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民事2020年12月14日 派遣会社の使用者責任 執筆者:政岡史郎

1.皆さんご存知の通り、労働者の中で「非正規雇用」の割合は増加し、派遣労働者は、全労働者の約2.4%、全国で135万人ほど存在します(総務省統計局:令和2年10月の調査結果による)。
  この派遣労働者は、「派遣会社(派遣元)」と雇用契約を締結しつつも、その就労先(労務提供先)は、派遣会社と労働者派遣契約を締結している「派遣先」の事業所となります。
2.では、派遣労働者が就労中に不法行為で第三者に損害を与えた場合、被害者は誰に責任を追及(損害賠償を請求)することになるのでしょうか。
  上記の例でいえば、まず、被害にあった第三者のXは、直接の当事者である派遣労働者のAに対して損害賠償を請求できます(民法709条)。そして、派遣会社C(派遣元)も派遣先B社も、自らの行為でXに損害を与えたわけではないので、「自己責任」の原則からすると、本来、損害賠償の責任はありません。
  しかし、損害賠償する経済力が派遣労働者Aに無い場合はどうでしょうか。「自己責任」の原則だけでは、被害者Xは「泣き寝入り」をするしかなくなって気の毒です。
  このような場合を想定して、民法は「使用者責任」という規程を設け、被害者は、労働者の使用主等に対して損害賠償を請求できることになっています(民法第715条)。
  この民法715条1項本文では、「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」とされています。
  私が実際に委任を受けたケースは、派遣労働者Aが派遣先B社の工場で就労していたところ、誤って同僚(派遣先B社の従業員X)に怪我をさせてしまったというものでした。
  そして、被害者Xは、派遣労働者Aに対する損賠賠償請求はもちろん、派遣労働者Aの雇用主である派遣会社C(派遣元)に対しては「使用者責任」を主張し、損害賠償請求をしてきました。
  この場合、確かに「雇用関係」(使用者・被用者という関係)は派遣労働者Aと派遣会社C(派遣元)にあります。
  しかし、使用者責任を認めた民法715条の制定趣旨は、「報償責任」といって、「他人を利用して事業を行なって多大な利益を得ているのであれば、その他人が事業活動で生じさせた危険(損害)について責任を負うのが公平」という考え方に在ります。
  被害者のXからすれば、「派遣労働者Aが派遣先のB社で就労することで、派遣会社C(派遣元)が利益を得ている(派遣先のB社から派遣料を受領している)」と見えるでしょうから、派遣会社C(派遣元)に責任を取らせたいと考えるのも気持ちは分かります。
  ただ、精密に見ていくと、派遣労働者Aが工場内の作業という労務を提供する宛先は派遣先のB社であって、派遣会社C(派遣元)ではありません。そして、Aの工場内作業は派遣先B社の事業であり、派遣会社C(派遣元)の事業ではありません。
  そして、現実的に見て、工場内の作業に当たって指揮命令権限(や安全に配慮しうる立場、配慮すべき立場)を有するのは派遣先のB社です。工場はB社の支配領域にあり、派遣会社C(派遣元)には、その工場内で労働者に指揮命令を発することは出来ず、また、安全に配慮した方策を検討・実施することも出来ません。つまり、派遣会社のC(派遣元)にとっては「手も足も出せない」領域です。
  したがって、このケースの場合、工場での製造という「事業」のために派遣労働者Aを使用する(指揮命令権限を有する)のは派遣先のB社であり、派遣労働者Aが派遣先B社の事業(工場での製造)の執行について同僚Xに加えた損害は、当該使用者(指揮命令権限を有する者)である派遣先のB社が負うことになります(事例は異なりますが、東京地裁判決平成29年12月21日の事件でも、指揮命令関係の不存在を理由に派遣会社の使用者責任を否定しています)。
3.なお、派遣先のB社がXに損害賠償をした後の処理(派遣先B社と派遣元Cの金銭負担の工夫)や、派遣労働者Aが派遣先B社に対して損害を与えた場合の使用者責任の考え方については、別の機会にご紹介してみたいと思います。
(2020年12月執筆)

執筆者

政岡 史郎まさおか しろう

弁護士

略歴・経歴

  H7  早稲田大学卒業、都内某不動産会社入社
  H13 同社退社
  H17 司法試験合格
  H19 弁護士登録・虎ノ門総合法律事務所入所
  H25 エータ法律事務所パートナー弁護士就任

「ある日、突然詐欺にあったら、どうする・どうなる」(明日香出版社 共著)
「内容証明の文例全集」(自由国民社 共著)
「労働審判・示談・あっせん・調停・訴訟の手続きがわかる」(自由国民社 共著)
「自己破産・個人再生のことならこの一冊」(自由国民社 校閲協力)

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