都市・土地2023年04月19日 所有者不明の不動産に関する対策(民法改正等)について 執筆者:政岡史郎
弁護士をしていると、管理や処分に困っている不動産の相談を年に数件は受けます。
「田舎に不要な山林や田畑があるが、祖父母時代からの長年の相続を経て誰も管理していない、誰が正当な所有者かも分からない」
「隣家が空き家になって久しく、放置されている樹木が越境してきて困る。空き家の屋根は朽ち、台風の際の被害や火災、不審者のいたずらなどが心配」
「自宅前の私道を掘削したいが、数十年前の分譲業者の共有持分が入っており、その業者は既に存在せず、承諾書が貰えず困っている」
「遠い親戚と別荘地を共有しているが音信不通で、その管理や処分が出来なくて困っている」
といった相談です。
これらは、いずれも所有者が不存在・不明であったり、所有者は分かるが所在が不明であったりというケースで、従前の法制度では解決がなかなか簡単ではなく、塩漬けになってしまうこともありました。
しかし、令和5年4月から施行される民法(一部改正)で、トラブル解決のメニューが少し増えることになりましたので、幾つか紹介したいと思います。
例えば、隣家の庭木が自然災害や管理不十分で自宅敷地に侵入してきた場合、従来は、隣人に枝の切除を要求することは出来ても、自ら枝を切り落とすことは出来ませんでした。
裁判を起こすことは理屈上可能ですが、費用や期間の点で非現実的です。
そこで、このような軽微なトラブルを迅速に解決できるようにするため、改正民法233条では、①所有者に催促しても枝の切除をしない場合、②所有者がそもそも不明(または所在不明)の場合には、越境されている方が自ら枝を切り落とすことが可能となりました(なお、上記以外でも、例えば台風による竹木の倒壊で自宅の被害が刻一刻と深刻化していくような状況の場合、断りなく枝を切り落とせるようになっています)。
では、竹木のような動産ではなく、土地・建物という高価な不動産の場合はどうでしょうか。
この場合、所有者が不明(または所在不明)の場合には、従来、「不在者財産管理人」(民法25条)を裁判所に選任してもらい、その管理人に不在者の財産全ての管理を委ね、その中で、トラブルになっている不動産について協議等をして解決していく方法はありました。
ただ、この制度は、不在者の全財産の管理を委ねる制度で小回りが利きづらいこと、また管理人の権限の主眼が「管理」(修繕等の維持管理や改良程度)にあって、筆者の実務経験的に、その不動産の「処分」(売却や他人のための権利設定)は権限外にあるとして認められない傾向にあります。
そこで、改正民法で、「所有者不明土地管理命令」の制度が設けられ(民法264条の2等)、利害関係人は、所有者が不明(または所在不明)の場合に裁判所に管理人を選任してもらうことが出来ます。
この管理人は、「不在者財産管理人」とは異なって、該当する不動産をピンポイントにした管理人で、しかも、「管理」だけではなく、その不動産の「処分」(つまり売却とか)も権限の範囲内となっています。そこで、所有者が不明で荒れ果てている不動産、共有者の一部が不明で掘削承諾を貰えないような場合に、この管理命令を申し立てて、トラブルの解決に繋げることが出来ます。
なお、不動産を共有している一部の人間が不明(または所在不明)の場合には、別途、共有物に特有の問題に関する条項の追加があります。例えば、共有物の管理について、裁判手続は必要なものの、所在不明者(や管理について何も意向を明らかにしない者)を除いた共有者の過半数の意思決定で管理が出来るようになりました(民法252条2項)。
また、不動産の共有の場合、「共有物分割」といって、例えば一部の共有者が全共有持分を取得して単独で使いたいとか、共有不動産を売却してお金を分配したいという紛争が良く見られます。これについても、裁判手続は必要ですが、所在等不明共有者の持分を他の共有者が適正価格で取得できたり(民法262条の2)、所在等不明共有者の持分も含めて不動産全体を売却出来たりするようになりました(民法262条の3)。
なお、高齢化社会の進展が原因なのか、所有者は明確(所在も明確)であるものの、何らかの理由(認知機能低下、障害等)で適切な管理が出来ていないケースも見受けられます(いわゆるゴミ屋敷等)。このような場合は、「管理不全不動産の管理命令」を裁判所に出して貰うと、管理人には、該当する不動産の管理を行なう権限だけではなく処分の権限まで付与されますので、第三者による適切な管理の途が開かれました。ちなみに、この制度では、所有権など法律に根拠がある明確な権利だけではなく、「法律上保護される利益」(漠然としていますが、例えば、平穏な住環境で生活する権利・利益、などでしょう)が侵害される恐れがある場合に、隣人などが管理命令を申し立てられるようになっています。
以上でご説明したものは、今後の実務運用の中でノウハウが蓄積されていくものと思います。私自身、丁度、所有者不明不動産(私有墓地、別荘地、リゾートマンション)のトラブル解決のご依頼を頂いたので、これらが実務でどのように解決出来たのか(もしくは出来なかったのか)、いつかご紹介する予定です。
(2023年3月執筆)
人気記事
人気商品
執筆者
政岡 史郎まさおか しろう
弁護士
略歴・経歴
H7 早稲田大学卒業、都内某不動産会社入社
H13 同社退社
H17 司法試験合格
H19 弁護士登録・虎ノ門総合法律事務所入所
H25 エータ法律事務所パートナー弁護士就任
「ある日、突然詐欺にあったら、どうする・どうなる」(明日香出版社 共著)
「内容証明の文例全集」(自由国民社 共著)
「労働審判・示談・あっせん・調停・訴訟の手続きがわかる」(自由国民社 共著)
「自己破産・個人再生のことならこの一冊」(自由国民社 校閲協力)
執筆者の記事
この記事に関連するキーワード
関連カテゴリから探す
-
団体向け研修会開催を
ご検討の方へ弁護士会、税理士会、法人会ほか団体の研修会をご検討の際は、是非、新日本法規にご相談ください。講師をはじめ、事業に合わせて最適な研修会を企画・提案いたします。
研修会開催支援サービス
Copyright (C) 2019
SHINNIPPON-HOKI PUBLISHING CO.,LTD.