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行政・財政2022年10月28日 国有財産の使用許可制度 5 (補償について) 執筆者:髙松佑維

1.はじめに
前回記事の最後で、許可終了に伴い発生する事項の一つとして、補償(自らに原因の無いまま期間途中に許可を取り消された場合等に生じた損失)に関する問題を挙げ、国有財産法上の規定(第19条によって準用される第24条)や判例(最高裁第三小法廷昭和49年2月5日判決)の考え(その損失を受忍すべきときは、その損失は同法第24条のいう補償を必要とする損失には当たらない)を紹介しました。
今回は続けて補償に関する場面を取り上げます。なお、紹介する各裁判例は自治体の許可に関するものですが、国有財産の場合にも参考になると考えられます。
2.期間の定めのない許可の途中で許可が取り消された場合
(1)使用権の喪失部分
上記判例では、行政財産の用途又は目的を妨げない限度で認められるという使用許可の本質から、期間の定めのない使用許可の場合、使用権は「行政財産本来の用途または目的上の必要を生じたとき」は原則消滅すべきとされ、その例外は「使用権者がなお当該使用権を保有する実質的理由を有すると認めるに足りる特別の事情が存する場合」に限られるとされました。
そして、許可に際して対価を支払ったもののその対価を償却するに足りない期間内に取消されているとか、許可に際して別段の定めがされているといったものを挙げ、上記例外の場合にあたらない限り、使用権者は許可取消しによる使用権喪失を受忍すべきであり、使用権喪失部分に関する損失について補償は必要とされない旨が示されました。
このように、期間の定めのない許可だったとしても、行政財産本来の用途目的のために取消されたときは、使用権を失うこと自体(使用権の価値そのもの)の損失を補償請求することは原則できないと考えられます。
(2)使用権喪失以外の損失について
実質的に期間の定めのない許可を受けて市場の土地等を使用収益していた使用者が実質的な許可取消しを受けたため、損失について許可者に対して補償請求した事案(東京高裁昭和50年7月14日判決)において、裁判所は上記判例と同様の理由で、使用権の価値そのものに対する補償請求を認めませんでした。
一方、各物件について継続使用を予定しており、使用者の帰責事由を理由に許可が取消されたわけではないことから、国有財産法上の使用許可取消の損失補償規定を類推適用し、補償をすべき損失の対象・範囲は、使用権の性質と取消理由の相関関係から合理的に解釈すべきとした上で、使用権の価値そのもの以外の損失、たとえば、建物・工作物の移転費、営業損失、整地費等について損失を受けているときには、補償を求めることができるとしました。
そして、内容ごとに個別具体的検討を行い、投下した対価を償却するに足りない期間内に返還や移転を求められた建物や営業所移転・営業上の支障による営業利益低下に関する補償を一部認めました。
このように、使用権の価値そのもの以外の損失が出ている場合は、取消しの事由や経緯、対象物件の状況や取得経緯等の諸事情を踏まえ、対象物件ごとに個別具体的な検討が行われ、補償請求を認めるべきかどうか判断されると考えられます。
3.期間満了後の更新が認められず使用許可が終了した場合
期間途中取消しではなく、期間満了後の不更新のような場合、期間途中取消し類似の場面として補償請求ができるのでしょうか。
長年にわたり公園施設において許可を受けて売店・食堂を経営していた使用者が、許可更新を求めたものの不許可となったため、許可者に対して損失の補償を求めた事案(大阪地裁平成27年5月29日判決)では、繰り返し更新されていた許可の不更新が期間の定めのない許可の取消しと同視できるか等が争われましたが、長年にわたる売店等の経営実態を見れば長期的には利益を上げており、許可が目的に比して不相当に短期とはいえず、不許可の経緯等の諸事情に照らすと許可の撤回とは同視できないとして、補償請求を認めませんでした。
上記事案では、売店の管理又は売店・食堂の管理という許可目的を踏まえた上で、これまでの利益状況や利益剰余金の額、施設工事や什器備品の購入時期、支出額等の他に、不更新とされる前の許可の際の経緯や説明状況といった具体的な事情を考慮して、上記判断が行われています。
このように、期間途中取消し以外の場面では、期間途中取消しと同視できるかが検討され、許可目的を前提に投下資本を回収できているのかといった観点や経緯等も踏まえ、個別具体的検討が行われると考えられます。
4.まとめ
補償請求の場面では、使用許可のもともとの条件(期間の定めの有無、目的等)、取消し(場面によっては不更新)の際の事由や経緯・説明状況、許可期間中の使用収益状況や実態、関連物件の取得状況・経緯といった諸事情をもとにして、事案ごと、個別の項目ごとに検討及び判断がなされています。
検討の際には、用途又は目的を妨げない限度で認められる使用許可の本質や上記諸要素を念頭に置きつつ、負担の公平な分担の視点を忘れないことも大切と言えるでしょう。
(2022年10月執筆)

執筆者

髙松 佑維たかまつ ゆうい

弁護士

略歴・経歴

早稲田大学高等学院 卒業
早稲田大学法学部 卒業
国土交通省 入省
司法試験予備試験 合格
司法試験 合格
弁護士登録(東京弁護士会)
惺和法律事務所

大学卒業後、約7年半、国土交通省の航空局に勤務。
国土交通省本省やパイロット養成機関の航空大学校などに配属され、予算要求・予算執行・国有財産業務などに従事。

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