の分類から着目する必要があります。
 行政財産(国の行政目的等のため使用される財産)以外の一切の国有財産が普通財産であり(国有財産法第3条)、各省各庁は分類・種類に従って国有財産台帳を作成し、財産が変動する都度、記録しなければなりません(同法第32条)。
 また、地方自治体の財産も、「普通地方公共団体において公用又は公共用に供し、又は供することと決定した財産」が行政財産で、「行政財産以外の一切の公有財産」が普通財産とされ(地方自治法第238条4項)、分類、使用許可、貸付についても同様の内容が同法で定められ(第238条、第238条の4、第238条の5)、各自治体はそれぞれ財産の適正管理等のために財産台帳を備えています。
 そのため、検討の際は上記内容をまず念頭に置いておかなければなりません。

(2)両制度のどちらにあたるかが争われた一例

大阪高裁令和4年5月19日判決の事案では、 財産所有者(自治体)が行政財産(土地)の使用許可が終了したとして所有権に基づき建物収去土地明渡し等を求めたのに対し、明渡し等を求められた財産(土地)使用者側が対象財産は普通財産であるとして、過去に設定された借地権等を主張して争いました。
 この事案で使用者側からは、普通財産性の根拠として、対象財産のこれまでの管理状況だけでなく、財産台帳や関連する財産表における対象財産の記載内容(過去の一時期において普通財産欄に対象財産の記載があること)や、過去に自治体が旧建物所有主体との間に対象財産の借地契約を交わしていたこと等の事情が主張されました。
 一方、所有者側からは、対象財産は取得当初から行政財産であって、使用許可終了によって使用者側の占有権原は無くなった等の主張がされました。
 裁判所は判断に際して、関連台帳の記載内容との整合性や財産表の性質、当時の地方自治法の改正状況(改正により行政財産への私権設定排除やそれに反する行為の無効が定められ、改正法施行の際現に使用させている行政財産については許可により使用させているものとみなされたこと)、当時の国有財産の使用収益に関する取扱いの状況(当時の国有財産法上、現在とは異なり、行政財産を私人に使用収益させる場合に、私法契約の形式によることも、行政処分の形式によることも可能とされていたこと)等も詳細に分析した上で、対象財産の取得経緯や位置関係、旧建物所有主体の借地権に関して更新や譲渡合意等がされた事情が認められないこと、法改正より後の一定時期から長期間に渡り使用許可の手続きが双方の間でほぼ継続されていた経緯等にも着目しました。
 そして地方自治法第238条4項を示し、本件土地の行政財産該当性を判断するに当たっては、本件土地が同項の決定に係る財産であるか否かを考慮すべきとした上で、「本件土地は、元来公用に供することを決定した行政財産として取得され、…双方において、行政財産であると認識された上で維持管理がされてきたものと認められ…黙示的に本件土地の公用を廃止したとは認められず、かえって被控訴人は本件土地を行政財産として管理することを明らかにしていたと認められることに照らせば、…本件土地の昭和6年8月以降の利用状況及び管理状況等の実態を考慮しても、本件土地の行政財産性が失われたということはできない。」として対象財産が普通財産であると認めることはできないと判断し、明渡し請求を認容しました。

(3)事案検討にあたって

上記はあくまで一事例ですが、裁判所の検討内容を見ると、使用者と財産所有者との間でこれまで取り交わされた内容に限らず、対象財産の取得目的、その後の財産の管理態様や利用状況、台帳等の記録管理も含めた行政内部の取扱い状況、使用開始経緯や途中経過といった点等も検討材料になり得ること、すなわち「当該財産を取り巻くこれまでの経緯・経過」が大変重要な要素になり得ることがわかります。
 そのため、事案によっては結論に大きな影響を与えることから、適切な見通しを立てるにあたり上記要素の詳細な分析をする必要が生じます。
 特に、土地の財産使用の場面では長期使用も珍しくなく、近年使用開始の案件は別として、古くから続いてきたものについては、途中の法改正の影響や当初の目的、途中経過、これまでの双方の対応状況(認識)といった点等も考慮しなければなりません。
 土地の明渡しの事案では使用者側・所有者側のどちらにとっても、結果によって大きな負担等を伴うことが多いため、事案検討の際に上記の点も念頭に置いておくと良いでしょう。

(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)

(2024年10月執筆)

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