社会保険2023年09月20日 健康保険の被扶養者から外された場合に取り得る法的手段 執筆者:髙松佑維
1.被扶養者認定による影響及び問題が顕在化する場面
(1) 健康保険加入者(被保険者)は、その親族等が一定の条件を満たして保険者より被保険者の被扶養者(健康保険法第3条7項)と認定されると、その親族等が病気等で治療を受けたとき等に、保険給付を受けることができます。
国民皆保険制度の日本では、被扶養者から外れた場合(被扶養者に該当しないとされた場合)、その親族等は他の公的医療保険(国民健康保険等)に自ら被保険者として加入し、そこから保険給付を受けなければならず、保険料納付も発生します。
国民皆保険制度の日本では、被扶養者から外れた場合(被扶養者に該当しないとされた場合)、その親族等は他の公的医療保険(国民健康保険等)に自ら被保険者として加入し、そこから保険給付を受けなければならず、保険料納付も発生します。
(2) 保険者は被扶養者認定後も定期的に状況等の確認をし、事業主を介して確認のために必要な書類の提出等を被保険者へ求めることができます(同法施行規則第50条)。被保険者が自ら届出する場合(同第38条2項)以外では、保険者がこの定期確認の際、条件を満たさず被扶養者に該当しないと判断する場合が多いでしょう。
その際、保険者が判断した内容によっては、遡って被扶養者から外されて資格喪失となる場合もあります。そうなると、資格喪失時点より後に発生した保険給付について被保険者は保険者から返還請求を受け、外された親族等は別の公的医療保険へ加入して遡って保険料を納付し、新たに加入した別の保険者に対して保険給付を請求し直さなければなりません。
このように、被扶養者に該当しないと判断される場面では、被保険者やその親族等の実際の生活に大きな影響が出る場合が多いと思われます。
その際、保険者が判断した内容によっては、遡って被扶養者から外されて資格喪失となる場合もあります。そうなると、資格喪失時点より後に発生した保険給付について被保険者は保険者から返還請求を受け、外された親族等は別の公的医療保険へ加入して遡って保険料を納付し、新たに加入した別の保険者に対して保険給付を請求し直さなければなりません。
このように、被扶養者に該当しないと判断される場面では、被保険者やその親族等の実際の生活に大きな影響が出る場合が多いと思われます。
2.最高裁判決が出る前の状況
(1) 上記のような判断をされたことに対して不服がある場合、被保険者はどのような手段を取ることが考えられるでしょうか。
昨年末、最高裁判所第三小法廷令和4年12月13日判決が出る前までは、次のような状況でした。
昨年末、最高裁判所第三小法廷令和4年12月13日判決が出る前までは、次のような状況でした。
(2) まず、保険者に対して追加資料提出等をして任意または組合内規程等に基づく再考を求めたとしても、従前の説明・資料不足や明らかな判断誤りの場合等を除き、一度下した判断を覆させることは容易でなかったと思われます。
(3) 次に、行政上の不服申立て(審査請求)ですが、各法令に特別規程があればその定めに基づくことになります。
同法第189条~192条に社会保険審査官への審査請求等の定めがあるものの、当該条文に被扶養者の認定に類する文言は無く、実務上、第189条1項(被保険者の資格等に関する処分)の審査請求対象に被扶養者の認定に関するものは含まれないとされていました。
実際、質問応答集では明示的に対象外の表記がされ、同内容の表記をする健康保険組合のホームページも複数存在し、社会保険審査官等は審査請求等を却下していたため、この手段で解決を図ることは難しい状況でした。
また、行政不服審査法に基づく一般の審査請求を検討するにしても、被扶養者に該当しない旨の通知は同法上の処分(同法第1条2項) に該当しないと争われる可能性があったほか、上級行政庁がない場合は判断主体が変わらない(同法第4条)という悩みもありました。
同法第189条~192条に社会保険審査官への審査請求等の定めがあるものの、当該条文に被扶養者の認定に類する文言は無く、実務上、第189条1項(被保険者の資格等に関する処分)の審査請求対象に被扶養者の認定に関するものは含まれないとされていました。
実際、質問応答集では明示的に対象外の表記がされ、同内容の表記をする健康保険組合のホームページも複数存在し、社会保険審査官等は審査請求等を却下していたため、この手段で解決を図ることは難しい状況でした。
また、行政不服審査法に基づく一般の審査請求を検討するにしても、被扶養者に該当しない旨の通知は同法上の処分(同法第1条2項) に該当しないと争われる可能性があったほか、上級行政庁がない場合は判断主体が変わらない(同法第4条)という悩みもありました。
(4) 裁判所で争う方法(処分の取消しの訴え(行政事件訴訟法第3条2項)等)でも、被扶養者に該当しない旨の通知が抗告訴訟対象の処分にあたるか(処分性が認められるか)が同じく争点とされる可能性があり、費用や時間面での負担が大きいことも最初の手段に訴訟を選択する場合にネックとなりました。
3.最高裁判決が出たことによる影響と注意点
(1) そのような中、上記判決において最高裁は、被保険者が被扶養者を有するかどうかについて健康保険組合が認定判断をしてその結果を被保険者に通知することは処分に該当するとして、通知の処分性を認める判断を下しました。
これにより、処分性に関する問題に対する懸念は払拭されました。
また、健康保険組合が被保険者に対して行うその親族等が被扶養者に該当しない旨の通知は、健康保険法第189条1項所定の被保険者の資格に関する処分に該当するとして、被扶養者に該当しない旨の通知に対して被保険者は同項の審査請求ができる旨を示しました。
これにより、これまでは却下されていた手段を用い、専門機関へ迅速な判断を仰ぐことができるようになりました。
これにより、処分性に関する問題に対する懸念は払拭されました。
また、健康保険組合が被保険者に対して行うその親族等が被扶養者に該当しない旨の通知は、健康保険法第189条1項所定の被保険者の資格に関する処分に該当するとして、被扶養者に該当しない旨の通知に対して被保険者は同項の審査請求ができる旨を示しました。
これにより、これまでは却下されていた手段を用い、専門機関へ迅速な判断を仰ぐことができるようになりました。
(2) もっとも、同項の審査請求対象と判断されたことにより、同時に不服申立前置適用対象 処分であることが明確になりました(同法第192条)。すなわち、最初から裁判所へ処分取消しを訴えることはできない点に注意が必要です。
合わせて、審査請求期間にも気をつけなければなりません(社会保険審査官及び社会保険審査会法第4条:処分があったことを知った日の翌日から起算して三月)。上記判決ではこの期間の徒過が原因となり、取消訴訟自体が不適法却下とされました。
合わせて、審査請求期間にも気をつけなければなりません(社会保険審査官及び社会保険審査会法第4条:処分があったことを知った日の翌日から起算して三月)。上記判決ではこの期間の徒過が原因となり、取消訴訟自体が不適法却下とされました。
(3) 今後、被扶養者に該当しない旨の通知に不服がある場合、最初の手段として、法定期間内に速やかに上記の審査請求を行う必要があります。
通知の際、保険者より適切な教示があれば良いのですが、現時点ではまだ、審査請求対象外の表示が残ったままの健康保険組合のホームページもあるような状況です。
上記判決の内容等が早く保険者・被保険者双方に浸透し、上記審査請求に関する適切な認識や活用が今後なされていくと望ましいでしょう。
通知の際、保険者より適切な教示があれば良いのですが、現時点ではまだ、審査請求対象外の表示が残ったままの健康保険組合のホームページもあるような状況です。
上記判決の内容等が早く保険者・被保険者双方に浸透し、上記審査請求に関する適切な認識や活用が今後なされていくと望ましいでしょう。
(2023年9月執筆)
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執筆者
髙松 佑維たかまつ ゆうい
弁護士
略歴・経歴
早稲田大学高等学院 卒業
早稲田大学法学部 卒業
国土交通省 入省
司法試験予備試験 合格
司法試験 合格
弁護士登録(東京弁護士会)
惺和法律事務所
大学卒業後、約7年半、国土交通省の航空局に勤務。
国土交通省本省やパイロット養成機関の航空大学校などに配属され、予算要求・予算執行・国有財産業務などに従事。
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